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終わるアリスの刻 -Mystic Princess  作者: 真代あと
第五話 封印図書館

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5-3 古きもの共の出会い

・ ××


 目が覚めると、――。




 ――そして私は誰なのか。

 それを教えてくれる人を、

 私は待っています。


 どうか見付けて下さい。

 貴方を見る事が出来れば、

 私も自分を見られます。




 目が覚めると、そこは薄暗い所だった。


 ……立ち上がって、辺りを見回す。

 暗い。床はカーペットのようなものが敷かれた所で、私は倒れていた。左右には壁があって、前は通路になってるようだけど、目が暗闇に慣れてないからよく解らない。

 ……なんなんだ。私は一体どうした?

 思い返してみる。確か、そう、あれは私の部屋に着いたって時の事。部屋の扉の前に不意に出て来た大きな穴に落ちたとばりを追って来たんだ。それはいい。そんなのはいつもの事だし、珍しい事じゃない。アリス症候群――あの子のは、そのあとにプラスが付く程の重症なんだけど。

 ――アリス症候群。

 正式名称は、不思議の国のアリス症候群と、微妙に長ったらしく語呂の悪い名前になる。

 その症状は、実はあまり珍しいものじゃない。元となったお話の中には、主人公であるアリスがある飲み物を飲むと体が小さくなり、ある食べ物を食べると体が大きくなる、という描写がある。

 この症候群はそんな描写になぞらえたもので、自分の周囲のものが実際よりも大きく見えたり、或いは小さく見えたりと、まるでアリスが体験したような事と同じような感覚に陥るという症候群らしい。体感するのは幼少期に多いという。

 佐倉とばりはアリス症候群だ。但し、その症状の重さがまるで違う。

 私は彼女の症状を、アリス症候群プラスと呼んでいる。確認例の極めて少ない程の重い

症状が、現在進行形で彼女には存在する。

 ……そう。そんな彼女を追って来て、今私はここに居る。この謎空間に。

 だけどさっきの変な記憶はなんだ? 真っ暗な中で、小さい白い点が幾つもあって、足の付かない、なんだかふわふわと浮かんでいたみたいな感じが、

「――それはね。君が宇宙空間に一秒程居たからだよ」

 突然、どこかから女の子の声がした。

「誰!?」

 辺りを見回す。するとくすくすくす、と含んだような笑い声が返って来た。

「私が誰か。そんなものは今はどうでもいいんだよ。どうしてもと言うなら、道先案内人とでも言っておこうかな」

 案内人って。一体こいつはどこを案内するというのか。

 そもそも正体が不明だ。声はすれども姿が見えず。信用なんて出来る筈がない。

「信用して貰う必要はないけれどね。少しくらいは感謝してくれてもバチは当たらないよ。あと数秒助けるのが遅かったら絶対に死んでいただろうからね」

 心を読まれたように、その声は答えた。

 胡散臭い。でも、これが本当の事を言ってるとしたら。

 確かに、さっきのイメージは、例えるなら乾いた水の中に浮かんでいたとか、そんな感じだ。

 あれが、宇宙なのか?

 だとしたら、

 死んでる。

 生身で宇宙空間に放り出された人間がどうなるかなんて、私は知らないけど。

 空気のない、真空状態。

 やっぱり死んでる。

 想像に難くない。例えば水中にずっと居るって事を思い浮かべれば、息が出来ないだけでも長く生きられないのは確定だろうし。

 加えて、気圧ゼロの空間。温度とかも無茶苦茶の所。放射線もたっぷり。

 そこに一秒程居た、とさっきの声は言った。

 よく死ななかったなあ私。

「一秒程度じゃあ死なないね。それ以上掛かる前に、私は君を助けられた。タネとかは聞かないでいいよ。どうせ理解は出来ないだろうからね」

 理解出来ない。確かにだ。生身で宇宙に出て、それを助けられたなんて話は聞いた事がない。そもそも生身で宇宙に出たという事案自体、聞いた事ないんだけど。

 この女の子の声はなんなんだろう。

 いや、そんな事より。

 そもそも、どうしてそんな、宇宙に放り出される事に?

「全ての物事には意味がある。君も己の境遇を大切にするといいよ」

 私の疑問に、先回りするように声は答えた。

 ……答えになってない、という気もするけど。

「ああそうそう。“出口”はここに変えておいたから、もう宇宙に出る心配はしなくていいよ」

「どういう事よ」

 声を探して辺りを見回す。すると後ろの方から、ずずずず――と音がして。

 振り返ると、声が言った通りに、その床に“出口”の穴があった。

 薄暗い中に、黒い穴。だけど解る。はっきりと。なぜか。見えるからだ。

 くすくすくす。

「これはサービス。君ももう一度死にそうな状態になんてなりたくないでしょう?」

 そりゃそうだ。死にそうな状態って、勿論そんな状態にはなりたくない。宇宙ってのは未知のロマンがあるし興味もある世界だけど、流石に生身で行くなんて、自殺行為以外の何物でもない。それはよく解る。

「まあ、その事はありがとうって言っておくよ」

 胡散臭さは消えないけどな。

 くすくす――と笑い声が聞こえて。

「じゃあ、またね」

 それだけ言って、くすくすという笑い声も薄く、遠ざかっていった。

 ……またねってか。まるで明日にでもまた会うみたいな気軽な言い方だったなあ。

 まあいいや。あれは私に危害を加えるとかはなさそうだし。寧ろ話を聞く限り、言ってた通りに助けてくれた側だと思う。

 ――それよりも。

 周りを見回してみる。

 さっきまでは混乱していたけど、目が暗闇に慣れて落ち着いて来ると、ここが如何に異質な所なのかが解って来る。

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