5-2 紅い刻の中で
――外は夕方。日の光は低く、真っ赤な夕焼けになっていた。その夕焼け道を、とばりと私、二人で歩いていく。
「……お陰で私まで怒られたじゃないですか」
歩きながら、とばりが非難の声を向けて来る。
「……ごめんなさい」
しゅん……と気落ちしてしまう。情けないなあ。私はとばりの家庭教師だってのに。
「……まあ、反省してくれたならいいんですけれどね」
小学四年生に諭される大学三回生の図。
やっぱり情けない話ではある。
「でも本当、これからどうやってあの店に行けばいいんでしょうね」
「……本当ごめんなさい」
容赦なく口攻撃を加えてくれるとばり。
だけど非があるのは私の方だから、何も言い返せない。只謝り続けるだけだ。
「いいですよ。あのお婆さんは優しい人ですから、許してくれます」
「優しい……」
って本当かなあ。だとしても、とばり限定の優しさだと思うんだけど。
「……今、何か失礼な事を考えたでしょう」
うわばれた。
「いやいや。全然ソンナコトナイデスヨー」
ばればれな言い訳を試みてみる。
「……まあ、いいですけれどね」
呆れたような口調で言って、とばりは前を向く。
「それよりさ、このあとどうしよっか」
時刻は夕暮れ時。西に落ちていく日が少し赤みを帯びていた。
今日は家庭教師の仕事はない。とはいえ折角こうして会えたんだから、何かしら遊んだりしたいとは思う。もう小学生は帰る時間と言うけど、ちょっとくらいならいいだろう。私も付いていてあげる事だし。
「どうしようも何も、私は本を読みたいのでもう帰りたいなあとは思うんですけど」
「えー、ちょっと遊んでいこうぜー」
「そんな我侭を言われても」
「お願いお願いー」
とばりの肩を揺さぶって、必死に遊びたいアピールをする。まるで駄々っ子みたいだよな。自分の事ではあるんだけど。
「はあ……解りましたよ」
そして遂に、とばりが折れた。
「やったー」
子供のように、思わず飛び跳ねてはしゃいでしまう私。
やっぱり、とばりの保護者として疑問に思える話ではある。
「……そんなにはしゃがなくても」
とばりからも駄目出しを喰らう。
やっぱり(以下同文)。
「とばりはしっかりものだねえ」
「そんなお婆さん口調で言われても」
だって事実だもの。思わずお婆さん口調になってしまうのも致し方のない事なのだ。
「で、どうするんですか? 私としては早く帰って本を読みたいんですけど」
「えー、一緒に遊び倒すっていう選択肢はないのー?」
「私個人としてはないですね」
なんて薄情な。ねーちゃん情けなくって涙が出てくらあ。
「だったらさ、私の部屋に寄ってかない?」
「……時子の部屋、ですか」
口元に手をやり、考え込む仕草をするとばり。
「うん。ここから近いし、部屋だったらゆっくり本も読めるでしょう?」
「……で、その本音とするところはなんでしょう」
「とばりと遊びたい!」
本心そのままの叫びが口から出た。
「はあ……」
呆れたようなとばりの溜息。
「まあいいですよ。さっきも了承した事ですし」
こうして私は、とばりの了解を得たのだった。
「ようし、じゃあ私の部屋へ、れっつらごー」
「はあ……」
やる気のないとばりの手を引いて、私は足取り軽く、そしてとばりは足取り重く、二人で私の部屋へと向かう。私達の住んでいる家は、古本屋からでもそう離れていない。十分もあれば着く所にある。
「ふんふーん、ふんふんふーん」
まだまだ今日は楽しくなりそう。二人で歩いてるってだけでも、変な鼻歌だって出て来るってもんだ。
「上機嫌ですね時子」
そのさまを、隣に居るとばりは顔を向けないままで言った。
「そりゃあね。私の部屋は敷居が高いんだよー」
友達は何人も居るけど、思い起こせば人を呼んだ事ってあんまりなかったなあと思ったり。別に部屋に人を入れるって事に抵抗がある訳じゃないんだけど。
「そのメロディ、なんの曲なんですか? 私は音楽に詳しくはないんですけど」
そうなのかな? 私は知ってるぞ。とばりには密かにクラシックをたしなむ趣味があるんだって事。特に静かな曲、それを聴きながら、本を読む事もあるらしい。
「友達の家でやらせて貰ったゲームの音楽。えー、なんの音楽だったっけ、時――」
「大丈夫です。ゲームはもっと解りません」
はっきり言うなあとばりちゃん。思い出そうとした私の労力って一体。
「さいですか」
興味の指向性が極端なんだろうな。この年頃でゲーム好き、今では全然珍しいものでもないってのに。
「よし到着」
数分程度で、歩いて我が家へ。さてさて今日は、どんな楽しい事が待ってたりするんだろうねえ。




