1-27 エピローグ
こうして、私はこの事件の実態を知る事は出来なかった。
真相は確かにあったんだろうけど、それは既に終わった事だ。三年も前から、もう続く事はない。
死者を漁るような真似もここまでだ。だけど、
あの二人は失敗したな。
私達の間には、あの時に接点が生まれたんだぞ。
これで、私の興味は別の事に移っている。そう思っているんだろうけど、だけど私は思い出したんだ。そうすれば、またもう一度、同じものに触れられる可能性も充分にある筈なんだから。
それに一応、私にも切札ってものがある。
――木を隠すには森の中。
じゃあ例えば。どうしても隠しておきたいものがあったとして、それはどこに置いておきたいと思うだろう。
決まってる。出来る限り人目に付かない所しかない。例えばえろい本を、哲学書と一緒に人目に付く本棚に並べるか? 例えば死体を隠すとしても、町中か山奥か、選べるのなら山奥の方を選択するのに決まってる。
じゃあ。それが隠し事なら?
それも決まってる。木を隠すなら――という言葉と同じに、秘密中の秘密。幾つもの隠し事の、その最奥に置いておきたい筈だ。
あの声の主は幾つもヒントを出した。出来る事ならそれさえも隠しておきたい情報だった筈だろう。だけどそれでも本命の事となると、一つ目二つ目とか、気軽に目に付く所に隠していたりはしない。
……折角向こうから来てくれたんだ。もう少し探れれば、そして詳しく思い返せば、真相への道筋だって、頭に浮かんで来たかも。その内容がオカルト的な回答だとするなら、常人には考えの付かない、特別な道筋なのだとしたら、そこに至れるのは同じくオカルトに関わりの持てる私が――。
――まあ、この辺りでやめておこう。
墓荒らしにはもう飽きた。もやもやした気分は残るけど、私はそればかりを追求していける程暇でもないし。恐らくあの子は、そうした私を止めてくれたんだろう。そう思うよ。見も知らない誰かさん。或いは“五十喰い”さん。
それに、この故郷に来てやるべき事はまだあるんだ。
……今日はお盆だ。
・
――別のお話になるんだけど。
私の実家、この辺りには、一つ大きなお寺がある。そこに並んで墓場もあって、そこはこの村の人間、殆どが利用している場所だった。お盆の日ともなると、ご近所さんがみんなして集まり、お墓に手を合わせていく姿がよく見られる。
だけどそれは昼間の話。
この当日。
本当は家族みんなでお参りをする筈だったんだけど、私だけ時間に遅れてしまった。その罰として、私一人でそこのお墓参りに行ってきなさいという話になってしまった。
勿論、この日の間に。
勿論夜に。
我が両親は何を考えているんだろう。霊感体質なのは前に述べた通りで、それは家族もよく知っている訳なんだけど。霊の存在が解る、だからと言って夜の墓場が全然平気――というのは違う。
はっきり言おう。怖い。
見えるから、感じるから余計に怖い。
ましてやお盆だ。真っ只中だ。そーいう方々があの世から帰って来る日だ。
暗い墓場の中、自分の家のお墓に行くまでに、いろんな人とすれ違った。もしかするとそれは人であって人じゃなかったのかも知れない。確かめる気も起きないな。夜の墓場にたむろする連中――と言えば、それはちょっと違う感じがするけど。どこかの歌のように、夜の墓場で運動会――とまでは行かなくても、身近な誰かと世間話、なんて陽気な事には絶対にならないし。みんな陰気な雰囲気で嫌になって来る。
それだけならまだいい。よく言われる、幽霊が見えてる事を気付かれたらいけない、という話がある。奴らは構われたがりだから、自分の姿を見える、認識していると解れば、来るぞ。そして絶対にろくでもない事になるんだ。取り憑かれてなんやらえらい目に遭うのに決まっている。昔、そうなった奴を見た事がある。お墓に肝試しに行った時、背中に何かがおぶさっていて、訳も解らずに苦しくなったり気分が悪くなったり。向こうには悪気はないんだろうけれど、だから余計にたちが悪いんだ。
でもいい事もある。
それは私が、この霊感体質が決して間違ったものでないのだと信じた切っ掛けでもあった。
自分の家のお墓の前に着いた時。
こっちに帰って来た爺ちゃん婆ちゃん――その姿を見ながら、本当に、面と向かって挨拶が出来るのは、今のここだけなんだから。
・ 数日の後
その時を境に、
不思議な、或いは荒唐無稽なお話が、幾つも幾つも出て来るようになった。
実家から自分の部屋へ、一人暮らしの場に戻ってから、毎日毎日文章を書き殴る事が出来て、いわゆるスランプというものからは脱却出来たのだと思う。恐らくだけど、これはあの時の興味、体験が、決して無駄な事じゃなかったという証明なんだろう。
その喜びの表現とでも言うべきか。その日の夕飯は、いつの日かとばりの言っていた、あな重にしてみた。丼ぶりの入れ物に、ご飯たっぷり、その上には焼き穴子と、鰻の蒲焼のタレを目一杯ぶちまけて。
おいしゅうございました。
「良かったじゃないですか」
いつもの事。教え子である小学生、佐倉とばりの部屋にて。
勉強を見ながら、ひたすら机に向かって私の出した問題を解き続けるとばりに、あの時の事のあらましを話していた。
今の言葉は、その感想。或いは気の利いた皮肉なのかも知れない。
「まあね」
スランプから脱却出来たのは事実。それだけでもまあ、価値のある時間を体験したと思えるけども。
「謎が解けなかったのは、まあ心残りなんだけどさ」
「それは本気で望んでいた訳でもないんでしょう? だから私に、こんな不完全なお話を聞かせているんでしょうから」
確かにな。望まれるべきオチがない話なんて、本来は評価される以前の問題になるんだろうけど。
それでも私は、私の知り得た全てを書き記した。不完全なお話、それもその通りだ。
だけど、私は楽しかった。
それでもいいと思う。一度だけの人生、出来うる限り楽しさを追求していくべきだ。
「まあ、全部が全部綺麗に終わる話ばっかりでも、ねえ」
この世には、数限りないお話がある。楽しい話も悲しい話も腐る程。
こんなお話だって、この世のどこか隅っこにあってもいいじゃないか。
「時子がそう思えるなら、それでもいいとは思いますけれど」
そう。私には信念がある。“読んで貰う為にお話を書く事”。勿論、それで食っていければそれに越した事はないんだけど。
「うん。まあ精々頑張ってみるわ。青春なんて短いもんなんだから」
それが私の今生きている意味。私の一度っきりの人生、そこに最大限に力を費やしていってやろうじゃないか。
そしてそれは、今目の前に居るとばりにとっても同じ事。この子はまだ幼いんだから、未来は幾らでも見る事が出来るだろう。
「とばりも勉強頑張らないとねえ」
まあ言うまでもない事。
「……努力はしてみますよ」
とばりはそう言ってくれる。この子に足りていないのは自己開示能力だけだと思う。
黙々と勉強を続けるとばり。その姿を後ろで見ている私。
いずれこの子は私の後ろを追い駆けてくれるんだろう。そんな未来になる事を、私は望んでいる。
そしていずれ、同じ道を歩んで行けたなら――。
……いや、それは高望みか。この子には自分の道を選ぶ権利がある。無理に私に付き合わせる事はない。
今この場に一緒に居る事自体、奇跡的な出会いからか、或いは必然的な出会いとして考えられるのか。
……解らないけど。でも今この二人で居る時間、これには間違いなんてないと思う。
私はこの子が大好きなんだからな。




