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家具や荷物の殆どない、殺風景な部屋の中、ちゃぶ台にカルピス入りのガラスコップを置いて、二人で卓に座る。
「じゃあ早速、噂の事について聞いてもいいかな」
言葉を聞いて、京香も口を付けていたコップをちゃぶ台に置く。中身はもう半分にまで減っていた。この子カルピス好きだからな。
「はい。少し長い話になりますけど……私が聞いたのは、大きく四つの噂です。
それぞれ別人なんですけど、女の子が二人、亡くなった事になってます。勿論、そういう噂が立ったというだけで、その子達はしっかり生きてます。時期も別々です。どうしてそういう話になったかは解らないんですけど。
もう一つ、似てますけど、女の子一人が消息不明になったっていう話もあります。この人が……なんというか、私の知ってる人で。本人もどうしてそういう話になったのかって不思議がってました。勿論実際に消息不明になってはいません。これは私も保証出来ます。絶対です」
……なんでそこ、凄く強調するのかな。知ってる人って言ってたけど、その子と仲が良かったりするんだろうか。
いやどっちにしろ、これが喫茶店で言ってた“変な噂”ってやつなんだろうな。
「因みにこれら、噂の発端は一月ごとにっていう関連性もあります。最初が十月終わりで、十一月終わりが行方不明、次が十二月の終わりって、一月ごとに噂が立ってました」
へえ、変な法則がある訳だ。噂と関係あるのかは解らないけど。それは考えても仕方ないかな。
「最後にですけど、これが一番大きく広まった噂です。加えて生徒でなく、その親御さんからの伝聞なんですけど。
三つ目の噂の二ヵ月後、二月の末に、学校で全く人気のなかったみたいなお昼休みがあったらしいんです。私にはそんな覚えはないんですけど、外に誰も居ない、お昼休みで遊ぶとか、そうした騒ぐ声とかも全然聞こえなかったっていう時間があったらしいんです。勿論、雨の日とかじゃありませんよ。お昼終わりのチャイムが鳴って、そうしたら体育の授業で、生徒の声がしたって、そんな話を近所の人から聞きました」
……どういう事なんだろう。一番大きな噂だって言うなら、生徒の間でも語られていても――というか、二月の末って、例の少女Aが亡くなった頃だよな。
……何か関係が? とは思っても、その繋がりが全く見えて来ないんだけど。
「どういう事なのかって、その原因は解りません。実際にそういう事があったっていうのは、私は見た事ないですし。寧ろ噂じゃなくて、いじめ――っていう憶測もありましたけど、そんな感じでもなかったです。その人達の仲の良さは有名でしたし。
訳の解らない噂だとは思います。だけど事実じゃないのに、多くの人に知られているんです。どうしてこんな噂が広まったのか、それは解りません」
――前置き通りの長い解説が終わって。さてこれはなんだろうと思案する。
最初の三つに関しては、極単純に、単なるいたずらじゃないだろうかと推察出来る。
勿論それが完全な解答だとまでは思わない。一番現実的な考え方だろうと思うだけで。それに、最後の一つで一足飛びに規模が大きくなっている。
個人個人の話でなく、学校全体だ。勿論これもデマならデマで、すぐに解決する問題なんだけども。
そうした結論が出て来ない。結果と経過が異なったまま、噂だけが一人立ちしている。
噂の出所がはっきりすればいいと思う。だけど最後の噂の出所は、いわゆる第三者。学校と直接関係のないおばちゃん達(多分)だ。
こうなると信憑性も何もない。火のない所に煙は立たずと、或いは真相は闇の中といった具合に、答えのないまま、憶測だけがどこまでも広がっていってしまう。
成程これは噂が残る訳だ。片方が肯定、片方が否定している噂、それは永遠に平行線を辿る。真実である。嘘である。その答えが争い続け、その不可思議さが今の今まで噂として残しているんだ。
そんなものの真相を考えても解らない。解る筈もない。
だからゆっくり、お風呂に入りながら考えてみる事にした。こうした方が頭が良く回るんだ。暑い中での熱いお湯、頭も湯立って来るけど、そうならないよう、水分は事前に多めに取っておきましょう。
京香は今、八幡と話をして貰っている。あの子らも幼馴染ではあるからなあ。恋仲とかになったら面白いのに、そんな気配がまるでない。何よりも京香が百合っ子属性だしなあ。八幡の方も奥手っぽいし、合いそうにない二人、って言えばそうなのかも。仲が良くないって訳じゃないんだけど。




