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終わるアリスの刻 -Mystic Princess  作者: 真代あと
第一話 草葉影の狼

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1-16

 冷麦と、結局はにゅう麺も食べて、お腹いっぱいになりました。

 おいしゅうございました。

 そのあとは流石に麻雀はやらなかったけど。時間掛かるし疲れてるしな。その代わりに私は八幡の部屋で、コロすけと一緒に遊んでいた。八幡は今ここには居ない。お風呂に入ってるんだ。と言っても別に八幡は私みたいな風呂好きじゃない。日に何度もお風呂に入る訳でもない。普通にお風呂に入ってる。

 ちゃぶ台に乗って、私と向かい合うコロボックルさんの人形――今は、その中には里香さんという、それまでと別の人格が入っているんだ。或いはそれまで入っていた、コロすけと魂を共用しているって事なのかも知れない。

 その事実を知っているのは私だけだ。この子のご主人様である八幡は、それに全く気付いている様子がない。

「報われないよねえ。あんたも」

 ちゃぶ台の上に座っているコロすけに語り掛ける。これが前の人形――りかさん人形に入っていた時の里香さんなら、なぜか受け答えとか、お話とかが出来たりしていたんだけど。

 ……まあ、こうなってしまったものは仕方がない。依り代が変わったとしても、ここに留まる理由が里香さんには出来たんだろう、と思う。

 ――その時、がらっと部屋のふすまが開けられる音が。

「あれ、姉ちゃんまたここに居るの?」

 八幡の声。どうやらお風呂から上がって来たらしい。八幡は私と違って、早風呂な傾向があるんだ。体を洗って頭を洗って、少しだけ湯船に浸かってすぐに上がる。私には真似出来ないなあ。私なら湯船に浸かるだけでも一時間とかあったりするから。

「うん。ちょっとコロすけと遊びにねー」

 本来の目的とは少し違うんだけどな。

 というのも、なんとかコロすけと上手くコミュニケーションを取れたらと思って、色々と試そうと思っていたんだ。

 具体的には、喋れないので文字にするという形。双方が理解出来る筆談だ。だから紙と筆記用具を色々と持って来てたんだけど。

 ところが、コロすけのサイズでは鉛筆とかボールペンとかは大き過ぎた。片手では持てない。両手だと、今度はバランス的に書きにくいらしく文字にならない。

 さてどうしたものか。意思疎通の手段として、これは考えねば。

「うーん……」

 考え込む。

「ってそんな考え込むの? 遊びなのに」

「切実な問題なんだよ」

 確かに遊びって言ったのは私だけどさ。

「なんだか解らないけどさ、あんまりコロすけに無茶させんなよ?」

 それもそうだな。この子の言いたい事が解ればっていうのも、結局は私のエゴな訳だし。無理を強要するってのもちょっと違う気がする。

「私、もう一回お風呂入って来るわ」

「また入るの?」

 八幡が呆れたみたいな声で訊いて来る。ここに来て何回目だよ、と表情が訴え掛けているみたいに見えた。いやその感想はもっともだけど。

「ちょいと頭を冷やしにね」

 余計茹だるかもだけどな。

 色々と考える事があるんだ私には。少女Aの事だとか、学校の噂の事だとか、コロすけの今後の事だとか。

 それらの事を考えるのに、一番適しているのはやっぱりお風呂の中なんだ。とにかくリラックス出来る。そうした状態で物事を考えた方が、ひらめきが出て来る。そんな気がするんだ。




「あ」

 平仮名の一番目。只一文字が、唐突に口から発せられた。

 お風呂場の脱衣所で、服を脱いで、いざ入ろうとするその時。本当唐突に、電球がぱっと点くように頭にひらめきが浮かんだんだ。

「そうだペンだーっ!」

 バスタオルを手早く体に巻き付けて、その姿のまま、八幡の部屋に向かってダッシュする。そして部屋のふすまをすぱーんと開けた。

「うおあっ! また!?」

 コロすけと遊んでいたらしい八幡が、驚いてこっちを向く。

「な、なんだよ姉ちゃんいきなり!」

 白いタオル一枚のみの、私の姿にうろたえる八幡。だけどそんなの構わない。

「ペンだよペン。その子にペン持たせよう!」

「は?」

 何を言ってるのか解ってなさそうな八幡。それもそうだ。ペンを持たせて失敗したのは、八幡もしっかり見てた筈。

 だけどこれは天啓なんだ。今やらねば意味がない。

「ペンの中身っ。貸してっ!」

 八幡の了承も得ずに、というか得る暇もなしに、私はちゃぶ台の上に放置されていたボールペンに手を伸ばす。

 必要なのはその中身。インクの入った芯の方だ。そっちの方は、ペン本体よりもずっと細い。片手でも持つ事は充分可能な筈。

 ボールペンの下、先っちょの方をくるくると回して外す。そうして芯の部分を取り出して、

「これでどう? コロすけ」

 それをコロすけに持たせる。そしてコロすけの目の前に紙を一枚置いてみる。

 人形姿のコロすけは、それを両手で掴んで、つたないながらも、紙の上にペンを走らせていって、

“こんばんは”

 そう、文字を書き切った。それはさながら、でっかい書道の文字を書く、みたいに。

「おお、すげえ」

 八幡が感嘆の声を漏らす。この子にまともな――というか人並みの意思があるんだって事、八幡は今まで知ってなかったろうからな。

「いやー、すっきりしたわー」

 満足満足。

 という訳で、

「じゃあ私はお風呂に入って来るわ。じゃーねー二人共」

 目的は達成した。意思疎通が出来る事は確認出来たんだ。これで気分良くお風呂に入れる事だろうて。

「それだけなんだ……」

 最後に、部屋を出て行く時に八幡の呆れ顔が見えた気がするけど、私の心は晴れやかだったから、全然オッケーだ。




 当面の目的――。

 少女Aに関する事件の顛末を調べる。

 学校での噂の真相究明。

 もう一度お風呂に入って来る。

 ご先祖様のお墓に手を合わせる。

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