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プロローグ:モノコードと共鳴




『東ノ塔ニテ火災発生。職員ハ至急事態ニ対処スベシ。繰リ返ス…』


けたたましく鳴り響く警報音で目を覚ました。慌ただしい足音が多数近づいて来るのが分かる。

火災…と言っていたな。

ドンドン!!

耳障りな音が次々と聞こえてくる。どうせ俺はあと数日で死刑になる。火事だからと言って騒いだりしない。

「死刑囚999号、三条早羽!!」

「はぁい…」

「錠を確認する!入るぞ!」

ギィィィとうめくような音を上げて分厚い扉が開かれた。逆光で影しか見えないが、いい体躯の警官が二人立っているのが分かる。

「動くなよ」

「分かってるって」


ドサッ…


「ん?」

突然、鈍い音がして、外から差し込む光が視界を潰した。思わず目を覆う。微かに、懐かしい血の匂いが漂ってくる。

「早羽!大丈夫でしたか?」

「おう!フェルか!」

警官どもを斬り臥せて独房に飛び込んで来たのは、一人の少年。顔立ちはまるで西欧のそれだ。碧眼がとても美しい。

「鍵はすべてアキが持っています。水乃の方はアキに任せました」

「やるね。さすがだ」

遠くで金属の擦れ合う音がする。銃声もする。新鮮だ。やっぱり外はいい。


何もかもで満ち溢れている。“死”に拘束された窮屈な部屋なんて、もうまっぴらだ。

今こそ、またとない絶好のチャンス。これを逃す手はない。

 

  −逃げよう−


逃げてまた、この欲望の世界を楽しもうじゃないか。

「アキと宗太に合流だ。ここから逃げる」


この瞬間から、長い長い夜が始まった。







−report−

某年月日

廃工場跡で敷地内のベルトコンベヤに手を加えた形跡あり。

昨夜午前2時前後に発砲音を聞いたという住民の証言に基づき、近辺を捜査。

特に収穫なし。


その後1週間張り込み捜査。

一向に手掛かりはなし。「なんだこの報告書は!結局お前は何をしに行ったんだ!?工場見学か??」

「す、すいません…」

「まったく、発砲音を聞いている住民がいるのに物証が上がらないわけがないだろう!もっと根性出して仕事しろ!分かったな?」

「はい…」

捜査本部が設置されてからはや1ヶ月。新任採用されて早々に捜査本部に入れてもらえるなんて、なかなかあることじゃない。気を引き締めていたつもりではあったが、どこかに浮かれた気持ちがあったのかもしれない。本部長には怒られてばかりだ。

「よっ!また宮国本部長に怒られたのか?」

「なんだ…綾祈先輩か」

「なんだって何だよー。せっかく簗ちゃんのこと励ましに来たのに」

自分【簗 凌介 (やな りょうすけ)】は、ある麻薬密売組織を逮捕するための捜査本部に勤務している。そして今隣にいるのは2つ年上の先輩【綾祈 悠人 (あやき ゆうと)】。陽気で気さくな人柄が慕われており、部下からも上司からもウケはいい。よくよく頭も切れる人で、警官としても有能だ。

「先輩はいつもどうやって捜査するんですか?教えてくださいよ」

「いやぁー、俺に聞いてもあんま参考になんないよ?それでも聞く?」

「だって俺、先輩が失敗したの見たことない」

−参ったなぁ−。そんな表情をして綾祈はクスっと笑う。少し考え込むような素振りを見せた後、ふと顔を上げ、無邪気にこんなことを言った。

「俺には優秀な二人の部下がいます。一人は鷹の眼をもつスナイパー、もう一人は機動力抜群の密偵。捜査のときはいつも3人一緒」

「はぁ…」

「簗ちゃんに足りないものは何なのか。考えたことある?」

「ない…ですね」

「じゃあ考えてみなよ。そんでそのあと、周りをじっくり見ればいい」

綾祈は自信満々でそう言い切る。つまりは仲間を探せということなのだろうか。自分に足りないものを補いあえる仲間を。

「共同戦線、か」

頭では分かっていても、実際にそんな人が周りにいるのだろうか。いたところで協力し会えるのだろうか。

仕事場に戻っていく綾祈に軽く頭を下げ、もう一度、よく考えてみた。

「…はぁ」

重いため息が意志とは関係なしに溢れ出る。ま、1年目なんてこんなものか。


とりあえず、本部内で話の合う人を見つけよう。まずはそこからだ。

「…よし!」

簗は少し力んだ足取りで歩き始めた。



−プロローグ モノコードと共鳴 end −

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