赤い花
短編、『赤い花』をちょっとだけ加筆したものです。内容はかわりませんので既読の方はスルーしてください。
むかしむかし、ある国のお城にきれいなお姫さまがいました。
お姫さまは生まれた時から体が弱く、自分のお部屋と窓から見える四角い中庭だけがお姫さまの世界でした。
四角い中庭のまん中には小さなまるい池があって、池の中に立つ石像の女神さまが両手で支える瓶の中から水が流れ落ちていました。
池の周りには花壇が4つ。4つの花壇の花は春、夏、秋、冬、4つの季節ごとに赤、黄、青、白と色を変えていきます。
今は冬なので窓から見える4つの花壇の花はみんな白い花を咲かせています。その白い花の花壇に囲まれた小さな池に立つ石像の女神さまは北風にさらされとても寒そうです。
――女神様、寒そうでかわいそう
「ケホ、ケホ。ケホ、ケホ」。お姫さまが咳をすると、口に当てたハンカチに赤い血が付いていました。
――もう一度、赤い花が見たかった
お姫さまのほおに涙がひとしずく落ちました。
次の日も
「ケホ、ケホ。ケホ、ケホ」
お姫さまが咳をすると、口に当てたハンカチに赤い血が付いていました。赤い血は昨日よりももっと多くなっていました。
――もう一度、赤い花が見たかった
お姫さまのほおに涙がふたしずく落ちました。
その次の日も
「ケホ、ケホ。ケホ、ケホ」
お姫さまが咳をすると、口に当てたハンカチに赤い血が付いていました。赤い血は昨日よりももっともっと多くなっていました。窓から見える石像の女神さまは寒さのためにつららが垂れ下がっています。
――もう一度、赤い花が見たかった。女神様、私の願いをかなえてください
『おひめ様、わたしはお庭のお池の中に立つ石でできた女神です
お池の中は寒くて寒くて凍えそうです
お姫さまの着ているガウンをわたしに着せてくださいな
ガウンを着せてくれれば、お庭の花壇の花を赤くしてあげましょう』
お姫さまは四角いお庭に生まれて初めて自分の足で出ることができました。お部屋から庭に出る扉は普段は鍵がかかっていたのですが、今は鍵がかかっていませんでした。
お姫さまは、冷たい水の張った丸い池の中に素足で入って行き自分の着ているガウンを石像の女神さまに着せてあげました。
女神さまの持つ瓶から流れ出るつめたい水がお姫さまの着ている寝間着にかかります。
次の日の朝、四角い庭の4つの花壇に咲く花の色は、みんな赤くなっていました。