手紙を書き続ける理由
夕日が透けて読みにくい便箋を見ながら「明日は晴れか…」そんな事を考えていた…薫が「優希?いる?」そう言いながら教室に入ってきた。私はとっさに便箋を隠した。それを見て薫が「優希。何で今時紙に手紙なんか書いているの?」と続ける。ごもっとも。郵便は20年も前に廃止されたし、AR技術が進んだ今、わざわざ紙に印字する事さえ稀な事。ましてやかつてEmailと呼ばれていたものが手紙と呼ばれそれさえも廃れはじめている。紙に手紙を書くという行為は奇異以外の何物でもない。けれど、彼には住所さえ残っていない。クレームを出したくてもこうするしかないのだ。「隠す事ないのに。もしかして…?」という向い水に「そういう事にしておいて。」そういって逃げる事にした。いくら何でも読まれるわけにはいかない内容だからだ。
優希へ
あなたがお勧めって書いていたレシピ。
なんなのあれ?ひどい味だったんだけど?
今度こんな罠仕掛けていたら許さないからね。
優希
事情を知らない人に見られたら病院に連れて行かれかねない内容だ…誤解させておくのが賢明…とその時は思った。