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歪な箱庭(仮)  作者: 主食がお菓子
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七不思議

職員室を訪れると、すすり泣く人がいた。


「いい加減なれましょうよ、燈先生。ほら、いつもの事、いつもの事」


さっき保健室にいた女の先生が蹲り泣いている。それをめんどくさそうになだめる西山先生の姿があった。


「そんな…ヒック、彼はまだ3日ですよ? たった3日しか、うぅ」


「それも運。それとも何? 燈先生が身代りになってくれんの? そういえば、Dクラス落ちしてましたね」


「い、いや。なんで、なんでそれを」


「ほら、俺。ここ長いんで。退職の際は涙を流してあげますよ」


「なによそれ、他人事だと思って面白がって。人でなし」


「他人事だもーん」


そう言い、髪を撫でたかと思うと、パサリと、髪が切れた。手にはナイフが見える。


「ったく、鬱陶しいんだよ。髪も涙も生徒想いの優しさもな」


ガタッと机を蹴り、俺の方へ向かってくる。


「あ、見てた? 」


へらっと笑うその顔が、怖くて仕方なかった。


「意味わかんないでしょ? 安心して、時期分かるようになるから。後これ、どうぞ」


渡されたのはAクラスの名簿だった。


「あ、この線引いてあるのは、退学した子だからもう教室にはいないから。俺たちの仕事は、毎日朝昼夕の三回生徒の確認をするだけだから」


「名前呼んでいるかどうかチェックするだけの簡単なお仕事でーす」


ケラケラと笑いながら、職員室を去っていった。


「チェックって。あのー、失礼ですが、この大鷹 雄二 (おおたか ゆうじ) って人はなんで退学になったんですか? 」


燈先生だっけ? その人に近寄りそう声をかける。


「自主退学と聞いています。学生は入学後、親の反対やトラブルによって退学する割合が高いのです」


眼鏡をくいっとあげながら、教えてくれたこいつは誰だ?


「あ、私Cクラスを受け持つ東堂 光 ( とうどう ひかる )と言います。お見知り置きを。それにしても、貴方はラッキーでしたね。たまたまAに空きが出来て。じゃないと、彼のように1週間ももたないでしょうから」


「は、はぁー」


なんの話だ?

なに、イジメとかクラス崩壊とかしているのか。それで、鬱になって辞めちゃう奴が多いとか?


「お互い頑張って生き残りましょう」


握手をされ、ただ呆然とした。


「そろそろ、朝の点呼の時間ですな。では、私はこれで失礼します」


「わ、私も行かなきゃ」


涙で化粧が崩れてしまっているが、直す暇もなく行ってしまった。と、俺もAクラスに行かなきゃ。


名簿を開くと、校内の簡単な地図が挟まっていた。西山先生、気遣いの出来る大人かよっ。


【 A組 】


プレートを確認し、深呼吸をしてから中へ入った。ざわついていた教室は静まり返り、見れば全員きちんと席に座っている。


ぽつんと空席が目立つ。あそこの席がきっと彼なのだろう。一つ咳払いをし、自己紹介をする。


「今日からこのクラスの担任になります。比嘉 幸太郎です。では、今から名前を呼ぶので返事をしてください」


次々と名前を呼び、返される返事になぜか安堵する。名簿を読み終え、次に何をすればいいのか悩んでいると……


「あの、点呼終わりましたよね。もう移動してもいいですか? 」


「え、あ、どうぞ」


そう答えると、ぞろぞろと教室から出て行く。

なんだこれ。


その光景をポカーンと眺めていると、


「幸太郎先生だっけ? 驚くよね。私も昨日先生と同じ顔してたよ」


声を掛けてきたのは、確か林 友梨奈 (はやし ゆりな )さんだった。ポニーテールが特徴の16歳ぐらいの子だ。


「昨日って事は、転校生か」


「そうそう。公立通ってたら、いきなり手紙が来てびっくり。学費無料だし、お母さん大喜びでさ。私の家お父さんいないから、こっちで頑張ろうと思って転校してきたの」


ほう、家族想いのいい子じゃないか。


「林さんは、移動しなくていいの」


「いいのいいの。ここって凄いんだよ。自由にやりたい事をやりたい時間出来るんだ。同じクラスでもみんな勉強内容がバラバラなんだよ」


そりゃ凄い。羨まし過ぎる。


「でも、大鷹くんは辞めちゃったの。昨日しか見てないけど、クラスにも溶け込んでて楽しそうだったのに」


退学理由は誰も知らないそうだ。特に仲の良かった生徒は、ショックを受けていたらしい。でも、よくある事なんだとも言っていたそうだ。


「あと、クラス替えもちょくちょくあるよ」


聞くと、Aクラスから他クラスへ変わる事があるそうだ。けど、他クラスからAクラスへの移動は滅多にないそうだ。何かの順位分けでもしているのだろうか。


そういえば、職員室で燈先生がDクラスに落ちた事でショック受けてたな。


「あとね。この学校にもあるらしいの」


「なにが? 」


「七不思議ー」


よく聞く花子さんやら動く骸骨とかそういう類のモノかと思ったが、ちょっと違った。


「異世界に繋がる扉が何処かにあるんだって。その扉を開けた生徒は二度とこっちに帰ってこないとか。あと、迷宮廊下でしょ。狼の遠吠えとか、そんな七不思議聞いたことないよねー」


「あはは、本当そう思うな」


あれ? 迷宮廊下って俺の体験したアレでは。


「いけない、そろそろ私も移動しなきゃ。じゃあ、先生次はお昼の点呼だね。バイバイ」


お昼の点呼か。それまで何していればいいんだ?


とりあえず、職員室に戻る事にした。戸を開けると、ゴム手袋をする先生たちの姿があった。


「お疲れ様です。何してですか?」


「おー、お疲れ。見てわからん。これから清掃に行く事になった。お前も付いて来い。ほれ」


投げ渡されたゴム手袋を渋々身につける。


「清掃ってトイレ掃除ですか。それも教員の仕事なんですか」


「まぁ、行けばわかる。ほれ」


次に投げ渡されたのはマスク。さらに着替えろと作業着まで寄越された。どんだけ汚れた場所に連れて行かれるんだろう。


めんどくささが表情に出ていたようで、


「しっかり準備しとかないと後悔するぞ」


と、釘を刺された。


バケツにデッキブラシ。トングなどを持ち静かな廊下を歩く。


「あ、教員パスはしっかり首から下げとけよ」


ポケットに突っ込んだままだったのを思い出し、首にかけた。これになんの意味があるのだろう。


「さてと、ここを曲がれば…おおあったあった」


「コレって」


「あ、もしかして生徒から聞いた? "異世界へ繋がる扉"の話」


その場に合わない真っ赤な扉が存在していた。

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