幸せとは
「よぉ、目が覚めたか」
気づけば、ベットの上にいた。見知らぬ男が顔をのぞかせる。冷たい吐息が頬を掠める。
「ここは? 」
「国立専門学園の保健室。勤務初日から気絶とか、勘弁してくれよ」
「すみません」
あれ? 俺なんで気を失っていたんだ。確か、採用を断ろうと校内入ってそんで……
「まぁ、無事ならいいんだよ。……それより、何か見たか?」
見たとは、何のことだろう?
「ちょっと西山先生、採用されたとは言え機密事項に関する事を話しては、むぅう?! 」
まじか、口封じにキスだぁ?
「なにか言った? 燈 (あかり) 先生」
「ななな、なんでもありましぇん」
耳まで真っ赤になりながら、口を隠している。ウブな反応に外野の俺まで恥ずかしくなってきた。
「xxxx」
「!! 」
そんな彼女に何を囁いたのか、今度は血の気が引き真っ青になっている。そのまま、部屋を飛び出してしまった。
「聞きたそうな顔をしてるが、ここからは機密事項だから教えられない」
「別に聞きたくない……です」
怖ぇ、タメ口NGか。そうなのか。
「とりあえず、ようこそ国立専門学園へ。俺はお前の先輩になる西山 宇佐美 ( にしやま うさみ )だ。どの教室になるかは、校長から聞けよ」
それだけ言って、出て行こうとする。
「あ、俺。比嘉 幸太郎 ( ひが こうたろう ) です。えっと、俺ここの採用を断りにき「無駄だ」たんで……え? 」
「通達にも一文書かれていただろ? これは国からの命令で強制だ。一般人であるお前に拒否権などない」
「そんな…」
「諦めろ。いずれ慣れる。見た事も感じた事も全て受け入れざるを得ないんだ」
それだけ言って、部屋を出て行ってしまった。
え、強制ってなに? 拒否権無しとか人権無視かよ。てっきり、都市伝説ドッキリかと思ったけど……どう見ても学校の保健室。窓からはグラウンドが見える。そこにちらほら生徒らしき姿。
本当に、国立専門学園は存在したのか。
それなら、あの時一瞬見えたモノは……
いや、ありえない。気が動転して脳が見せた幻だろう。それに、あの少女は俺に何をさせたかったのだろう。あのネコを追いかけていたら、俺はどこへ行けたのだろう。
気にはなるが、先ずは校長室へ行こう。
廊下へ出てみれば、均等に配置された窓。清潔な床。母校とあまり変わらない景色だ。
じゃあ、あの時のあの感覚は一体なんだったのだろう。
『何か見たか? 』
『諦めろ、いずれ慣れる』
きっと、何かを隠している。それもとんでもないモノを。ああ、なんで俺が選ばれてしまったんだ。
『幸太郎という名にはな、誰にも負けないぐらい幸せになってほしいと、ワシらの願いが込められているんじゃ』
爺ちゃん、願いは叶っているようで微妙なラインです。バイトより給料良さそうだけど、怪しさ満載です。
せめて校長だけはいい人であってほしいと願いたい。とその前に。
「すみません、校長室はどこですか? 」
「校長室ですか? あっちです」
見知らぬ生徒に案内してもらいました。
校長室にて直談判。
「俺…いや、僕は教員資格を持たない者です。ですので、今回の採用を辞退させて頂きたく願います」
「うん、君の話は理解した。で、教室はAね」
「いや、だから辞退「Aだからよろしくね」」
話通じねえー。
Aのゴリ押しだよ、辞めさせる気ないじゃんか。
「ちなみに、副担任とかですか」
「担任辞めちゃったから、君がその代わりだよ」
あーーー、担任って何すればいいんだよ。というか、ここって中高どっち? 学年は1年なの? 2年なの?
「まぁまぁ、諦めなさい。ここは全国から集められた人材の為の施設だ。その為、学年は無くAからEまでのクラスのみに別けられる。人の入れ替わりが激しいが、頑張ってくれたまえ」
教員用のパスを渡され、校長室を後にした。
「詳しい事は西山先生にでも聞きなさい。彼はここ長いから」
そう言われ、今は職員室を目指している。職員室までは無駄に遠く、ひたすら廊下を突き進む。時折生徒とすれ違うが、小学生ぽい見た目の奴から俺と変わらない奴までいる。
それなのに、学年が存在しないのか。一体何を勉強させられているのだろう。
ますます謎が増え、眉間にシワがよる。
これは二言三言、西山先生に言ってやりたい。