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エイプリルフール特別番外編【魔法少女アリウムブルーム!!ーAre you lady?!ー】

作者: 伊崎詩音

「……あれ?」


スッと目が自然と醒めるかのように、意識がいきなり覚醒する。ただしベッドの上とかではない、往来の多い通りのど真ん中に立ち尽くすようにして、俺はそこに立っていた


「……ここ、何処だ?」


「んん……、何だい真白?随分騒がしいけど、……どこ此処?」


いつも通りフードの中で寝ていたパッシオも目を覚まし、辺りの風景を目にして率直な意見を口にする


そう、困った事に俺達はこの街並みを全く知らない。つまりここが一体どこなのか分からない


「僕が寝てる間に旅行でも始めたのかい?」


「寝言は寝て言え」


とりあえず、これだけ都会なら駅にでも向かえば知ってる地名の一つでも出て来るだろう。問題は財布を持っていない、という事だが














結果から言えば、電車は走っていたが地名が全く聞き覚えの無いモノばかりだった


大きな駅だったので、路線図を見れば多少は有名な地名の一つでも出て来るかと思ったのだが、まるで聞いたことのない地名ばかり


勿論文字は読める。だが、情報として得た地名は知識に無いモノばかり。どうしたものかな、と思ってると


『凄いですよマスター!!私達もとうとう異世界転生です!!あ、この場合は異世界転移ですね!!街中にいるのにネットは繋がらないし地名は知らないモノだらけ!!ささ、冒険と行きましょう!!』


「なんでそんなにハイテンションなんだよお前……。どっちかと言えば完全に詰みだろうが。どうすんだよこれ」


隣りに同じく路線図を見にやって来ただろう男性が、スマホから少々やかましい少女の声を響かせて、肩を竦めていた


だが、その会話の内容は自分にも心当たりのあるもので


「すみません、ちょっと良いですか?」


「ん?」


声を掛けられて、振り返った顔には酷い火傷の痕がある男性だったが、その表情自体は柔和で根は優しそうだな、と俺は脳裏に浮かべながら自分の今ある立場を彼に伝えたのだった


















「成る程。じゃあ真白……さん?も俺達と同じ様に気が付いたら此処にいて、地名も心当たりのないモノしか無い、と」


「真白で良いよ。一応26だけどそんなに歳の差はないだろ?」


『いやー何度聞いても26には見えないですね?見た目中学生ですよ?そっちの世界って皆ロリショタな感じなんです?』


「ハク、お前ちょっと黙ってろ」


「いやぁ、そちらのお兄さんも最初はヤのつく職業の人達かと僕は思ったよ」


「パッシオ、お前も黙れ」


場所を移して駅構内の休憩所。ざわざわと人の往来が激しい雑踏の中に紛れるように、俺達はお互いの状況が非常に似通ったものであると認識し合った


彼の名前は七篠(ナナシノ) 陽彩(ヒイロ)。そして彼のスマホから、正確にはスマホの中から元気いっぱいに主張しているのはハク、と名乗る少女だ


どうやら彼女は人間では無いようだが、それを詮索するのは無粋だろう


スマホの中に住む少女よりも奇怪な、喋る小動物を携えている俺よりはよっぽどまともだろう


しかもこの二人、似た者同士なのか軽口を叩き合ってお喋りに忙しい


お前らちょっと黙ってろ


「……すみません」


「いや、こっちも申し訳ない。お互い、お喋りが相方だと大変だな」


申し訳なさそうに頭を下げる七篠陽彩、この際陽彩で良いか


ともかく、そんなことよりも情報交換が大事だ


さてはて、何から話したものかと考えていると


「キャー――ッ!!!」


甲高い、女性の声が鳴り響いた。その後に続くように怒号が多く聞こえて来る


「真白!!魔獣だ!!」


『マスター!!魔物です!!』


「分かった行くぞパッシオ!!」


「了解。行くぞハク」


「「「『……んん?』」」」


辺りが一様に騒がしくなっていく中、俺達4人は揃いも揃って首を傾げた


だが、そんなことをお互い考えている暇は無い。無いのだが、まるでお互いが魔獣と戦う術を持っているような言い分に思わず固まらざるを得ない


そうこうしている内に休憩所に飛び込んでくるように犬型の魔獣が飛び込んで来る


「真白!!早く変身!!」


『マスター!!ぼうっとしてる暇はないですよ?!』


「だぁっ!!もうどうにでもなれ!!」


「なんか嫌な予感がする」


陽彩、奇遇だな。俺も何だか嫌な予感がするなんだか、俺達物凄く似通った境遇な様な、そんな気がする


「『チェンジ!!フルール・フローレ!!』」


【CHANGE!!FLEUR・FLOR!!】


≪トランスシフター!!Are you Lady?!≫


俺の音声認識の声と、高らかな電子音が二つ鳴り響く。同時に花型の魔法陣と黒い炎が、お互いの身体を包みだす


「『チェンジ、コンプリート』」


【CHANGE,COMPLETE!!GOOD LUCK!!】


「――変身っ!!」


一瞬の内、そこに先程までの俺達の姿は無く。そこにいたのは純白のドレスに身を包んだ少女と、黒いローブと白いマフラーに灰がかった白髪の少女の二人が代わりに堂々と立っていた


「魔法少女アリウムフルール。貴方を守りに来ました」


「魔法少女ブルームスター。助太刀に来たぜ」


「「……ええぇ」」


一応、かっこよく決めたが、まさかまさかの展開に俺達はその場で固まったのはしょうが無いと思う。うん


『マスター!!固まってないで!!目の前のワンちゃんも困惑してますよ!!』


「アリウム!!正真正銘のお仲間に出会った喜びに震えるのは後にしなって!!」


「誰だってこんなの予想できないだろ?!」


「パッシオ、後で覚えてなさいよ」


俺達は、お互いの相棒に尻を叩かれながら、ようやく動き出す。目の前の魔獣は空気を読んで大人しくしていてくれたらしい。そんなにお利口さんなら魔獣になって暴れるなと思わなくもない


ともかく、俺は障壁で魔獣を捕らえるべく、障壁を展開する。動きの速そうな犬型は捕らえてから仕留めた方が効率が良いだろう。今がそのチャンスだと思ったのだが


「ギャンッ?!」


『マスター?!』


先にブルームスターの方が展開した障壁に突っ込んだ。何してんだあの子


「おい!!アリウム、なんだっけ?!これお前だろ!!何だこれ?!すっげぇ痛いんだが?!?!」


「アリウムフルールよ!!貴方こそ、様子見もせずに魔獣に突っ込むなんて馬鹿じゃないの?!」


「バカとはなんだバカとは!!こちとら近距離戦が主なんだよ!!大体いきなり何も言わずにこんな壁作るのがおかしいだろ!!一声かけろよ!!」


「なんですってー!!」


鼻頭を抑えて怒る彼女に言われて俺も言い返す。それに負けじと彼女が言い返すのであっと言う間に口論に発展したが、俺は悪くない。相手が何をするかもわからないのに突っ込むなんて怪我をしに行くような物だ


『ステイ!!二人ともステイです!!』


「ケンカしてる暇は無いでしょ!!ほら、あちらさんが来るよ!!」


言い合う俺達を宥めるハクとパッシオの声にハッとすると、あの魔獣も流石に二度は待ってくれないらしい


4つの脚で床を蹴り、こちらへ牙を向けながら突っ込んで来る。このままじゃ二人仲良く魔獣の胃の中だ


揃ってその場から跳びあがって避け、魔獣が通り過ぎた後に着地をする


「とりあえず、お前が使う魔法はあの壁で良いの?杖は見当たらないけど」


「杖?まぁ、私の得意な魔法は障壁と治癒の魔法よ。それより貴女、その箒一体どこから出したの?」


彼女の言う杖、とやらに心当たりは無いが。こちらが得意とする魔法なら答えられる


それよりも、彼女が何処からともなく手にしたその箒の方が気になる


それが彼女の魔法なのだろうか。武器を持つ魔法少女はシャイニールビーのように剣を持っていたりするが、あれの名称は魔道具だ。杖型の魔道具は確かに存在するが、魔道具を杖と呼称するのは聞いたことが無い


「ふむ、どうやらそちらの魔法少女とこちらの魔法少女では、様々な部分で違いがあるようだね」


『みたいですね。異世界の魔法少女同士ですからしかたないですけど。ま、そんな難しい話は置いておいて目の前の魔物をちゃっちゃと倒しちゃいましょう!!』


お互いのサポーター役がスマホと肩口から愉快そうに会話している。成る程、異世界の魔法少女同士ともなれば細かい点で差異があるのも頷ける


「ブルームスター。貴女の使える魔法は?」


「ブルームで良いよ。物を杖、この箒に変えるのと、炎を纏ったキックと、時間制の強化的なの」


「変な魔法ばかりね」


「うるせえやい」


物を箒にする魔法って、一体に何に使えるんだろうか。掃除?いや、多分武装として使うんだろうけど、箒で?


などなど疑問は尽きないが、彼女は今までそれで戦って来た筈。ならばそれを疑う事こそ不毛だ。前衛は彼女に出張ってもらう


「そっちだって、壁と回復しか出来ないじゃんか」


「回復は重要だし、障壁魔法は使いようで攻撃にも使えるわよ。動きは止めてあげるから、思いっきりやって良いわ」


「……なんか急に年上ぶられてる気がする」


「実際年上だもの」


ぶすくれるブルームに事実を突きつけながら指示を出す。あの魔獣自体は脅威度はC以下。動きを止めるなら容易いこと


ほら、また突っ込んで来た。その足元にちょっと大き目な障壁を張ってやれば


「うぎゃんっ?!!?」


この通り、簡単に転んでくれる。そのまま障壁で拘束。後は煮るのも焼くのも容易いことだ


『うわぁ、えっぐい魔法ですねぇ』


「僕もそう思うよ。こちらの世界でも障壁魔法をこんな風に使うのはアリウムくらいだしね」


「そこ、うるさいわよ。ブルーム、トドメは任せるわ」


「えぇ……」


なんだか釈然としない返事が返って来たが、こちとら搦め手を使わないと攻撃手段が素手しかない支援型の魔法少女なのだ


こうでもしないと魔獣なんかとは戦えない


≪BURNING STAKE!!≫


渋々と言った様子でスマホのアプリを叩き、電子音が鳴り響くとブルームの魔力が膨れ上がり、首元のマフラーが緋色に、左足に炎が灯る


これが先程言っていた炎を纏ったキックなのだろう。成る程どうやら必殺技とかそう言うものに該当する魔法のようだ


俺達の世界の魔法少女で言うところの固有魔法に近いのだろうか


そうして、やる気がなさそうにヤンキーキックされた魔獣はその一撃からは予想できない力で吹き飛ばされたあと、全身を炎に包まれて灰となって行った


『あらら、魔石は出ないんですね』


「おや、そちらの世界はドロップアイテムがあるのかい?こちらは倒した魔獣は解体して素材にしたり、研究材料にしたりしているけれど」


『うひゃー、そっちの世界は物騒過ぎませんか?』


騒ぐ面々は放っておきつつ、戻って来たブルームを労う。頭をポンポンと撫でてやったら顔を真っ赤にして睨まれた


しまった、見た目が可愛いからつい子供扱いしたが中身は同じ野郎だったんだ。今まで俺以外にそんな奴はいなかったのでついついやってしまった


「子供じゃないんだが」


「あら?そうやって口に出して反抗する辺りはまだまだお子様ね?」


「なんだとー!?」


「まぁまぁ、それくらいにして早くここを離れた方が良いんじゃないかい、二人とも?」


『そろそろ人が戻って来ますよ。この世界が魔法少女をどう思っているのか分からない以上、ここは身を隠すのが一番です』


からかっては返って来る面白さに思わず軽口を叩き合っていると、パッシオとハクから小言を言われてしまった


確かに二人の言う通り。情報の少ない今は下手に騒ぎに巻き込まれないのが一番


戻って来る喧騒を背に、俺達は大急ぎでその場を離れたのだった












「しっかしまぁ、この火傷顔の男があんな可愛らしい魔法少女とは、世の中分からないもんだな」


「悪かったな、火傷顔で。そっちこそ、随分、随分……」


『マスター、張り合って無理矢理悪口を捻りだそうとしないでください。私としては、真白さんが可愛い魔法少女になっても、全然違和感感じないですけどね!!正直、綺麗な童顔過ぎて、女の子って言われれば信用しますよ!!私!!』


「こっちの方が的確に抉って来たかぁ」


場所を大きく移動して近くの河川敷、それを跨ぐ橋の高架下に身を落ち着けた俺達は、互いに変身を解いて、改めて二人とも魔法少女であることを認知した


「てか、この火傷見ても驚かないんだな」


「元々医療人でね。その位の火傷なら幾らでも見て来た。治してやろうか?多分、アリウムの回復魔法ならその傷痕、治せるぞ」


「いや、良いよ」


即答で断られちゃ、しょうがない。あの火傷にはそれなりの理由があるという事。それを無視してまで直してやろうと思う程、俺は自分勝手でもない


しかし、それよりも問題なのは当面の生活だ。魔獣に邪魔されて精々出来たのはここに来た経緯と自己紹介くらいだ


実質、自己紹介以外何も情報を共有していないとも言う


『それよりもー、お三方はこれからどうするんです?私は大丈夫ですけど、皆さんは雨風が凌げる場所が無いと厳しいですよね?』


「そこなんだよな。陽彩、お前お金持ってる?」


「いや、持ち物はスマホだけ。そのスマホも、世界が違うせいかネットに繋がらない」


『一応、電波は飛び交ってるんで、その中からインターネットに似た接続先を探しています!!』


持ち物はお互いスマホだけ。しかもその文明の利器は使えないと来た


さてはて、どうしたものかと決めあぐねていると、パッシオがそう言えばと口を開いた


「実は魔獣を倒した時にこんなものを拾っていてね。何かに使えるかな?」


そう言って、パッシオが取り出したのは数枚のメダルだった


「メダル?見たことないな」


「あの魔物から出て来たのか?」


メダルはいつも使う硬貨程度の厚さ、大きさは500円玉サイズと通貨としては大きめだ。メダルの表面には、オオカミだろうか?獣の横顔が彫刻されているのが見て取れる


これが、あの魔獣から出て来たとすれば、何か意味があるのだろうか


『とりあえず、お店で使ってみません?』


頭を悩ませる俺達を他所に、とりあえず使えそうなところで使ってみたらどうかとのハクの提案により、俺達は近くのコンビニないし、スーパーで買い物を敢行してみることにした


それを誰が行うか、だがここで思わぬ悲劇が俺に襲い掛かって来た


「おばあちゃん!!これでこの果物買える?」


「あら、おつかいかい?……おや、獣のメダルなんて珍しい。ちょっと待ってておくれ」


「うん!!」


喧騒から外れた路地に八百屋を構えていたおばあさんに、如何にも子供っぽく応対するのは俺だ


もし、これが通貨であってもなくても、それが相場と合っていればいいが、足りなかった場合や、そもそも通貨でない場合は相当訝しがられる


最悪、お巡りさんを呼ばれる可能性すらある


それを回避するのが、【真白、子供擬態作戦】である


正直苦痛でしかない。この作戦を思いついたハクは絶対に許さないとして、易々と売り渡したパッシオと陽彩も許さない。何が悲しくて26歳が子供のフリをして買い物をしなければならないのか


そして、自分がその作戦を実行できるだけの見た目をしている事も腹ただしい


だが、作戦は上手く行ったようで、おばあさんはこんもり膨れた布の袋を持って、お店の奥からやって来た


「ごめんねぇ。獣のメダルだとお釣りがこんなにたくさん出ちゃうんだ。重いけど大丈夫かい?」


「わぁ!!凄いね!!おっきなホテルに泊まれちゃいそう!!」


「あっはっはっは。そうだねぇ、このお釣りだけでも小さなホテルには泊まれるだろうねぇ。はい、果物とお釣りだよ。落とさないようにね?」


「ありがとうございます」


ついで、このお釣りだけでどのくらいの価値があるのかを聞いて、そそくさと俺は八百屋を後にする


こんな苦行を何時までも続けていられるか


「ぷくくく、お疲れ様真白」


『26歳児、見事でしたね』


「ぶっ飛ばすぞお前ら」


戻って来たところで笑う妖精と煽って来る魔人にデコピンを撃ち込むと、とりあえず得た果物とお金を渡しながら、陽彩の隣に並ぶ


ついでに買った果物。見た目からして林檎を口に含んで食べてみる


うん、美味しい。普通に林檎だ


「んぐっ、それでこのメダルは通貨として使える訳か」


「あむっ、あぁ、それもかなり高額な通貨だな。お釣りだけでビジネスホテルには泊まれるっぽい」


「魔物を倒すとお金が手に入るって、ゲームかよ」


敵を倒してお金が手に入る、と言うのは確かにゲーム感覚だ。不思議な世界だが、弱い魔獣でこれだけの金銭を手に入れられると言うなら、何とかなりそうに思える


一先ず、雨風の心配をすることは無くなりそうだ


『あ!!マスターネット繋がりましたよ!!ちょっと調べどううぇぇぇえっ?!』


「凄い声が聞こえたんだけど」


寝食の心配が無くなったので買って来た林檎をむしゃむしゃ食べていた俺達の耳に、今度はハクの大声が響き渡る


随分なお騒ぎだが何事なのだろうか


『お金!!お金で異世界帰還チケットが買えます!!』


「はぁ?」


陽彩の何言ってんだコイツ、という声はこの場にいた全員の意見を代弁していた


なんだその異世界帰還チケットって。旅行じゃあるまいし、そう易々と異世界に行けるなら行ってみたいものである。いや、現在進行形でそれっぽいのではあるが


『マジですマジ!!ほら、【政府推奨異世界招集者向け:異世界帰還チケット】獣のメダル250枚!!』


「どれどれ……。ふむ、確かにそう書いてあるね。これはどうやって見つけたの?」


『ネットに繋いだ瞬間に自動送信されてきました!!』


パッシオが最初に確認すると確かにそう記載されているらしい。俺も確認させてもらったけど、確かにそのページには、でかでかとその文字が広告されており。下の方にスクロールして行くと、その概要的なモノが記載されていた


要約するとこうだ


・ここは科学技術だけで発展した世界である


・なんか最近化け物が出るようになった


・調べてみたら他所の世界からやって来ていた


・この世界の兵器じゃ倒すの大変


・ならこっちも他所の世界から倒せる人呼べば良いんじゃね?


・一人じゃ大変だろうから仲間も一緒に転移させとくね!!


という事らしい。なんてはた迷惑な話だろうか


だが、これで帰る手立ては確保できたと思われる。仮に、俺達二人だけを人数としてカウントするならば合計500枚の獣のメダルと言うのが必要らしい


これを俺達はさっき5枚入手したから林檎の購入分は誤差と考えて、約495枚の獣のメダルが必要な訳だ


いや、ホントに迷惑だなオイ


一応、他にも色々異世界者特典があるらしい。その中に宿泊費無料と飲食費、交通費が無料の文字があったのを見つけた時は、俺のあの羞恥心は何のためだったんだと肩を落とした


そんなこんなで、俺達の異世界魔獣狩りの日々が始まりを迎えた。何も嬉しくないけど




――それが半月前の話






「もおおおぉぉぉっ!!なんでそんなに傷だらけになってまで近距離戦を続ける訳?!怪我をする前に離脱しなさいよ!!」


「怪我をしてでも魔物は早く倒すべきだろ!!治せるんだしさ!!」


「そう言う問題じゃないって言ってるの!!その怪我が原因で死ぬっては思わないの?!そんな無茶な戦い方してたらホントにその内大怪我じゃ済まなくなるわよ!!」


「そん時はそん時だろ!!」


「ブルーム!!」


「あー!!わー!!聞こえません!!聞こえません!!生きてるから万事OKでーす!!」


魔獣との戦いを終え、この世界で本拠地にしているホテルまで戻って来ると俺達はここ最近の日課になっている口喧嘩を始める


主な原因はブルームの捨て身特攻。彼女が近距離戦を努める以上、怪我のリスクが大きいのはこれは逃れられないが、それにしたって彼女は捨て身の戦法が目立ちすぎる


肉を切らせて骨を断つ、とは言った物だがやり過ぎだ。元医療人としては、こうも易々と命のバーゲンセールを行っているブルーム、もとい陽彩に説教の一つもしてやりたくなる


対するブルームも頑なだ。これが自分の戦闘スタイルだと言って言うことをまるで聞かない


手のかかる弟か妹を見ている気分になって来るが、生憎相手はそこそこ良い歳いっている筈の大人である


ちょっとは年長者のいう事の一つでも聞いてほしいところだ


「まーたやってるよ。飽きないねぇ、二人とも」


『私としてはドンドン言って欲しいですね。マスター人のいう事ぜんっぜん聞かないんですもん。耳にタコができるくらいには言い聞かせてもらった方が良いです』


相棒の二人も呆れ気味なくらいには何度となく繰り返された光景だが、それもあと僅か


狩りに狩った魔獣たちから得られるメダルは現在480枚を超えたところ。少し強い魔獣を狙って狩れば、明日の一日で目標の500枚まで届くだろう


「……はぁ、心配ね。もう少しでお互いの世界に帰るって言うのに、そんなんじゃ心配で仕方ないわ。貴女、本当に周りに迷惑も心配もかけてないんでしょうね?」


「……かけてねーし」


『嘘ですよ。めっちゃかけてます』


「ほら見なさい」


ハクの援護射撃にぐうの音も出ないのか、押し黙るブルームに俺は何度目かのため息を吐く


ホント、まるで反抗期のそれだ。一本筋が通ってると言えば聞こえはいいが、自己犠牲はよろしくない。ヒーローのように見えるかもしれないが、その結果周囲を悲しませるのはとてもよくないこと


恐らく、陽彩としてもブルームスターとしても、かなり多くの人に心配を掛けている筈である。その自覚をしっかりしてくれれば少しはマシになると思うのだが、この短期間では難しそうだ


「じゃあ、せめてものお守り、という事でこれを受け取っておきなさい」


「……何これ」


「白い花のコサージュよ。あげるわ」


「いや、いらんのだが」


折角の贈り物だと言うのに失礼な。あと数日以内には別れる予定なのだ。贈り物の一つ二つくらいなら喜んで受け取るべきだろうに


「良いから受け取りなさいな。大体、貴女ズボラすぎるのよ。せめて魔法少女の姿でいる時くらいはもうちょっと華やかでいなさいよ。折角可愛いのに」


「嬉しくないんだが。大体、似合わねぇって」


「良いから、付けて見なさいって」


「あ、おい?!」


受け取りを頑なに拒否するブルームににじり寄って、胸元にコサージュを付けてやる


うん、可愛らしいアクセントだ。一気に華やかになった


「男なのにこんなのいらないだろ……」


「だからこそ演技はしっかりしておくものよ。と言うか、そのズボラさでよく周りにバレないわね。見た目年齢的に許されてる感じなのかしら」


「俺としては、魔法少女時に口調も仕草も切り替えられるアンタがスゲーよ」


満足する私を他所に、ブルームは反対にげんなりとしている


因みにだが、俺達はこのホテルに泊まり始めてから魔法少女の姿、或いは女性体のままで殆ど生活している


理由としては、こちらではわざわざ元に戻る必要性が無いからだ。お互い、向こうで元の姿に戻るのは、元々ある生活を壊さないためだ。それはこちらでは全く気にする必要が無いため、俺の方が魔力を閉じ切らず、女性体の姿のまま生活し始めた


最初の方は陽彩は都度元の姿に戻っていたが、俺と行動を共にすることが多い以上、どうしてもあの火傷痕が残る顔が色んな所でトラブルの火種になった


結果として、陽彩の方もブルームスターの姿のまま過ごすことが多くなった、という訳だ


周囲を気にすることなくいられると言うのは非常に楽だと思うのだが、陽彩は物凄く嫌そうな顔をしていた


『そういえばマスターはプレゼントしなくて良いんですか?』


「うぐぅ」


「んん?」


「おっ?」


目的のコサージュは渡したし、あれを付けておくのも外しておくのもブルーム次第だ。俺としては付けていて欲しい物だが、出来れば大切に使ってほしくもあるので外して保管して置くのでも良いだろう。とりあえず、恐らく二度と会えないだろう友人に贈り物がしておきたかったのだ


そして、どうやらそれは向こうも同じらしい。ハクに急かされて手渡されたのは、ブルームと同じ真っ白なマフラーだ


「……いっつも、魔法少女の衣装見て、首寒くないのかなって思っただけだよ」


『マスター、めっちゃ真剣に選んでましたよ!!通年で使える良いやつなので大事に使ってあげてくださいね!!』


「余計な事を……!!」


顔を真っ赤にして渡して来たブルームが可愛かったので、とりあえず撫でくり回した


さて、多分明日が最終日だ。しっかり休んで備えることにしよう


「……見た目映像としては、良いんだけど。実際中身はおっさん同士の絡みなんだよね」


パッシオは後でシバく
























翌日。予定では魔獣狩りの最終日


こちらの世界の探知機と言うのは非常に便利で、異世界からやって来る魔獣を事前に察知し、その場所を俺達の連絡先。具体的にはハクの下へと連絡が来る


今日も今日とて、事前に連絡が来た場所に向かい。魔獣が出て来るまで待機


実に便利なので、俺達の世界でも早く開発されて欲しいモノである


「!!来たよ。結構大型だ」


『私も探知しました!!そろそろ開きます!!』


現れるまで暇を持て余していると、ようやくお相手がお出ましらしい


魔力節約のために変身を解いていた陽彩と、同じく省エネモードで魔力を節約していた俺は並んで立ち、やって来る魔獣に備える


やがて、目的の魔獣が姿を現した


「ギャアァァオオォォオォォォオォォォッ!!」


今回現れたのは如何にもモンスターと言った出で立ちだ。二足歩行の巨大なトカゲ、もっと分かり易く言えば肉食恐竜に近い


ただ、肉食恐竜の多くに角は生えていないし、ましてや口から炎は漏れだしていないだろう


今までで一番大型の魔獣。これは骨が折れそうだ


「『チェンジ!!フルール・フローレ!!』」


【CHANGE!!FLEUR・FLOR!!】


≪トランスシフター!!Are you Lady?!≫


俺の音声認識の声と、高らかな電子音が二つ鳴り響く。同時に花型の魔法陣と黒い炎が、お互いの身体を包みだす


「『チェンジ、コンプリート』」


【CHANGE,COMPLETE!!GOOD LUCK!!】


「――変身っ!!」


一瞬の内、そこに先程までの俺達の姿は無く。そこにいたのは純白のドレスに身を包んだ少女と、黒いローブと白いマフラーに灰がかった白髪の少女の二人が代わりに堂々と立っていた


ただし、最初と違うのはお互い白のマフラーと白花のコサージュを胸元にあしらっている事


「魔法少女アリウムフルール。貴方を守りに来ました」


「魔法少女ブルームスター。助太刀に来たぜ」


「アリウム、気合い入れていくよ」


『私達もですよマスター』


奇妙な縁で出会った4人はこの世界での最後の戦いに身を投じた


飛び出すブルームを横目に、俺はデカブツの魔獣の動きを制限すべく小さな障壁を魔獣の周囲に沢山並べて行く。ついでにこれはブルームの足場代わりにもなる


羽帚を使えば飛行も可能らしいが、あの箒の魔法は制限時間付き。自由に動き回るなら、あちこちに配置した足場の方が有効だ


「オラァッ!!」


早速、足場を使って跳びあがったブルームが箒を使って魔獣の横っ面をぶん殴っている


怯んだ魔獣は2、3歩たたらを踏むがそれまで


すぐにその大口を開けてブルームを丸のみにしようとするが、それを障壁を口のサイズに合わせて展開


突然の異物に口の動きが止まるが、数秒しない内にその強力な顎で障壁を粉々にかみ砕かれる


見た目通り、顎の力は相当強力そうだ。あの一撃を受ければ、魔法少女とてひとたまりも無いだろう


しかし、その数秒でブルームはその場を離れて魔獣の背中に飛び乗る。そのまま背を走り、頭の方まで駆け上がると


≪BURNING STAKE!!≫


電子音と共にブルームのマフラーが緋色に染まり、左足が真っ赤に燃える


気付いた魔獣が振り向き、暴れるが、それを私の障壁で首を固定して押さえつける


決めるために飛び上がったブルームの左足が魔獣の脳天に激突するかという時、猛烈な力で固定していた障壁が破壊されてしまった


首を固定されていたと言うのに、力任せに引き剥がすとは中々厄介なバカ力だ


不発に終わったブルームの技がそのまま地面に衝突してクレーターを作る。その反動で動けなくなっているブルームを踏みつぶそうと魔獣が足を上げるが、それは障壁を上に突き上げるように展開して、魔獣の体勢を崩す


「ブルーム!!無事?!」


「問題ない!!それより、アイツをもっと長時間拘束できるか?!」


「任せなさい!!」


ブルームの無事を一応確認すると元気な返事と注文を付けられた。どうやら大技をぶち込む腹積もりらしい


そうと決まれば、まずはあの魔獣の動き回るスタミナを削る必要がある。ああもピンピンしていると、同じように拘束していても意味がない


実際、すでに魔獣は体勢を立て直して口元に炎を溢れさせている。ってそれはまずい!!


「ブルーム、そこ動かないでね!!」


「は?うおぉっ?!」


危うくまた突っ込もうとしていたブルームを止めた瞬間に魔獣が口から火炎放射を放つ


轟々と燃える炎はかなりの熱気を孕んでいて、離れているこっちまで届きそうだ


一応、障壁は張ったが大丈夫か心配するが


≪Warning!! Warning!! Warning!!……ハァーイ! ハクちゃんセーフティオーン!≫


「あっついわ!!」


『私まで丸焦げになると思いましたよ!!アリウムさんに感謝ですね!!』


あちらもピンピンしているようだ。ただし、確かあの黒い炎を纏って戦う黒ずくめモードは制限時間3分の時間制限がある強化モード


つまり後3分以内にあの大型魔獣を拘束してくれとのご達しらしい。中々無茶を言ってくれるな


ま、手立てが無い訳じゃないが


「悪い顔してるよ」


「そう?」


俺達の得意技は搦め手だからな。ブルームがパワーで押し切るなら。こっちはテクニックで翻弄するまでだ


「ギャオンッ?!」


まずは、警戒してその場で構える魔獣の腹下から障壁をカチ上げる。いくら魔獣といえど腹が柔らかいのは定石。皮の薄くて柔らかい腹部を障壁でぶたれて魔獣が声を上げる


それを無視して左の顔面、右の顔面、、右足、左足、首、胸とまるで太鼓のように障壁で叩いていく

一撃一撃は大した威力じゃないが、こうもラッシュされれば蓄積するダメージは必ずある


加えてあの図体と機敏性の掛けた身体では、こう言った連続攻撃には成す術もない


「ブルーム!!」


「任せろ!!」


≪BLACK IMPALING BREAK!!≫


グラグラと揺れる巨体にダメ押しの強力な一撃をぶち込んでもらうため、ブルームに声を掛ければ、箒に乗ったブルームが黒炎を吹き上げながら、ふら付く魔獣の顎を打ち抜く


その強烈な一打に、魔獣はたまらずひっくり返る。こんな絶好の隙を逃がすわけもない

そのままひっくり返ろうかと言う体勢のまま、障壁6枚で魔獣を拘束。倒れる事すら許さない


「今からお前は、火あぶりだ!!」


≪BLACK BURNING STAKE!!≫


箒から飛び降り、黒炎を纏って加速しながら墜ちて行くブルームはその左足を振り抜きながら、魔獣の頭から尻尾まで大きな風穴を開けたのだった

















チャリンチャリンチャリンと、辺りにメダルが散らばる。大体50枚くらいだろうか

30枚程過剰になってしまったが、まあ足りないよりは断然良い


後はせっせと集めてくれているパッシオの集計を待つばかりだ


「お疲れ様。流石の火力だね」


「お疲れ。いや、あんなデカブツ相手に使ったのは初めてだから正直心配だった。アリウムのサポートが無かったら苦戦してたと思う」


『アリウムさんの障壁魔法はホント尊敬しますよ!!マスターもあの丁寧さは見習うべきです』


無事、魔獣と倒した功労者たるブルームに労いの言葉を掛けると、謙遜の返事が返って来た


ただまぁ、それは無いモノねだりに近い。ブルームは細かい調整が効かない代わりにパワーを、アリウムはパワーが無い代わりに小手先で勝負している


お互い、いずれは手にするかも知れないがそれはまだまだ先の話。今は今あるもので戦うしかないのだ


それでは手に余るから皆で共闘するのだから


俺だって、あれを一人で倒せと言われたら拘束するのが精一杯でダメージを与えられていたかは非常に怪しい。二人で戦っていたから出来る戦法ばかりだった


「おまたせー。全部で53枚。33枚余るけど、異世界帰還チケット二人分は確保出来たね」


『ハイハイ!!じゃあメダルを私の方にください!!早速交換してきます!!』


話し込んでいるとパッシオのメダル回収が終わったようで、無事目標の500枚を確保。二人分の異世界帰還チケットの入手が可能になった


53枚のメダルをハクのいるスマホの画面にじゃらじゃらと入れていくと、あれよあれよと言う間にメダルが飲み込まれ、500枚のメダルを抱えたハクが、何やらえっちらおっちらと操作をし始める


『届きました!!これが異世界帰還チケットです!!普通のチケットのように半券を切り離すと元の世界に戻れるそうですよ』


その様子を眺めているとパッと、スマホの上に二枚のチケットが現れる。これが異世界帰還チケットらしい


見た目はコンビニで買う、映画の前売り券に似ている


「……さて、半月の間ありがとうね。ブルームスター、ハク」


「僕からもお礼を言うよ。きっと二人がいなかったら、今もまだ途方に暮れていた筈さ」


「俺達も感謝してます。その、アリウムフルールがいなかったら、怪我だらけだったと思うので」


『その通りですね。アリウムさんは数少ない、マスターにお説教出来る人でしたから、会えなくなるのは残念ですけど、元々住んでる世界が違うから仕方ないですよね』


揃ってチケットを手に取り、別れの言葉を告げる


何の因果か、絶対に出会わないはずの別世界の魔法少女。どちらも少々歪な、少女と言われるとちょっと疑問形だが、それでも出会えたことはとても貴重な経験で、可能ならば友人として遊びに行けるような、そんな間柄になれたと思う


「ありがとう。また、どこかで会えたら良いね」


「だな。次は、魔物退治は無しの方向で、だけど」




――じゃあ、さよなら




そう言って、俺達はチケットの半券を切り離した
































フッと目が醒める。いつも通りの早朝5時


朝のトレーニングのために起きるいつもの時間帯に自然と目が醒める


遅れて鳴ったスマホのアラームを止め、のっそりと起き上がると首元に何かが巻き付いてる感触がして、それが何かを確認して、ハッと思い出した


「あれ?真白どうしたんだよ、マフラーなんか着けてさ。暑くないのか?」


「あ、もしかしてサマーマフラーってやつですか?初めて見ました」


「真白さんにピッタリのマフラーで似合ってますよ」


「だろ?プレゼントでもらってさ、今日1日は使い心地を確かめようと思って」


いつも通りの朝、いつも通りの世界。そこにちょっとだけ、別の世界に帰ったはずの友人からの贈り物


怪我ばっかりしないでよ?ブルームスター


心配ばっかかけんなよ?陽彩


――遠い遠い異世界の友人より








という訳で、エイプリルフールとして


ああああ様著


『俺が魔法少女になるんだよ!』から


七篠陽彩こと魔法少女ブルームスター



ハク


にご登場願いました。ああああ様、突然のお願いにご協力いただきありがとうございます!!

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 俺が魔法少女になるんだよ!のあそこ伏線かと思ったらコラボでしたか、時期的に妹の何かと勘違いしてました、
[一言] すごく、良かったです
[良い点] 拝啓アリウムフルール様 ン我が最推し魔法少女への温かい御支援に感謝申し上げる [一言] あちらさんで出てきたコサージュはこのネタだったんですねぇ 見逃しておりました
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