48.固有スキル
投稿が遅くなり申し訳ありません。
アリスティールは、抜刀術の様な構えのままスキル発動のタイミングを計っている。
「WARS」では、剣技スキルに秀でたキャラクターを大まかな分類で剣術士と呼んでいた。
剣術士でも、スキルの構成によって防御に特化した騎士や攻撃特化型の侍などプレーヤーの好みによって、戦闘スタイルはバラバラだ。
中には、片手剣を両手に装備した双剣士なんてプレイスタイルも一時期流行した。
金属鎧にスカートという俗にいう「姫騎士」スタイルのアルスティールは、盾こそ持っていないが、防御重視の聖騎士かなにかだと思っていたが、現状の構えを見る限り攻撃特化型の侍スタイルだ。
腰に下げていた両刃の剣は日本人的な感覚でいえば、間違いなく抜刀術には向かない。
しかし、「WARS」的には刀剣類であれば剣術スキルは問題なく発動するので、現状のようなロングソードによる抜刀術も可能だ。
極端な話鞘さえあれば、包丁でも抜刀術が使用可能という仕様だ。
それほどPVP(対プレーヤー戦)をやっている訳ではないが、一応戦闘職のクラスも上げ切っているので、スキル発動のタイミングはおおよそ把握している。
戦闘スキルは、発動にどうしても固定のモーションが必要になるので、その動きにさえ注意すれば対応できるはずだ。
プレーヤーによっては、コンボをマクロ化してショートカットキーに登録しているプレーヤーもいるが、マクロ化した場合、スキルとスキルの間にプログラムの読み込みの為の空白時間が必要になる。
時間にして0.5程度だが、対人戦では致命的な隙になる。
マクロ化した時のリスクは、マクロの途中でコンボが止められないということだ。
相手の不意の動きに対して、即応できない。スキルを使用している背後を簡単に裏取りされてしまうのだ。
もちろん俺は、戦闘スキルではマクロは使用しない。特にこの世界に来てからは、全てがリアルで命のやり取りに隙なんて見せられない。
アリスティールのスキルの発動を見極めるために、起点となる軸足に集中する。
アリスティールの軸足のつま先が動き、一気に距離を詰めてくる。突進からの高速抜刀術だ。想定される斬撃の範囲から1歩退き、次の攻撃に備える。
一瞬前まで俺がいた場所に高速の斬撃が襲い掛かる。
中段から上段へ抜ける抜刀による斬撃は、アリスティールが手首を返すことで、止まることなく上段斬りへと切り替わる。
剣の重量を活かした速度の乗った斬撃を躱しながら、アリスティールの左手を確認する。
抜刀時に鞘を支えていた左手が鞘を離れて、今まさに振り下ろされている剣の柄を握ろうとしているのが目に入った。
すかさず、後ろに大きく飛び退く。
アリスティールの剣は、重力と上段斬りのスピードを無視して、高速でV字に跳ね上がる。
秘剣カウンタースワローだ。
抜刀・上段斬り・燕返しを躱した段階で、次の手は読めている。
3段コンボが発動した段階で、剣術士の固有の 【剣気】と呼ばれるパラメーターが1段階目の限界値を突破し、装備中の武器に範囲プラス、速度プラス、ダメージプラスの補正が追加されてる。
3段をことごとく躱されたアリスティールは範囲プラスの補正を利用して大きく横なぎを放ってきた。
範囲プラスとは、読んで字のごとく、本来の武器の攻撃範囲に対して【剣気】と呼ばれるオーラのようなものを纏わせて、攻撃範囲を広げるものだ。
受ける側からすると、突然相手のリーチが伸びたように感じる。
今までのようにギリギリで躱しても、伸びた攻撃範囲により当たってしまう。
しかし大きく躱すと、横薙ぎの後の攻撃に対して反応が遅れてしまう。
よく考えられて連続攻撃であり、シンプルがゆえに対応策は意外と少ない。
防御特化型のタンク職であれば防御を固めて耐える。
高機動タイプのアタッカーなら、全力回避。
バリアタイプのヒーラーならバリアを展開して耐える。
それくらいしか対応策が無い。
しかもアリスティールの装備を考えれば、横薙ぎの後の攻撃が本命だ。
迂闊に隙は見せられないので、こちらも手の内を1つ明かさずにはいられない。
ガンナーの固有スキル【スライドジャンプ】を後ろ向きに発動し、範囲外に回避しながら、次の行動への予備動作に入る。
アリスティールは、横薙ぎを行いながら後ろへ飛び退き、剣を鞘に納める。
通常は、この4連撃が剣術士の基本コンボであり、これを繰り返すだけで十分に相手を削ることが出来るのだが、後ろへ飛びながらアリスティールの口角が上がるのが見えた。
虎の子の遠距離用ドレス【斑鳩】の固有スキルを発動させる。
【クイックタイム:ダブルアクセル】
装備者の感覚及び身体能力を一時的に倍化させるスキルを使用する。
直後、アリスティールの足元から、雷鳴のような音が轟きアリスティールが俺の眼前に現れた。
先ほどの高速抜刀術とは比べ物にならない速さの突進から、一気に初段を振りぬく。
返す刀で再び雷鳴が轟き、通常では視認できない速さの斬撃が振り下ろされる。
「想定より恐ろしく早い斬撃、スキルを使用した俺じゃなきゃ見逃してたな、でもこれで終わりだ。」
【雷帝帝釈天】の固有スキル【雷鳴】による音速以上の移動と、斬撃を何とか躱しながら、振り下ろされた剣を握るアリスティールの小手に守られた手の甲に、P90を合わせて引き金を引く。
銃声と共に、剣を取り落とし、アリスティールが手を抑えながら呆然とする。
「痛っ、雷鳴剣が躱されだと。」
自身の必死の一撃が躱され、武器を弾かれた事にアリスティールが呆然としている。
何とか取り落とした剣を拾おうとするが、そこで使用である宰相がストップをかける。
「勝負はそこまで、勝者はアツシ殿。見事な腕前ですな。」
次に戦う自分を想像しては、満面の笑みを浮かべた宰相がそこにいた。




