45.コンボ
ライールとアルスが出ていった後も、辺境伯と今後の方針について話し合った。
魔境の採掘場の管理についての打ち合わせと、輸送方法。
辺境伯家の保管する先祖伝来の乗り物の修理についても後ほど実物を確認して、修理可能なものか、修理に掛かる費用の相談などを行う予定だ。
話も一段落着いたので、辺境伯家の保管する乗り物の確認のため屋敷を出た。
乗り物は屋外の馬車などが保管されている建物に保管されているらしくマリーダが案内してくれた。
辺境伯達と話をしている間はいなかったが、【紅の風】のメンバーも合流して、その保管してある建物を目指している。
途中アービング辺境伯家の邸宅にある屋外の訓練場の脇を通ると、両足に炎をまとい高速で駆けまわりながら、槍に炎をまとわせて振り回すライールと、その槍から必死の形相で逃げ回るアルスの姿が見えた。
ライールは火属性の強化魔法【バーニングラン】と武器強化魔法【ファイアウエポン】と使用しているようだ。
俺自身は自分のレベルと、ドレスの補正能力で十分な敏捷度と攻撃力を有しているため最近は、あの手の強化魔法は使用していないが、ゲーム開始時の頃は、非常にお世話になった魔法の1つだ。
但し、非常に使用中は目立つため、敵対心を集めやすいという欠点があり、ソロプレイや敵を大量に倒したいとき以外は使用しなかった。
高レベルになれば、【バーニングラン】は飛行能力を有する【ファイアフライト】になり、より立体的な動きが可能にある。
ライールのレベルは30。スキルレベルにもよるが、将来的には【ファイアフライト】も使いこなせるようになるだろう。
槍をメイン装備にしているだけあり、槍術レベルも高そうだ。
今見る限りでは、スキルを使いこなしているとは言い難く、折角の槍術スキルとレベルを活かしきれていないように見える。
俺は、普段は銃火器を使用しているが、近接武器の中では、槍が一番使いやすい。
ライールの槍捌きを見ていたら、少し体を動かしたくなってきた。
「マリーダさん、少しライール殿と槍術について話をしてみたいのですが、宜しいでしょうか。」
乗り物の確認に向かう途中だったので、マリーダに確認をする。
「ええ、構いません。兄上も自分以上のクラスの方と手合わせする機会はこの辺境伯領ではほとんどありませんから、喜ぶと思います。」
手合わせする前提で話が進んでいるが、折角好意的な雰囲気の辺境伯家一員に怪我をさせてしまったら申し訳ない。アドバイスだけのつもりだったのだがな。
「ライール殿、私も槍術については少し心得があります。よろしければ、お手合わせ願えないでしょうか?」
ストレージから、簡素な鉄の槍を取り出しながら、声をかけてみる。
「おお、アツシ殿、アルスでは歯ごたえがなく、少し頂いた槍を持て余しているところでした。マリーダやアルスからの報告では、戦士としても素晴らしい能力をお持ちてだと伺っています。是非お手合わせをお願いいたします。」
ライールのスキルレベルについては、後でパーティーに入れて確認すれば良いので、まずは実力の確認を行う。
「では、ひとまずお手合わせいたしましょか?検討はその後という事で、アルス殿、合図をお願いできますか?」
ライールの猛攻を凌いでいたアルスは、対象が自分から逸れたことに安堵した表情で、快く受けてくてくれた。
「それでは、はじめ」
槍を構えながら、ライールの出方を窺う。
ライールは槍を構えて、一呼吸すると【チャージ】を発動させて攻撃力を高めた後、【スラスト】を発動して一気に突きかかる。
先ほどまでのアルス相手には、【チャージ】は使用していなかったので、こちらの実力を確認のため、【チャージコンボ】を試してきたのだろう。
ライールの足さばきに注意しながら、【スラスト】を回避する。
回避した瞬間、ライールの踏み込んだ軸足に力が入った。後方へ素早く下がるとさっきまで俺の居た場所を、槍の穂先が通過していく。
想定通り、【スラスト】を躱したところで、横なぎの【スラッシュ】を発動させて定番の【チャージコンボ】+【スラッシュ】が来たことでおおよそのライールの実力を確認できた。
ライールは、【スラッシュ】が簡単に躱されたことに少し驚いたようだが、冷静に槍を引き元の場所に戻った。
ファイアウエポンの乗った【チャージコンボ】+【スラッシュ】であれば相当な攻撃力になり大概の相手ならそれで仕留められるだろう。
槍術の【スラスト】と剣術の【スラッシュ】と基本技能の【チャージ】を組み合わせた【スラスラコンボ】はレベル20帯の主力コンボだ。
「WARS」には、ゲームシステム上スキル発動後に硬直時間が発生する。
近接武器も遠距離武器もスキルに分類される魔法もスキル発動後の硬直は存在する。
対エネミー戦ではそれほど気にならないが、対人戦や模擬戦ではこの硬直時間が一番の隙となり、カウンタースキルを受けやすい。
その為、スキル硬直時間中に別のスキルを発動することで硬直を強制的にキャンセルする連撃を【コンボ】と呼ぶが、直前に発動したスキルとの組み合わせとスキルの発動後のクールタイム等によって【コンボ】の発生条件が異なる。
【スラスト】の突きと【スラッシュ】の払いは、突き出した刃をそのまま横に払うので、コンボそして成立する。
「それでは、今度はこちらから行かせていただきます。」
槍を構えて、精神を集中させる。
相手を貫くことに特化した【ピアッシング】を発動し1突き。
槍を戻すモーション中に【スラスト】を発動して2突き。
【スラスト】+【スラッシュ】により横なぎで3撃。
振り払った槍を【チャージ】を発動し、強制的に手元に戻す。
【ダブルスラスト】の発動による連撃で2突き。
合計5連撃をライールの目の前で披露する。
もう少しレベルが上がれば、【ダブルスラスト】の直後に、もう一段コンボが続き6段コンボになり、初手の【ピアッシング】のクールタイムが終了する為、【無限6段】という前述のコンボが延々と繰り出せるようになるが、各スキルの発動タイミングを絶妙に調整しないとならないため、今回はライールのレベルで使用可能な5連撃で十分だろう。
「ライール殿の実力ならば、今の5連撃が十分使いこなせると思いますよ。」
目の前で目せられたコンボに呆然としながらも、ライールはじっとこちらを見つめてくる。
「アツシ殿、私に槍術を教え・」
「アツシ、北西から高速で接近してくる物体が、もうすぐ視認できます。」
ライールの申し出をティアが遮り、北西の空を見上げる。
視認するより先にその音でその正体を察知する。
ファンタジー世界ではまず聞かない音。
ゲームの中ではよく聞いた、バラバラとはるか遠方の空から聞こえてくる音。
「嘘だろ、なんでヘリの音がこの世界で聞こえてくるんだよ。」
見上げた北西の空から、黒い点は徐々に大きくなって迫ってきた。




