43.スーツの集団
家令のグレイさんに案内されて、アービング辺境伯家の屋敷を進んでいく。
途中で、アルス達と別れて俺達だけがグレイさんに付いていく。
さすが辺境伯家だけあり、外観は当然ながら、内部も手入れの行き届いた屋敷だ。
「こちらでお待ちください。面会の準備が整いましたら、再度伺いますので、それまではこちらでお寛ぎくださいませ。何かございましたら部屋付きのメイドになんなりとお申し付けください。」
グレイさんはそう言って2階の部屋の前で足を止めた。
立派な扉の前にはメイドさんが2人おり、こちらに向かって礼儀正しくお辞儀をしてきた。
「ありがとうございます。伯爵にお会いする前に、着替えを済ませたいのですが、宜しいでしょか?」
正直言うと、ドレスの【オーバーレイ】を変更するだけなので、タクティカルボードにプリセットされた服装をクリックするだけで所要時間は数秒だが、いきなりだと驚かせてしまうので、着替えますという意思表示を先にしておく。
「それでしたら、お待ちいただく部屋にいくつか部屋がございますので、そちらでお着替えいただければと思います。」
どうやら先方もこちらが着替えるのは織り込み済みのようだ。
「それでは、時間までこちらで待たせていただきますね。」
案内された部屋は来客用のゲストルームとして使われているようで、入ってすぐにリビングルームがあり、そこから寝室が3つと風呂場とトイレが備わっている。
メイドさんに中の設備の案内をされてから、各自着替えることにした。
「アツシ、先に着替えてください。それと私とヴァルトラが先に着替えますので、ブリュンヒルデとオルテは、一応警備をお願いします。」
ティアの指示に従って、ブリュンヒルデとオルテがリビングで警戒態勢に入った。
室内なので、取り回しの良い小型のサブマシンガン【MP7A1】をスリングで肩から下げて警戒にあたっている。
俺とティア、ヴァルトラは別々の部屋で着替えという名の【オーバーレイ】の換装を行う。
一応辺境伯と会う事になっているので、迷彩服ではさすがにまずいという事で、事前に用意したフォーマルなスーツに【オーバーレイ】を書き換える。
学生である俺には、スーツを着る機会などほぼない。
ネクタイもちゃんと締めれるか心配だったが、【オーバーレイ】により着替えはネクタイの締め方も完ぺきだった。
「WARS」の【オーバーレイ】用のコスチュームには、明らかに戦闘に向かない服装も多く存在する。
以前にも述べたが、水着が最たるものだ。
他にもナース服やチャイナドレス、貴族の貴婦人用ドレス等女性用の服装は充実している。
対して男性用の【オーバーレイ】はネタに走る傾向が強く、ちゃんとした場で着れるものが意外と少ないことに俺は気が付いてしまった。
このフォーマルスーツも数少ない、ちゃんとした服装の1つだ。
帝国軍士官服や、同盟軍士官服と悩んだが、出来るだけ華美なものを避けた結果、日本人らしいスーツとなったわけだ。
まあ、俺のアバターの外観も、ヒューマンの黒髪中背、日本人的な特徴に合わせた結果なので仕方ない。
用意された寝室で着替えた後、リビングに戻るとブリュンヒルデとオルテが声をかけてきた。
「マスターは戦闘服以外も、結構にあってますね。これは我々も気合を入れて服を選ばにゃいけないねえ。」
と息巻くブリュンヒルデと
「マスターは、何を着ても似合う。私は可愛い系の服を選ぼうかな。」
と顔を赤らめて、相談してくるオルテが対照的だった。
向かいの部屋のドアが開き、ティアとヴァルトラが出てきた。
ティアはキャリアウーマン風のスーツにタイトスカート、そして普段は掛けない眼鏡をしている。
ヴァルトラは、パンツスーツ姿に【MP7A1】装備というシュールな格好で出てきた。
「私はアツシの秘書役ですから、一応それにふさわしい服装を選んだつもりです。ヴァルトラは護衛という立場もありますから、あまり華美な服装はどうかと思いましたので、合わせさせていただきました。」
ティアは自分の服装と、ヴァルトラの服装について説明をしてきた。
少し、ティア達の可憐な姿を期待していただけに、残念だが、理にかなっているので仕方ない。
「ティア姉さん、それはないぜ。せっかくマスターの前で戦闘服以外を着れるチャンスなのに、堅っ苦しい格好をするのは私は反対だね。」
珍しくブリュンヒルデがティアに噛みついた。
「私は、あくまで私達は、アツシの護衛であるという自覚をあなた達に持つようにと言っているのです。辺境伯と話をするアツシより我々が目立ってどうするのかと言いたいのです。」
ティアの話に、納得したブリュンヒルデとオルテもパンツスーツという格好に落ち着いたようだ。
オルテは装備を【ベレッタM93R】に変更して不服そうに出てきた。
「それでは時間まで交代で警備に当たりましょう。入り口と窓側それぞれ1名それ以外はアツシと一緒にこちらのテーブルでお茶という事でいいかしら。」
その一言で、ブリュンヒルデ達の士気は一気に回復した。
「じゃ、ヴァルトラは扉側、オルテは窓側を警戒。20分毎のローテーションでどうよ?」
ブリュンヒルデが、ヴァルトラとオルテに指示を出すと、メイドさんに話をして、お茶とお茶菓子を用意してもらった。
メイドさんが入れてくれたお茶は紅茶のようなもので、お茶菓子はクッキーのような焼き菓子だった。
少し甘みが少ないものだったので、ストレージから、チョコチップクッキーとメレンゲを出してテーブルに並べた。
もちろん、これは俺が作成したHQ相当のお菓子なので味は間違いない。
メイドさん達はそのお菓子に興味深々だったので、残ったら持ち帰って良いと伝えると非常に喜んでいた。
1時間後、グレイさんが呼びに来るまで、久しぶりにゆっくりと寛ぐことが出来た。




