42.辺境伯領 領都ケルシュ
「お待たせしてしまいました。10日間ほど留守にしていたので、確認事項と今後の対策、ウィルとの定期的な兵員の入れ替え等指示事項も多かったもので、砦を任せているアッシュ隊長との打ち合わせに時間が掛かってしまいました。それでは領都へ向かいましょうか」
待ち合わせ場所にアルスは昼過ぎにやってきた。
これから目指す辺境伯領 領都【ケルシュ】までは、馬車で2日の距離にあるらしい。
これまでの経験から、【ウィル】から【ランス】までが荷馬車で1日の距離。
約40kmだったので、領都【ケルシュ】までの距離は、約80kmと考えている。
ハンヴィーの速度なら街道の状態にもよるが3時間で到着する予定だ。
「了解です、ここからは交通量も増えるでしょうから朝のようにスピードを出すことが出来ないでしょうから、状況を見て進んでいきましょう。」
ほぼ無人の未開拓の森をノンストップで駆けてきた朝とは違い、ここからは交易路を走ることになる。
別にハンヴィーという移動手段を隠すつもりはないので、それなりのスピードで行くが、さすがに人通りも多く、領都とランスを結ぶ街道だけに荷馬車の往来も多いようだ。
門を出て少し進んだところで、ストレージからハンヴィーを出して乗り込む。
分乗は朝と同じ組み合わせで乗り込んでいく。
護衛騎士のミーアは、朝よりスピードが出せないという言葉を聞き少し表情が明るくなった。
「それでは、アツシ、今回もこちらが先行しますので、何か問題があれば通信を送りますので、宜しくお願いします。」
ティアが先頭車両に乗り込み、通信の確認を行った。
ブリュンヒルデも装備の確認をして助手席に乗り込む。
さすがに先ほどまでのファンタジー装備では、ハンヴィーの運転や銃器の取り回しには不自由するので、動きやすい戦闘服に戻している。
「それでは、こちらも乗り込みましょう、ヴァルトラ、オルテ宜しく頼むよ。」
「了解しました。」
「了解です、マスターの安全を最優先に警護します。」
ヴァルトラは運転席に、オルテは一番後ろの席に乗り込んだ。
一応、後方からの襲撃に備える。
助手席に俺が乗り込み。
真ん中のシートにアルスとミーアが乗り込む。
ロングタイプのハンヴィーにそれぞれ分乗して、領都【ケルシュ】を目指して出発する。
途中には、いくつかの街や村、中継都市が点在するが、そこはマリーダとアルスが同乗しているので、ハンヴィーには驚き、警戒されるが辺境伯軍の新型の馬車だという事で、無事通過していく。
さすがに、魔境の森から採取された資源や素材を各方面に運ぶ交易路だけあり徒歩や荷馬車の往来が多く、比較的幅の広い街道でも脇に寄りながら走行することも多かった。
ハンヴィーのエンジン音に驚く人々をしり目に、苦笑いのアルスが顔を出して不審者ではないことをアピールしていた。
行商の護衛の探索者や定期的に巡回する辺境伯軍には、マリーダやアルスが顔を出して対応してくれた。
その間、護衛騎士のミーアは自分自身と戦っていた。何とはいわないが、終始口元を抑え、青白い顔をしていた。
「ミーアさんには、車の移動は厳しいそうですね。今後アルス参謀の移動を考えると何か別の移動手段を考えるか、車になれてもらう必要がありそうですね。」
アルスは、今回の移動について満足しているようで、辺境伯家に保管されている車両についての整備を依頼されている。
「そうですね、ミーアにはこの移動手段に慣れてもらわないといけないですね。休みなくこの速度を維持できる移動手段があるのなら、大量の兵士の移動は難しいですが、私と数名の指揮官等の移動なら迅速に行えますからね、うちの納屋に眠っているものが使えれば、是非運用したいですからね。ミーアには頑張ってもらわなければいけませんね。」
残念ながら、ミーアさんには職務上の車両への同乗が確定してしまっているようだ。
後で運転を含めたスキルの取得を勧めよう。
予定よりも少し遅れ気味だが、夕方前には辺境伯領 領都【ケルシュ】に到着した。
領都だけあり、周囲を水で満たした堀と高い塀に囲まれた姿だ。
門は東西南北にはね橋が設置されており、都市への出入りをチェックしている。
アルスによると領都【ケルシュ】の人口は5万人、常駐する辺境伯軍は約2500人
領都周辺の穀倉地帯にて、小麦等の作物を生産し、魔境産の素材等で潤沢な資金を有する領地のようだ。
「一応、父と兄には書面で報告してあるので、今日中には、面会できるはずですが、確認してきますので客間にてお待ちいただきます。」
街中はさすがにハンヴィーというわけにはいかないので、東側の門から入り、アルスの手配してあった馬車に乗り換えて、辺境伯家の屋敷に向かう。
【ケルシュ】の街並みは、【ランスの街】のような探索者やハンターが行きかう雑多な感じよりは、道幅も広く、洗練された美しい街並みが続いていた。
さすがにローランド王国の辺境を任された辺境伯家だけあり、屋敷は非常に立派で、庭もきっちりと整備されていた。
馬車が屋敷の門をくぐり、正面の入り口の前に向かうと入り口には、使用人と思しき人達が整列しており、馬車の扉が開くと一見して執事とわかる格好をした老紳士が前に出て、頭を下げる。
「ようこそおいで下さいました。アービング辺境伯家、家令のグレイと申します。主より、ご一行の応対を承っておりますので、宜しくお願い致します。」
素人目に見ても、完璧な執事の立ち居振る舞いで挨拶された。
「東城敦史です。何分若輩で不慣れな為、失礼があるかもしれませんが、宜しくお願いします。」
貴族の礼儀など判らないので、失礼のないように対応していくしかないな。
「それでは、ご案内させていただきます。アルス様、マリーダ様はご自身のお部屋に、【紅の風】の皆様もマリーダ様にお部屋へ、ミーア殿は待機室にてお待ちくださいませ。」
屋敷内へそれぞれ案内されることになった。




