41.もどき
ジュードと話した限りでは、探索者もハンターも余裕があるものや、しっかりと考えているものは定期的に装備のメンテナンスを行っているようだ。
自分の命を預ける武具にはやはりお金を掛けるようだ。
さすがにマリーダやルクスのようにドレスを持っている貴族家は、ドレスの修復が順番待ち状態なので、一応は代わりの装備もあるようだが、市販品とドレスでは、見た限り耐久値、耐久性が桁違いだった。
それでも、マリーダの話によると、ドレス持ちの貴族はどこも順番待ちで、修復できても完全修復まではいかないようだ。
市場のメンテナンス業を横取りする気はないが、対貴族用のドレスの修復なら、現状回っていない部分の市場を引き受けるだけで、利益が出そうだな。
一通り、武器防具の質や価格、その他日常の使う雑貨等、探索者を取り巻く環境は把握できた。
生活魔法による火おこしや、水の生成等ある程度は魔法で補えるようだが、基本は街の外は毎日がアウトドアだ。
食事の基本は、堅いパンと干し肉、スープがいいところらしい。
女性メンバーだけの【紅の風】でもそれに乾燥した果物が付く位が当たり前で、鳥やウサギが狩猟出来れば捌いて焼く程度だそうだ。
朝出発して、ランスの街について打ち合わせや、視察等である程度時間もたったので、昼食を採ることにした。
「この店はランスの街でも人気の店で、肉料理と建国王が故郷を懐かしんで作った料理が楽しめるという触れ込みで、他にはない美味しい料理がたくさんあるんですよ。」
建国王の故郷の料理は気になる。
この世界の中世的な雰囲気とは違った世界観を持った人間の料理だ。
自分の料理技能と素材があるとはいえ、この世界の素材で作られた料理気になります。
席に案内されてテーブルに設置されたメニューをわくわくした気持ちで開く。
・カレーライスもどき
・ポトフ
・お好み焼き
幾つか気になるワードが出てきた。
カレーライスもどきって、自らもどきと呼称しちゃうんだ。ある意味潔い。
カレー好きとしては頼まなければなるまい。
例え本人自らがもどきと称さねばならないものだったとしてもだ。
「私はこのポトフが大好きでな。堅いパンを浸しながら食べると抜群にうまいんだ。この料理に入っているジャガイモやニンジン、玉ねぎは建国王が自ら栽培し、広めたものなんだそうだ。」
ジャガイモやニンジン、玉ねぎはすでにあるという事か。
パンもあるから小麦もあるだろう。黒パンや堅いパンは製粉技術の問題だろう。
小麦の純度の問題が如実に味と食感に直結している。
とりあえず、皆適当に頼んだが、俺はカレーライスもどき一択だ。
どの辺がもどきなのか解明せねばなるまい。
しばらくして出てきたカレーライスもどきは、ビジュアル的にはほぼカレーライスだった。
すこしライス部分に違和感があるが、見た目的にはまあ合格だろう。
さっそくいただくことにする。
先にルーのチェックだ。この世界で手に入る香辛料でどこまで再現できたか建国王のお手並み拝見だ。
ルーは、少しスパイシーさに欠けるが、十分にカレーしている。
ならばもどきの理由は、ライス部分か。
ルーと合わせて一口食べてみる。
うん、もどきだ。
ライス部分は、触感的には近いものがるが、粒粒のパスタに近いものだ。
クスクスのようなものが一番近い表現かもしれない。
おそらく、建国王の時代の「WARS」には、米が作物の中になかったのだろう。
その中で、どうしてもカレーライスが食べたかった建国王が苦心して作ったものが、このカレーライスもどきなのだろう。
現在の「WARS」には、農業MODを追加することでデフォルトの作物に追加で様々な作物を追加で来る。
建国王がこの世界にやってきた当時は農業MODがまだなかったか、米が追加されていなかったのだろう。
このカレーライスもどきには、建国王の望郷の思いと、カレーライスが作れなかった無念さが詰まっていた。
カレーライスを愛するものとして、俺は建国王の無念を晴らさなければならない。
「女将を呼べ!!」
一回言ってみたかったシリーズ
食通のおじさんが、料理に対してなんやかんや言うときの決めセリフだ。
今回は、なんやかんや言うつもりはないが、料理を作った料理人に許可を得なければならないので、とりあえず言ってみた。
給仕してくれていた女性の店員さんが厨房に行って、料理長を呼んできてくれた。
壮年の恰幅の良い料理長は何故呼ばれたのか理解できず、キョトンとしていた。
「忙しい時間に、呼び出してすまない。このカレーライスもどき、非常にルーは美味しく良くできていると思う。しかしもどきというだけあって、ライスの部分が完全にライスではない。やはりライスは無いのか?」
昼食時の一番忙しい時間帯に、料理長を呼び出してしまったことは本当に申し訳ないと思うが、俺には、このカレーライスもどきを本物に出来る術がある。
それをこれを作った料理長に伝えたかった。
「たしかにライス部分が、ライスでは無いのでもどきと建国王が命名されましたが、我々にはそのライスというものが何なのかわからないのです。」
困惑した表情で料理長は答えてきた。
「俺には、同じカレーライスを愛する人間として、このカレーライスもどきをカレーライスにする義務がある。すまないがあなたの料理を少しアレンジさせてもらえないだろうか?ここにライスがある。」
俺はストレージ内から、皿に盛られた状態の白米、すなわちライスを数皿取り出してテーブルに置いた。
「こっこれが、建国王が探し求めていたライス。白く輝く宝石のようですね。」
高品質に炊き上げたハイクオリティー相当の白米だからな。あながち間違ってはいない。
「すまないが、これにカレーのルーをかけてもらえないだろうか?」
こちらの言っている意味を理解した料理長は、厨房に走り小鍋に移したルーを持ってきてアツアツのライスにかけてくれた。
そしてこちらをじっと見ている。
味見させろとその目は訴えかけている。
1皿取って、無言で渡す。
料理人は恐る恐るスプーンで、ライスにカレールーのかかった部分を掬い一口食べた。
「美味い。これがカレーライスか。これが建国王が探し求めていた味なのか。」
その後ルクスや、周りの客が物欲しそうに見ていたので、ライスは無償で提供した。
ルーだけは店側の持ち出しなので、料理長がカレーライスもどきの半分の価格で提供してくれた。
そして始まった大試食大会では、みんな満足してくれたようだ。
「失礼、あなたのお名前を聞いていませんでした。私はこの店のオーナーシェフをしております、ディーンと申します。」
ある程度落ちついたところで、先ほどの料理長が声をかけていた。
「俺はアツシと言います。突然の無理を言って申し訳ありませんでした。どうしてもこのカレーライスもどきを完成させたい一心で、ディーンさんの作った料理に手を加える結果になってしまいました。」
「いえ、それは問題ないのですが、このライス、是非譲っていただきたいのですが、ダメでしょうか?」
手持ちのライスは、炊きあがったものを皿に盛った状態でストレージに保管されているが、正直、数はあまり持っていない。
普段の食事は店売りのシリアルバーで済ませていたからだ。
今回は、この世界に来て味覚が発現し、とてもではないがシリアルバーが食べれなかったので、調理済みの食料をストレージに持っていただけだ。
「すまないが、そう多くは持っていないです。今後生産をする予定はありますので、生産体制が整ったら、連絡を入れますね。」
現在のMOD構成では、農業MODはアクティブ化されていない。
米の量産化については、農業MODの導入と、耕作するための土地の確保が必要になる。
ディーンとは、領都から戻り次第、一度ゆっくりを話すことで話が付いた。
アルスとの待ち合わせの時間が近づいてきたので、街の北側の門の付近で待つことにした。
【紅の風】のメンバーもここで合流した。
アルスが到着次第、領都に向けて出発する予定だ。
この世界の食文化についての考察の回のはずが、カレーライスもどきの話になってしまいました。
完全に農業MOD不可避の状況に。
所持MP:12




