31.シャベルを崇めよ 1
番外編的なお話です。少し長くなったので2話構成です。
後編は明日投稿予定です。がんばれ、キース隊長
「キース隊長、あなたの隊を骨子として、ウィル防衛のための銃士隊を結成します。ご協力をお願いします。」
辺境伯軍参謀のアルス様から、そう声を掛けられたのは、ゴブリンからこの開拓村を守り切って、一時的に休暇をもらった後だった。
今回の襲撃を軍として重く見て、この開拓村、今後は砦としての機能も果たすために「ウィル」と命名されたこの地を防衛することは、辺境伯軍に属するものとしては異存はない。
事実、マリーダ様と共にやってきたアツシ殿が、重傷を負った私に治療を施してくれなければ、またはアツシ殿とその部下と名乗る女性兵士達がゴブリン達と積極的に戦ってくれなければ、間違いなく私も、私の部下も全滅していただろう。
後で聞いたゴブリンの総数と、魔族をはじめとする敵勢力を考えれば、辺境伯軍全軍を以ってしても、防ぎきれたか定かではない。
アツシ殿達が使用していた、【銃】という伝説上の武器の威力はすさまじく、弓よりも早く、クロスボウよりも圧倒的に強力な武器だった。
「今回、防衛軍の要となる銃士隊は、50名の銃器の運用に特化した部隊となります。アツシ殿の話によれば、有効射程は150m以上、ある程度の速射が可能な銃を提供してくれるそうです。」
弓やクロスボウの約3倍の射程を持ち、速射可能な武器など、規格外も甚だしい。
話によれば、この武器をより有効的に運用するための今回の砦造りだという。
そんな誰もがやりたい、軍の花形になるであろう部隊に何故自分が配備されるのか、それが判らない。
しかし、命令である以上は、軍人である自分には拒否権などない。
「はっ、謹んで拝命いたします。」
アルス参謀に、王国軍式の敬礼を返しながら、命令を受けることになった。
「今回の件は、アツシ殿が、どうしてもキース隊長にやってほしいとの事だったので、宜しく頼むよ。」
命を救ってもらったばかりでなく、軍人として大成する機会までアツシ殿から頂いたとなれば、一生頭が上がらないな。
そう思っていた時期が自分にもありました。
「シャベルを捧げ持て。そのシャベルはお前達の愛銃と同じ重さに調整した特別製だ。肘を水平位置より下げるな。シャベルは尊いモノだと思え、過酷な戦場の中で最後に頼れるのは剣でも、槍でも、魔法でもない。シャベルだ。」
自分たちは今、10Kgの荷物を背負い、何故かシャベルを捧げ持ちさせられて、走っている。止まることは許されない。シャベルを降ろすことも許されない。
「そこのひよっこども、シャベルを下げるなと言っただろうが。銃撃戦の基本は、身を隠し、相手を1撃で倒すことだ。そのための塹壕は何で堀る?そう、シャベルだ。狭い塹壕の中では、剣や槍など、邪魔でしかない。狭い範囲で、突く、斬る、叩くが出来るシャベルこそ至高の武器だ。」
銃士になるための訓練のはずが、どうしてこうなった。
話は、銃士隊の訓練開始初日にさかのぼる。
「教官のブリュンヒルデと助手のオルテだ。これから、諸君らの銃士になるための訓練を担当する。必ずや諸君を立派な銃士に育て上げることを約束しよう。アルス参謀からは、徹底的に鍛える許可を得ている。ここで死亡した場合は、戦死扱いになるそうだから、安心して死んで来い。」
この瞬間から、地獄の7日間が始まった。




