26.民営化構想
「こちらとしては、支払える代金はそう多くはない。辺境伯軍の運営費からやりくりすることになるからね。7日で仕上げるという、君の能力に対する対価を想像するだけで胃が痛くなるよ。」
工期は少し長めに設定しておいたのだが、早すぎたか。
次にやりたいこと等を考えると、そんなに時間を掛けたくなかったので、少し対応が雑になってしまったようだ。
ただし、これは好機かもしれない。探していた辺境伯軍の幹部が目の前にいて、こちらの報酬について悩んでいる。
「こちらとしては、1つ御提案があります。現在辺境伯軍が行っている探索者の組織的な運用について、一部業務委託をしていただけないでしょうか?具体的には、依頼の受注斡旋と報酬の支払いについてですが。」
興味を引いたのか、眼鏡がきらりと光ったように見えた。
「探索者の依頼斡旋は、マリーダから聞き及んでいると思うが、辺境伯軍の手の回らない部分の討伐依頼等も含まれているため、すべてを委託してしまうと軍としては、少々厳しい状況になってしまうのだが。それに探索者への報酬については原則現金での支払いとなるはずだ。君たちのそれほどの現金がすぐに調達で来るとは思えないのだがね。」
まったくもってその通り、今回のゴブリン討伐の辺境伯軍からの報酬だけでは、すぐに資金が枯渇してしまうだろう。
ただし、俺には、切り札がある。
「アルス参謀は、この剣に価値を付けるとしたら、いかほどの値段をお付けしますか?この盾は?この鎧は?」
そういって、ストレージから店売りの鋼製の剣、盾、鎧を取り出した。
それに対して、アルス参謀は明らかに驚愕し、剣や鎧をアナライズしている。
「これは、材質は鋼で出来ているのか。これほどのものとなると相当な金額になるぞ。」
俺は今回のこの開拓村の攻防戦の中で、兵士やマリーダ達【紅の風】のメンバーの装備を間近で見てきて、ある推測を立てていた。
ドレスであるマリーダの手甲やルクスの鎧以外の装備は防具は革製が多く、武器もキース隊長とルクスの鉄製の剣以外は、槍と弓矢以外の装備を見ていない。
鉄製の剣や槍の穂先もそれほど強度のある鉄でできているようには見えなかった。
そこから推測されるこの世界の製鉄技術は、鉄器が普及し始めてそう経っていない時代のものだろう。
鋼を知っているという事は、かつて健国王の時代には、俺が出したような鋼の武器や防具が数多くあったのだろう。
だが、健国王亡き後に何らかの理由で、装備類は劣化し、現在は青銅器時代をやっと抜けたぐらいまで逆行してしまっているのだろう。
「これらの装備を辺境伯軍に提供する、または商人に売却して現金を得るとしたら十分組織の運営は可能だと考えます。現在辺境伯軍が組織の維持に費やしている費用は、そのまま軍備の強化に回せますし、辺境伯軍にとっては良いことばかりだと思いますがね。」
「確かにそうだが、逆に君達のとっての利点が思いつかない。我々だけ得をする話をわざわざ報酬として提案はすまい。その利点を把握しないうちは、こちらをしては承諾は出来ない。」
まあ、確かにここまでの話に、こちらの利点は一切ない。装備の売却だけなら、直接軍や商人に売ればいいだけのことで、探索者の組織を俺が運営するメリットはまるでない。
せっかく掴んだチャンスだ。どこまでアルス参謀に話すか。ライン決めが難しいな。
アルス参謀は解析持ちの優良物件だ。今後の計画に彼を組み込むことが出来れば、俺の今後の計画の精度は増すだろう。
後は彼が信頼できるか?といったところか。
「アツシ、アルス参謀が信頼できるかどうかで、悩んでいるなら、彼がアナライズ能力持ちであるという事を考えると、彼は信頼に値する人物よ。」
ティアが小声で話しかけてきた。
「解析の能力を持っているという事は、彼が健国王の時代のオペレーターの血を引いているという事です。ならばNPCの血がアツシ(プレーヤー)に対して積極的な敵対的行動には移らないと考えられます。」
NPCってそういう設定なの。PCに友好的な設定が血統レベルであるとかなんか怖い。
でも、そういう事なら、ある程度、アルス参謀に話しても大丈夫だということか。
「参謀、少し我々の借りている民家へ来ていただけませんか?お見せしたいものがあります。それを見ていただければ、私が今回の件についてご提案している理由がお分かり頂けると思います。」
ガレージを見てもらって、クエストボードの仕組みを理解してもらった方が、理解が早いだろう。
そのうえで、辺境伯軍のニーズと信頼できる商人の紹介をしてもらえれば、俺の考える探索者の組織の民営化は可能だろう。
辺境伯軍は悩みどころの探索者への報酬という拠出を無くし、良質な装備を配備出来出来る。
俺は、クエストボードの依頼から、探索者に対応できる内容を斡旋して、ゲーム内通貨を得ることが出来、その中から何割かを装備品として売却し、現金を報酬として探索者に支払う。
探索者には、組織運営の場所として、安価で利用できる施設の建設と戦闘訓練等によるステータス向上(という名のステータス操作)による生存率アップ
三者が共存する仕組みがあれば、この案は通るだろう。
少なくとも、決定権がある辺境伯家の人間に提示できれば、具体的に足りない部分を補って、具体的な話が進むと思える。
アルス参謀をガレージに招待し、質問には答えられる範囲で答えながら、俺の考えるシステムを話し、理解を得られた。
クエストボードで説明を行いながら、今回のクエストの報酬も受け取っておいた。
討伐報酬 20,000J
クエストの報酬 20,000J 計40,000J
取得MP:15 合計保有MP:24
この開拓村の砦への改築が完了後に、辺境伯領の領都へ向かい、そこで辺境伯軍の責任者と最終的な合意を得られれば、今回の俺の提案は受け入れられることになり、責任者との会談には、アルス参謀が同席し、俺の案を支持してくれることになった。やはり探索者の組織運営費は軍でも相当な負担となっていたようだ。
今夜、アルス参謀と具体的な砦の設計を行い、明日以降準備に入ることで合意し、一旦解散となった。
【所持MP:25】




