22.今後について
ティアから、ブリュンヒルデが今回の襲撃を実質的に指揮していたと思われる魔族を討伐したとの通信が来た。
こちらもロードの討伐を報告して、夜明けを待って合流することになった。
魔族とゴブリンロードの討伐の後、ゴブリンは南へ撤退し、その後は1度の襲撃も無く朝を迎えた。
襲撃に備えて、何人かは見張りに立ったが、手の空いたものは順番に休み肉体的、精神的には当初の予想よりも大分楽に過ごせた。
南北の門はキース隊長ら兵士に任せ、俺達のパーティーとワルキューレのパーティーは臨時に借りた民家の前で合流した。
「この度はアツシ殿達の助力により、誰一人欠けることなくゴブリンの襲撃を退ける事ができました。心から感謝いたします。」
村長と、マリーダより感謝の言葉をいただいた。
兵士達には村人たちがねぎらいの言葉をかけて、自警団や猟師たちが落ち着き次第交代する旨を伝えていた。
俺達は、北の砦からの応援部隊が到着するまでの間、ここに留まり不測の事態に備えることにした。
昨日の昼に訳も分からず、この世界に来て様々なことがありすぎて混乱する頭を放置して、今まで戦闘や襲撃に備えるなどしてきたため、無事朝を迎えられた安心感から急激な睡魔に襲われた。
「アツシ、一度休んで、それから今後の事を考えましょう。」
ティアに促されて、【紅の風】のメンバーもさすがに辛そうだったので、一旦各自割り当てられた民家で休憩し、昼過ぎに再度話し合いを設けることにした。
【紅の風】のメンバーと民間前で別れて、仮の住居に入っていく。
「あっ、そうだ。ワルキューレみんなもお疲れ様。おかげて助かったよ。また何かあれば呼び出すから・・・。!?そういえば、召喚拘束時間って8時間だったよね。もうとっくに時間すぎてるけど、どうゆう事?」
NPCを一時的に召喚して一緒に戦う傭兵MODには、1回の召喚時間がゲーム内時間で8時間と定められている。
傭兵MODを使用したのはおそらく昨日の15時前後だったはずなので、夜明け前には効果時間が切れているはずだ。
なのにワルキューレのメンバーはまだ目の前にいる。
急いで、タクティカルボードのメニューを開きアクティブ化されたMODを確認する。
現在機能している白抜きされたMODは、
・中世MOD
・銃火器追加MOD
・乗り物追加MOD
・採取物追加MOD
・賢者の嗜みMOD
のみで、本来取得済みのはずの傭兵MODは、灰色表示のノンアクティブ状態だった。
よく見ると傭兵MODは昨日と少し表記が違っていた。
・傭兵MOD2:5P
名称と消費MPが変化していた。
WARSの傭兵MODは組み込めば、必要なタイミングでゲーム内通貨を支払うことで8時間の雇用が出来る仕様だったが、現状から推測するに、MPを消費して傭兵を召喚し、時間制限なく運用できるようだが、代わりに1回ごとにコストが増加する仕様のようだ。
「これ、ブリュンヒルデ達の帰還ってどうするんだ?」
NPCの有効時間内での帰還指示は、プレーヤーのログアウトと同じ設定メニュー内にあったはずだ。
「現状では、帰還指示は不可能ですので、このまま現状維持かと。誰か尋ねてきた時のために民家側に2名残して順番に休みますので、アツシは先に休んでいてください。一応不測の事態に備えて、弾薬の補充は各自でさせていただきますのでその許可はください。」
ティアが冷静に返してくる。
「じゃあ、お言葉に甘えて先に休ませてもらうよ。なんかすごく眠くって起きてられそうにない。後で代わるから。ごめんね。」
さすがに全員ガレージ内で休んでしまうと誰か来た時に対応できないので申し訳ないので、ティアの提案に従って、その辺は任せることにした。さすが頼れる参謀だ、的確な判断をくだしてくれる。
ガレージ内の階段を上って2階の居住区に入っていく。
クエストボードでクエストの確認もしたいが、今はとにかく眠い。
2階の居住区はプレーヤー用のカスタマイズされた自室とビジネスホテルのような作りのゲストルームが6部屋と浴室、バーが完備されている。
浴室でゆっくりと湯船につかりたいが、あまりの眠さに自分のプライベートルームの寝室へ直行する。
ドレスを左手の装着したデジタルウォッチに収納して、部屋着になり、少し大きめのベットへと潜り込んですぐに深い眠りに落ちた。
軽く眠るつもりだったが、起きたのは8時間後の15時過ぎだった。
自室のキッチンに設置された冷蔵庫からペットボトル入りの水を取り出し、飲みながら昨日の事を思い出す。
システムエラー、ワールド転移、まるで生身体のような感官。今飲んでいる水も冷蔵庫で冷やされた、冷たさを喉に与えている。
試しに手の甲をつねってみるが、痛かった。
深く考えると、また考えが沈んでしまいそうなので、着替えをもって浴室にむかった。
浴室の前にはラフな格好のティアがいて、こちらに声を掛けてきた。
「アツシ、おはようございます。よく眠れたようですね。浴室にお湯ははってありますのですぐに入れますよ。アツシが寝ている間に、我々も浴室をつかわせていただきました。入浴というものは思考がすっきりとして良いものですね。」
そう言ったティアからは、ほんのりとボディソープの良い香りがした。
「ふっ、風呂から出たら、お腹も空いたし、遅くなったが昼食にしよう。みんなにもそう伝えておいてくれないか。【紅の風】のメンバーにも声をかけておいてくれ。」
今までNPCを女性として意識してこなかったが、感覚のあるこの状況では、あまり女性慣れしていない俺は、ワタワタしてしまった。
浴槽につかりながら、今後の事を考えてみた。
帰還の方法が判らない現状、この世界の中で生きる術を考えなければならない。
戦闘力だけ考えれば、俺やティア、ワルキューレのメンバーが本気を出せば、国とだって戦えるかもしれないが、戦って何の意味がある。
よくある異世界転生ものや転移ものみたいに自分で国を作るのか。
否、そんな面倒なことはやりたくない。
国を作る、または奪うという事は、その国家に住む人間すべての生命および財産に責任をある程度持たなければならない。
平和な国に育った俺にとっては、それらを踏みにじってまで、手に入れたいものではない。第一面倒だ。
ならば、この国を見定めて、適度な距離感で、自分が生きたいように生きてみることにする。
まずは、恐らく俺と同じ立場だったであろう健国王がどのような経緯で、この国を興したのか。実際のこの国の強さ、取り巻く状況を把握することから始めるとしよう。
【所持MP9】




