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異世界サバイバルゲーマーはMODを駆使して生き残る  作者: 神崎由貴
第1章 ニューワールド
11/48

11.マリーダ 2

4月6日 【プロメテウス】の修復後の出力の数値を修正

 彼が話していた言葉は、はるか昔に健国王達が使用していたとされる、ニホンゴのような響きだった。

 ニホンゴは、このローラント王国の健国王とその側近であり、現在の貴族たちの祖先が使用していた言語とされ、現在では、国家の式典等でのみ使用され、貴族の間では、ある程度通じるが、日常会話としては、なかなか使用できない。そんな言語だ。


 不可思議な格好をした男性に、もう1人の女性が話しかけてきた。

 男性と同じく、この国では見かけない格好をしているが、よく見ると女性はエルフのようだ。


 女性の言葉を聞き、男性はどこからか、金属製の板のようなものを取り出し、指で何かをし始めた。


 彼らの肩に掛かっているものは、先ほどの破裂音といい、もしかしたら銃なのかもしれない。

 銃は、はるか昔に健国王達が使用した、強力な武器であり、今では弾薬の少なさと、武器に認められるものが少なく、ほぼ使用されること無くなった武器である。

 現在は、銃といえば、残り少ない弾薬を持つ貴族家でわずかに保管されるのみの強力な銃と、火薬を使用し、この大陸で新たに製造された性能の劣るものが、銃と呼ばれている。



 そんな彼らを見ていると、不意に視界がぼやけて、立っていられなくなった。

 おそらく、肩に刺さった矢に、毒が塗られていたのだろう。

 私は無様にも、地面に座り込んでしまった。

 矢を受けた右肩を中心に熱を帯びたように熱い。


「ダイジョウブか。ヤのキズのチリョウをさせてくれないだろうか?」


 金属の矢を操作していた男性が、再び話しかけていた。

 ニホンゴだと意識して聞けば、何とか聞き取ることが出来た。

 やはり彼らが話している言葉はニホンゴのようだ。

 こちらの言葉は通じるのだろうか。もう一度大陸共通語で話しかけてみる。


「あなた達の話しているのは、ニホンゴか?ニホンゴなら、ワタシも、スコシハナセ、ハナセマス。」

 途中からニホンゴでも話しかけてみた。

 今度は、エルフの女性から声をかけられた。


「シツレイ、デキレバ、アナタガタノコトバデ、オハナシシテイタダケルト、タスカリマス。」

 聞き取りやすく、言葉を切って話しかけてくれた。

 ニホンゴではなく、大陸共通語で話すように言われて、どうしようかと思ったが、彼らには大陸共通語が通じているようだった。


 男性が、トウジョウアツシと名乗り、エルフの女性はティアというようだ。

 傷の具合を確認されたが、ゴブリンの毒は遅効性であり、自分の所持している解毒薬で症状を抑えることが出来るので、大丈夫だと伝えた。

 相手が名乗ったのに、こちらが名乗らないわけにもいかないので、


「私は、マリーダ=アービング。探索者シーカーだ。援護感謝する。あなた方は優秀なハンターのようですね。2人が持っている銃も我々が知っている銃よりもずっと高性能そうですから、きっとあなた方は高レベルなんでしょうね。」

 と所持する銃の性能から、彼らが高レベルの銃火器を専門とするハンターではないかと推測してみた。

 それにしても、二人の持つ銃は、今までみた銃の中でも最高に状態が良かった。

 エルフの女性のティアが私の肩を見ながらアツシに傷の手当てを進言してくれた。

 アツシから少し離れた木陰でティアは治療をしてくれた。

 手早く傷口を洗浄し、見たこともない筒状の何かを私の肩に押し当てると、ぼやけていた視界がはっきりとして、矢傷も急速にふさがっていった。

 第3階位のヒールよりも回復力があり、解毒効果まで付与された回復薬ポーションだったようだ。

 このような高価な回復薬ポーションを見ず知らずの人間に簡単に使用する財力が彼らにはあるようだ。

 私の肩の治療を完了した後、私の両手を見ながらティアはしばらく考え込んでから、予想外の言葉を発した。


「マリーダさん、あなたの両手の手甲は、【プロメテウス】ですね?」


 一瞬にして、背筋が寒くなった。

 私の両腕に装備されている「紅の魔弾の射手」はまず、外見は左右1対のブレスレットである。本来の姿は、手甲だが、ある秘術によってブレスレットにしか見えないようになっている。質感も、ブレスレットに覆われていない部分は直接肌に触れたような感覚さえ相手に与える秘術だ。

 一般的に「紅の魔弾の射手」として、知られるこの手甲ブレスレットの本当の名前は、彼女が言った通り、【プロメテウス】だ。

 私も父からこの手甲ブレスレットを授かり、来歴を細かく聞くまで「紅の魔弾の射手」だと思っていたのだ。

 なのに彼女は、本来の形状と隠された真の名を言い当てた。

 そして何よりも、彼女は、大陸共通語を流暢に話していた。


「貴方は、何者ですか?どうしてこの手甲の名前を知っているのですか?」


 少しでも距離を取ろうと後ろに下がりながら、何時でも魔術が行使できるように右手を構えた。

 彼女は少し驚いたような顔をした後に、笑顔で答えた。


「私はAIですから、あなたと出会ってからの言語のサンプリングをしていました。似たような体系の言語から、言語を組み立てて、あなた方の言葉と思われる言語を話しています。もう少しサンプルが集まれば、もう少し語彙力が上がってくるとは思いますがね。【プロメテウス】については、治療の際に、あなたを解析アナライズさせていただきました。旧型とはいえ、ドレスを装備していましたからね。気になって、データベースから検索して【プロメテウス】を割り出しました。答えはこんなところでいいですか?」


 そう言って、私の右手を掴んできた。


「あなたという存在は非常に興味深いですね。あなたの言う健国王はおそらくプレーヤーでしょう。でわ、その家臣団とはいったい誰でしょうね?そしてその家臣団の末裔であるあなたは何者なんでしょうか?言語サンプリングのつもりであなたへの同行をアツシに進言しようと思っていましたが、これは思わぬ拾い物をしたかもしれませんね。あなたには色々聞きたいことや、やっていただきたいことが出来ましたので、しばらくは守ってあげますね。」


 貼り付けたような笑顔の、でも目はけして笑っていない女は、そう言って、手を放してくれた。

 私は、掴まれた腕を抱えて無様にも、震えていた。この女は危険だ。私の本能がそう訴えかけている。

 男の方へ歩き始めた。数歩あるいてティアはこちらを振り返りながらこう囁いた。


「今話した内容は、私とあなただけの秘密ですよ。余計な詮索や行動をすると、守ってあげられなくなってしまうかもしれませんから、気を付けてくださいね。」


 私は何度も頷いた。

 彼女ティアは満足したように、頷き


「さあ、アツシが待っています。行きましょう。少し混乱しているようですが、大丈夫、私が付いていますからね。」


 そう、優しく呟く彼女の言葉は、果たして私に向けられた言葉だったのか、それとも青い顔をして立ち尽くしアツシと名乗った男性に向けられた言葉だったのか、私にはわからない。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


トウジョウアツシは誠実で、まじめな男性だった。

偶然、開拓村へと向かう行商人の護衛としてやってきた大地の炎のジュードに語った開拓村の現状を聞き、わたしに助力を申し出てくれた。


私は自分の使命をジュードとそのクランに託し、開拓村に戻るつもりだった。

その旨をジュードに伝え、私自身の生還が厳しい状況でのアツシ達への待遇も砦のアッシュ隊長を通じて、アービング家へ取り成してもらうつもりだったが、彼は私への同行を申し出てくれた。


「ご助力感謝致します。正直、私一人戻ったところで大した戦力になりませんが、お二人にご助力いただけるのならば、活路は見いだせるかもしれません。お二人のご助力に対しては、「紅の魔弾の射手」の担い手たるマリーダ=アービングが身命を賭して報いることをお約束したします。厳しい戦いになると思いますが、宜しくお願いいたします。」

そう言って、私はは両腕を胸の前で組み、このアービング家の誇りの代名詞たる【紅の魔弾の射手】へ誓約をなした。


その様子を見て、アツシは何のことか分からないようだったので、説明した。


「紅の魔弾の射手は、アービング家の家宝の1つです。はるか昔、我らが祖先が健国王と共に戦った時代より伝わりし、魔道具であり、私が一人前の魔術師として認められた際に、授けられたものです。この魔道具に誓った誓約は、アービング家の誓約であり、魔道具の誓約は我ら魔導貴族においては絶対の誓いですので、私はあなた達2人を絶対に裏切りません。」


【プロメテウス】の事や魔法の事、このローラント王国のことについて一通り確認をしながら、準備を進めた。


その中で、私の【プロメテウス】が長年の酷使のため、アツシ達の言葉を借りるなら【耐久値】が限界近くまで来ていることを指摘され、急遽応急処置だが、修復することとなった。

先祖伝来の装備は非常に希少で、現在では治せる職人はおらず、修理に必要な素材もほぼ枯渇した状態で、もう修復は不可能だとされてきたが、アツシは、ものの数分で修復してしまった。その効果は凄まじく。

修復後に、魔力を通すと、魔力を一気に吸い取られたような感覚と共、【プロメテウス】に今まで以上の魔力が込められた。維持されている魔力は、修復前の実に2.5倍にまで膨れ上がった。


準備も整ったので、開拓村へ向けて出発することになった。

村に残してきたクランの仲間や、村人や兵士たちの顔が思い浮かぶ、どうか無事でいてほしいと祈りながら出発した。



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