表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/77

4話 僕、女子になる①


「…………」


 僕は目を覚ました。気を失っていたみたいだ。


「うう……」


 頭がズキズキする。どこか地面に横たわっているようだ。背中も痛い。



 僕、何をしていたっけ?


 確か、魔物に襲われて湖に逃げて――。



(魔法の攻撃?みたいなので、湖に沈められて……)


 それを思い出したとき、背筋がぞくりとした。


 僕は喉元に手を当てる。息ができる。生きている。



(良かった……。誰かが引き上げてくれたのかな)


 どうやら助かったみたいだ。


 自分の無事を確かめてから、僕は体を起こした。やけに静かだ。魔物はどうなった?討伐されたんだろうか。



「……?」


 僕はどうやら湖の側で意識を失っていたようだ。辺りに人気はなく、魔物はおろか、剣士達の集団までいない。それに何か――。


(湖の様子が……何か違うような)


 先ほどまでとは、何かが違っている。

 僕は少し考えて、その違和感の正体に気付いた。


(周りが違っているんだ!)


 意識を失う前とは、景色が変わっている。湖の周囲に生えていた木々が、産まれて初めて見る木にすり替わっているのだ。


太い幹のがっしりした木々が生い茂っていたはずなのに、そこに生えているのは細長い奇妙な木だった。


(木……ていうか大きい草みたいだ……。いやそんなことよりも……)


 この場所と先ほどまでの場所は明らかに違う。同じなのは湖だけ――。


(どういう事……?これも魔法、なの?)



 きらきらと輝く水面を見やって、僕はあることを思い出した。僕がこの湖を目指していた理由――。




『湖は、異世界へ繋がっている』




「ま、まさか……」




 僕は異世界に来てしまった?




(そんな訳……ない、よね?)


 でもあんな木は見たことがない。僕がいた森にあんな草のような細長い木は生えていない。



 とりあえず、もっと情報が必要だ。


(何か他に……)

 



「?」


 僕は立ち上がりかけて初めて、その事に気付く。


「?!」


(服が違う?!)



 僕は今さっきまで、いつものリネンでできたシャツと、膝丈のスラックスに革の鎧を着ていたはずだった。


 それなのに今は、見たこともない、不思議な様相の服を着ている。丈の短い、これはスカート……?おまけに腰に差していたはずの剣も無くなっている。


(何これ……。どういう事?誰かに着替えさせられた?ていうか、女の子みたいな服装……)


「え!?」



 僕は見慣れない服の胸の辺りが盛り上がっていることに気付いた。これはまるで 女の子 の胸じゃないか。


(そんな訳ない、よね?)


 ためらいつつ、僕はそっとその膨らみに触れる。


「!!!!」


(柔らかい!本物だ!)


「ええ……?」


 その柔らかいものは、確かに僕の体にくっついていた。


(こ、こんな感じなんだ……。柔らかくて、気持ちいい……。不思議……)



 女の子の胸に触るのなんて、初めてなのに。こんなタイミングで初体験を迎えるなんて思いもよらなかった。


(ん?ということは、もしかして……?)


 嫌な予感がする。僕は、手を胸から下ろした。


(な、ななななな、ない!!)


 アレが、ない!



「嘘……」


 口から漏れ出た声に、僕は二重に驚いた。


(声が、違う!!)


 僕の声じゃない。明らかに高い。これは、女の子の声だ。


 見覚えのない服。女の子の体。女の子の声。とすれば。



 僕はよろけながら湖の水面まで這っていく。水面からこちらを見返してくるのは、いつもの見慣れた自分の顔ではなかった。


 肩に触れるくらいの長さの黒髪に黒い目の、利発そうな女の子。気の強そうなツンとした顔付きの彼女も、今は困ったような顔をしている。



「だ、誰……?」


 僕がそう言うと、水面の女の子も口を開いた。僕だ。


「……」


 僕は水面から顔を離してその場にへたり込んだ。

 一旦状況を整理してみよう。



 僕は異世界で知らない女の子の体に入っている。




「~~~~~」


(つまり……どういう事?!?!?!)


 整理したところで、さほど意味はなかった。


(……もしかして、夢?)


 そうだ、夢を見ているんだ!


 だとすれば!


 僕は思いっきり腕をつねってみる。


「いった!」


 痛い。


(夢、じゃ、ない……)


「そんな……」


(痛みを感じる夢、っていう可能性もあるよね?)


 あると信じたい。でももしこれが現実なら?



「……」


 僕は地面に両手をついて、茫然とした。



(……一生、このまま?)



 異世界でこの体のまま生きるしか、ないの?


「嘘、でしょ……」

 

 僕はがっくりとうなだれる。

  

 どのくらいそうしていただろう。僕は頭をあげて空を仰いだ。青い空にふわふわと雲が浮かんでいる。良かった。空の景色は僕の世界と変わらない。




(何がなんだかわからないけど……)


 ここでへたり込んでいても、何も始まらない。


 僕はぐるぐると思考した結果、とりあえず自分のいる周囲を捜索することにした。


(何か、元の世界へ帰れる手段があるかもしれない)


 元の世界と、元の体に!


「よし……!」


 僕は頬をパンと叩いて気合いを入れて立ち上がる。と、足元に何か触った。







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ