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1話 国家騎士、落第


「はあ……」


 僕は森の中をトボトボと歩きながらため息をついた。

 気が重い。


(今年も国家騎士試験に受からなかったなんて……。父さん母さんが知ったら……)


 想像しただけで心がどんよりと曇った。


 この森を抜けた先。そこは僕の生まれ故郷だ。



 つい先日、僕は3度目の国家騎士試験を受ける為にこの森を通って王都へと向かったばかりだった。


 それがものの数日で来た道を戻ることになろうとは。そしてまたもや一次試験落ちだなんて。



(筆記試験が去年と全然違うんだもん……。あんなの反則だよ)



 勉強不足のせいって訳じゃないんだ。決して。




 誰もが憧れる職業、エルザ王国の国家騎士になるための試験は年一回きり。


 その一度きりのチャンスに、一年をかけて鍛錬を積んできた。結果は一次落ち。


(また来年、かあ……)


 その来年の挑戦が最後になる。


 国家騎士試験に応募できるのは15歳まで。僕は14歳だから、あと一回しかチャンスは残されていない。



 いや待てよ。


 そもそも、来年もう一度受験させてもらえるだろうか。農園を営む実家は、貧乏ではないが裕福でもない。


受験料だってばかにならないのだ。3度も試験に送り出してくれたことが奇跡に近い。





(帰りたくないな……)


 僕は足を止めた。


 この道のりの終点には、良いことなんて何も待っていない。


(いっそこのままここで野宿でもしようかな)


 それで、時間を稼いで最終試験まで行ったことにするのだ。それならば両親への心証も少しは良くなるだろう。


(いや……そんな嘘つくだけ虚しいよね……)



 はあ、とまたため息がこぼれる。



 ――そう言えば。

 僕はふと、この前聞いた噂を思い出した。


 あれは村のいたずら好きなちびっ子ヨルデが言っていたんだっけ?



『森にある湖ってさ、異世界と繋がっているんだぜ。オレ、見たんだよ。湖に別の森の景色が映っているところ』



 異世界と繋がっている――。



(別の世界、か。そんなところがあるなら行ってみたいなあ)


 しかしそれは、ホラ吹きで有名なヨルデの証言だ。どうせ嘘に決まってる。



 けれど、このまま家に帰る気分には、どうしてもなれない。


(ちょっとだけ寄り道してみようかな)


 森の湖の場所はうろ覚えだ。確か、あっちの方角だったような――。


 僕は家路をそれて、湖へと足を延ばすことにした。












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