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再建復興統一計画 ~潜伏活動・第一段階~

時貞ときさだとおたあが昼食を終え、先ほど話していた行長ゆきながが控える部屋までやってきた。


「おう、来たか!」

「失礼致します」

「主、長らくお待たせ致しました」


 行長は既に部屋に来ていた。こじんまりと部屋の中、三人以外誰もいない。当然人払いをしてあるようだった。


「時貞、再び参上仕りました」

「主、例の話を続行しましょう」


 おたあが要件を聞き、進めようとすると。


「おう。その前にお前ら二人に厳守してほしい約束事を話しておくべきだ」

「約束事?」

「まず一つ。この再建復興統一計画は俺独自の計画だってことはさっき話したよな。これは俺らだけの極秘内容ということで他の連中に告げるのは言語道断とする」

「それは、やはり今の現状が……」


 キリシタンは劣勢を強いられている。豊臣とよとみ側でも良い思いを持つ者は少ない中でキリシタン再建復興統一計画を他言するのは危険が多すぎる。時貞とおたあはそれを察した。


「そういうことだ、キリシタンに対する反体制力が強まる中でこの情報が漏れたり他言されたりして、嗅ぎつけられたら俺たちの身の上は危ういことになる。絶対に他言無用だ」

「承知致しました」

「従います」

「よし。次に二つ。トキがこの時代の人間ではないことの他言厳禁だ」

「それは、勿論のことですよね」

「俺だってお前が先の未来から来た人間だなんて今でも信じ難いし、今でも整理がつかない。そんな中で公表すりゃ怪しまれて更に事態は混乱する」

「では、私が告げたあの秀吉様の件、周囲の人たち聞かれて失言でしたね。ここにいる皆様にどう弁明致しましょう」

「それは俺の解釈でなんとかする。これは単なる妄言だと、あいつらに言い聞かせて忘れさせるしかねぇな」

「……そう、ですね」


 しかし時貞自身はその時点で周囲から変人扱いになるが蒔いた種だけに反論もない。


「ジュリアも、勿論守ってくれるな?」

「はい。実際私も、トキ様が未来の人間とは、到底思えないのもあるのですが……」

「ですが?」

「もし本当であれば、トキ様は神の力を持ったお人ということですよね? そうあったらなんと頼もしいかなと……!」

「あ、私が……神の力を……?」


 おたあもとい、ジュリアの発言は自覚のない時貞に困惑を与えるだけだが。


「そんなことが広まったら、また更に偉い騒ぎにもなる。いいか、この計画は穏便にことを運ぶことを優先させるんだ。下手に騒ぎ立てるものじゃない。絶対にこの真実は俺たちだけの機密事項だ、いいな」

「ジュリアは当然、心得て御座います」


 それを聞くと時貞も内心胸を撫で下ろす。今騒ぎを起こすのは賢明な事ではないということは分かっている。大胆不敵な行長が思いの外理解ある人物で助かったと胸を撫で下ろす。


「更に三つ。俺たちがキリシタンであることは他言厳禁とする」

「それは言われずとも」

「心得て御座います、あるじ

「当然キリシタンに関する行い、発言、行動は外に出てから差し控えること。外の連中が騒ぎ立てて大事になれば、奉行からの処罰処遇は免れない。そしてこの計画は台無しだ」

「これはいわゆる潜伏活動、ということですね」

十字架クルスは常に胸の内に秘めて携えておけ。勿論、自身の持つ洗礼名も禁句だ。この約束総てを守ると堅く誓うか?」

「はい、誓います。時貞天に召しますゼズスに誓って」

「おたあも共に、固く誓います」


 時貞とジュリアが共鳴したかのように、心臓のもとに十字を切る。


「よし! この時点で約束事は以上だ。それを踏まえて二人にはこれから極秘命令を俺直々に下す!」


 極秘と聞いて時貞は息を飲み、緊迫感が狭く薄暗い部屋の中に張りつめる。


「ご、極秘、命令……?」

「主、また急に……」

「俺の掲げる野望は、早急に手を打っておく必要があるんだ。俺はまどろっこしいのも苦手だし、遠回しに言うのもじれったいから二人に告ぐ」

「……申し上げてくださいませ。極秘とは一体……」

「これから二人に俺の野望計画の付き添いをしてもらう」

「はい、主」

「え、あの。行長様。確かにそれは当然のことだとは思うことかもしれませんが、その命令は私も、ですか?」

「そうじゃなかったらお前をこんなところに呼びはしねぇよ」


 おたあであれば極秘任務を受けるのはまだ分かる。この屋敷に猶子としてやってきて、この屋敷に住まう年数も長からずも短くはないだろう。そして互いの信頼関係も深く長い故にキリシタンとして極秘任務を下してもなんの違和感も問題もないだろう。

 しかし、時貞はこの屋敷に匿われて数十日しか経っていない。

 それなのにおたあ同等に重要な極秘任務を任されるのは恐れ多くも自身に託していいのか気が引けてしまった。


「……あの。しかし、私は居候の身で、ここに置いてもらってそんな日にちも経っていませんし、その前に私はここの従属では……」

「俺は、今決めた。トキ、お前は今日から俺の良き重臣として仕えるものとする!」


「……………………え?」


 唐突で突然の異例昇進。


 林の中、血塗れで倒れていたあの頃からしたらありえないことで。

 一国の統率を担う大名の側近として仕えることなど、例え身分があったとしても相当難しいことである。

 おたあはおろか、時貞は行長の即断即決さに反応出来ない程の呆気にとられ、驚きを隠せない。その証拠に横で聞いていたおたあも横から口を挟んだ。


「まあ、これは由々しき事態……」

「あ、あの、ゆ、行長様、その、それは何かのご冗談で……!」


 そして当の本人はおろおろと落ち着かないでいた。


「俺はいつだって本気だ! 俺の口にすることはみんな真剣だ! 俺が認めたものを決めて何か悪いことでもあるか?」

「よ、よくお考えになったほうが、居候の身の上で、また見ず知らずの私が貴方様の重役側近なんて……」

「どっちにしろ、この城を出たところで帰る場所はないんだろ? 特にこの時代の人間ではないならな」

「それは、そうかもしれませぬが……」

「だったら不都合なことなんてないはずだ。今の条件からしてトキは俺に仕えた方がなにかと都合がいいこともあるだろ。何もしがらみがなければ俺がお前を雇っても問題ないはずだ」

「行長様、それに私の身分に関しましても……」

「トキ、余計な口答えはするな。あんまりにも口が過ぎると、俺の拳が唸るからな」

「……っつ!!」


 行長の拳。険悪な威厳と雰囲気。

 反射的にまずいと察した時貞は言葉が紡げず。


「トキ、従って返答は?」

「……あ、の……こ、心よりお受け致します……貴方様のお傍に仕えることありがたき、幸せ……」


 時貞は行長の威厳に逆らえず、素直に従う他なかった。


「うん! 気持ちのいい返事だ! 心よりお前を歓迎するぞ! おたあも文句はないよな?」

「え、ええ。トキ様であれば、私も心から歓迎致します」

「だよな、だよな! よし、決まりだな! 改めてこれからよろしくな、トキ!」

「は、はい……今後とも、どうかよろしくお願い申し上げます……」


 行長は一辺して上機嫌になった。

 普通ではありえない唐突で突然、今日から時貞は行長の重役側近として仕えることになった。


「では主、トキ様の昇進の儀はいつほどに?」

「いや、流石に今回ばかりはトキの昇進を公に出来るものではない。この昇進は異例というのは俺も自覚している」

『……あんな大胆なことを仰っていても自覚はしていらっしゃるのですね……』


 大胆不敵でいてどこか繊細。時貞は心の中で突っ込むも口に出してはまたややこしいことになるので流すことにした。


「じゃあこれから極秘任務の内容を詳しく説明していくぞ」


 時貞の体に力が入るのを感じる。


「して、主。その極秘任務とは……」

「俺が密かに企てている、キリシタン再建復興統一計画の手立てについてだ」

「キリシタンの、再建復興統一……」


 時貞は復唱すると鼓動が強く打つのを実感する。


「これは大規模な計画……国事態を揺るがすことになるだろう。それは俺も重々分かっている。お前らもこの先脅威が迫る可能性は大いにある。故に天に命を授ける覚悟が必要になってくる。冗談や半端な気持ちを持つんじゃ務まらねぇぞ」


 その言葉がいつにも増して重く体に受け止めたかのような錯覚を覚える時貞。


「……しかし急なことで、流石の私でもついていくのがやっとというか……」


 猶子として小西家に仕えるのも長いおたあでも壮大なる野望を聞かされるとは夢にも思っていなかったのでまともな反応でもある。


「急じゃねえ、これはもう今やらないと、手遅れになっちまう、気がするんだ……」

「…………それは、確かに」

「トキはやけに物分かりがいいじゃねぇか。俺の発言はなんとなくなところも多いし、断定しているわけではない。しかし、流石側近として見込んだことだけある」

「…………それは…………」


 時貞はいやと言うほど思い知らされている。


 キリシタンがこの先、どのような末路を辿るのかということを……。


「……くっ、はっ、はぁ!」


 忌まわしい記憶が占め、これ以上思い出したくないと脳が拒否しそれが無意識に体が震え、呼吸も乱れる。


「トキ様、如何なされました? 薬をお持ちしましょうか?」

「っいえ、大丈夫ですおたあ殿……一端気持ちを、落ち着けます……」

「トキ、お前が俺に訴えていたこれから先の出来事、なんだ? えっと……せきがはら、が起こるとかどうとか……」

「…………」


 時貞は出来ればこれ以上口にしたくなければ、思い出したくもない。そのための沈黙だった。


「……まあ、無理には聞かねぇけど。なんとなく俺の勘ではあるが、あんまり芳しくないのは確かなようだな」

「主……」


 行長の決意は本気で、時貞も意志の強さを感じていた。


「……行長様。今の時世について詳しくお聞かせください。この時代の現状を正確に把握しておきたいのです」


 時貞は気持ちを落ち着け、居住まいを正し覚悟を秘め、現状の現実を受け入れようと行長から詳しく聞くことにした。


「そうだな。キリシタンは今、サン=フェリペ号事件以降、豊臣将軍がそれで怒りに触れちまって。伴天連バテレン人や宣教師の追放がひどくなってきているんだ。これらがいなくなると伴って棄教するやつらも続出しているんだ。でも、せっかく俺の祖父から受け継いだこの誇りを、失いたくない! だから少しでも仲間が多いと行動するのに助かる」

「……やはり、この時代から……ということは、あのサン=フェリペ号の事件は本当に……」


 サン=フェリペ号事件。

 歴史の古文書で時貞は目にしたことがある。

 西暦一五九六年。元号にして文禄五年。

 四国の土佐に西班牙スペインから来たガレオン船の漂着事件での出来事で、その乗組員の発言が大問題となった事件。豊臣秀吉の唯一のキリスト教徒への直接的迫害である日本二十六聖人殉教のきっかけとなったとされる。


「……やはり、この時代からキリシタンは不自由な身であることには変わりないのですね」

「豊臣将軍はそれでも南蛮から仕入れられる物資貿易のために、大概のことでもない限り見過ごしてくれていた方ではあったが、サン=フェリペ号事件をきっかけにキリシタン最大の殉教、二十六聖人の処刑命令も相まって周囲からは「悪」だとみなされている。俺は、その影響が更に悪化するんじゃねぇかって、なんとなく、俺の中では予感してるんだ……」

「ええ、行長様の言う通りかと……」

「やっぱ、確信した物言いをするな」

「…………」


 確信も何も、時貞は既に身をもって知っているからだ。


「それはやっぱり、お前が言っていた訳の分からない予言が俺の嫌な予感と一致するのか?」

「……お察しの通り、かと……」

「そうか……それを聞いて俺は、この時を待っていたような気がするんだ!」

「あの主、嬉しくしているときでは……」

「でも、感じるんだ! やっと俺の野望に一歩踏み出せるこの時を! このままではいけないと、今動けと、俺の勘がそう言っているんだ! 不思議だけど、笑っちまうかもしれねぇけど、なんかそんな気がするんだ!」

「行長様、私は貴方様の信念を信じ、ついていきます。一国の主にたてつく態度を取ったにも関わらず、更に行く当てもない私を傍に置くことを選んでくださいました。そんな厚い気持ちがあるお方を、誰が疑うものでしょう」

「お前の言い放った先の未来。信じられないのは未だになんだが、感覚としては俺とお前は似ている部分がある。もしやとも思うし、違うかもしれない。だから俺は確かめながら先へ進んでみようと思う。キリシタンの再復興を兼ねて、な。それで、いいよな?」


 時貞の胸が久々に熱くなるのを感じた。不器用でも大胆不敵でも、行長ゆきながの前向きな気持ちが鼓舞させる。


「それでも、光栄で御座います!」

「主、トキ様。私も出来ることを精いっぱいやります。どうかこのジュリアおたあに、いつでもご命令ください」

「ああ、もちろんその心算だぜ。頼りにしてるぞ、ジュリア」

「よろしくお願いします、おたあ殿」


 三人は同じ野望と希望を胸に、十字架クルスを胸に強く堅く結束し合う。


「さて、これよりキリシタン再建復興統一計画の発足第一段階を二人に告げる。この再建を目指して動こうというところでまず先に、薩摩さつまの協力を仰ごうと思っているんだ」

「薩摩?」

「ここより更に南下に治めている国、薩摩大名・島津義弘しまづよしひろ殿が縄張りにしているところだ」

「ということは、義弘様に謁見されるということでしょうか」


 おたあは島津義弘がどのような人物であるかは知っていた。


「まあ、そういうところだ。まずは俺たちの後ろ盾、つまりは大きな支えが必要となる。キリシタン……と今思ったが、これはあんまり言葉にするものじゃないな。以降は「耶蘇教やそきょう」と表現しておくか。耶蘇教に深く信仰していた長崎の大村おおむら一族も大分の大友おおとも一族も城主が亡くなってから衰退の一途を辿っている中で、俺だけの力では到底野望には手が届かない。少しでも多くの人員や助けの確保は、戦国の世では定石だぜ」

「流石は、行長様で御座います」


 数々の戦を経験しているだけに、心得がしっかりしている。大胆かつ繊細で地道だが着実。時貞は関心するばかりである。


「ちなみにトキは島津義弘殿を知っているか?」

「い、え……あの存在していたことはご存じですが、私の時代ではその方は既に亡くなられていらっしゃいますので、薩摩の国の領主とまでしか認識しておりません」

「まあ、お前の言う四十年後ともなれば流石にいねぇか。何しろ、今の時点でじきに御年六十を迎える元気なじいさんだからな」

「行長様はもちろん面識は……」

「俺は大名だぞ、しらねぇわけがねぇだろ! 文禄の役時代でも共に戦った仲でかつては領地を争って奪い合ったぐらいだからな。今では九州平定の影響でなりを潜めているが、まだまだ武士としても現役で勇ましい薩摩の鬼だ。俺でも油断ならねぇところが多いぜ。しかしあの、実力、戦力、統率力、士気力、軍師力は文禄の役の共闘で申し分ないものを見させてもらったんだ。俺の目に狂いはない!」

「その義弘様に協力を仰ぐとして、快く請け負ってくれるのでしょうか?」

「……俺の推測では、今の段階で耶蘇教やそきょう者に向けて協力してくれる可能性は低い」

「え、そんな……!」

「私もそれは、同じ気持ちですね……」


 おたあも口を揃えて行長に同意する。


「確かに島津一族はかつて来訪してきた宣教師ザビエルを受け入れたことはある。だが、その一族はかつて耶蘇教の信仰を断っているんだ。従ってサン=フェリペ号事件に二十六聖人の処刑。その悪評がある中で全土に渡って広まっている中で協力を仰ぐんだ。島津のじいへの利益を考えたとしても、荒波の中を泥船に乗せるようなもんさ。そんな状況でじいが承諾するとは思えねぇよ」

「では、どうすれば。それでも行長様は義弘様のご協力を仰ぐお心算なのでしょう?」

「そりゃそうだ! 不利だからといって俺はこんなことで諦めたりはしない! だって、それは今の時点での話だ。今から動くと考えたら、色んな手を打っておくことはいくらでも出来る!」

「では、その承諾を得るためにどのようにお考えで?」

「それをこれから考えるんだ!」

「え……?」


 時貞は思わず呆気にとられ、それが表情に出ている。


「なんだよ、その顔は」

「……てっきり既にお考えかと思っていました……思い切って提案をしていらっしゃいましたもので……」

「やはり勢いだけで、まだ詳しい段取りが出来ておりませんでしたね、あるじ


 行長の性格を理解しているおたあはこんなことでは動揺せず、冷静に切り返す。


「っすぐ早々に考え付くわけねぇだろ! しかし、島津一族の協力を得られたら再建復興統一の第一歩が踏み込める。何しろ、薩摩にはある強味があるからな!」

「強み、ですか?」

「島津一族の率いる勇ましく頼り甲斐のある挙兵に鉄砲・種子島などの武器の製造仕入れだ。種子島の伝来であの天下の織田信長おだのぶながも使用していた初代一品火縄銃もこの薩摩の地で造られた。九州の地でこんなにも強い後ろ盾はそうもない!」

「確かに、こちらに引き入れたら後ろ盾としては強味はあるかと……」

「だから、その利益を両立させるために、こちら側にも薩摩にいい利益をもたらせる何かがあると義弘のじいは快く納得してくれると思うんだ!」

「挙兵や鉄砲・種子島に見合う何か……しかし、見返りが大きすぎますね……」

「こちら側の挙兵は豊臣将軍の後ろ盾のおかげでなんとかなるが、問題は鉄砲・種子島の仕入れ協力だよな。耶蘇教やそきょうも絡んでいるだけに、そこをどう埋め合わせるかで左右されると踏む」

「……行長様、今思ったのですが、長崎の南蛮交易を義弘様に提供されるのはどうです? そうすれば鉄砲・種子島に関して有益なものが得られるかと……」


 時貞もこれより三十年後の先の未来で貿易や交易などを見たことを思い出していた。よって我ながらよい提案だと自負したが。


「いや、実は俺もそれは思ってたんだ。しかし、今は秀吉様が手中に収める管轄区域。裏を返せば今は警戒態勢が強い区域でもあるんだよ」

「……それはおいそれと手出しが難しいですね」


 同じ考えを持っていた上に、キリシタンや滞在する宣教師、聖職者などを取り締まる危険地帯になっており、現状が厳しいことを知らされる。


「キリシタンへの警戒を強めている中で、そこを占めるのは流石の俺でもまだ無理がある。だから、まずは将軍秀吉様ですら屈さず及ばない薩摩の援助が必要なんだよ」

「薩摩の鬼、島津殿の後ろ盾……第一段階から高い壁でもありますね」

「まずはその手立てを考える必要がある。島津のじいと謁見するのはそこからだ」

「そんな中で説得をするのは至難の業ともいえますよ」

「それをこれから俺たちで考えて決めていくんだよ。だから二人にも説得させる材料を考えて提案してくれ! いいな?」

「はい、最善は尽くします」

「了承致しました、主」


 島津義弘の説得という大きな課題がある中行長が。


「……よし、この話はとりあえずここまで! トキ、おたあ、菓子食べねぇか? てか、俺が食いたい! 早速食おう!」

「菓子の刻限……」

「主、また唐突に……」


 行長がまた突拍子な発言をし出した。


「こんなうす暗い場所でしけた話してたら気分が滅入るだろう? それに、この刻限だったら丁度いいだろう。とりあえず場所を移動するとしよう。二人共ついてこい!」


♰ ク ♰ ロ ♰ ノ ♰ シ ♰ タ ♰ ン ♰


 陽が当たる敷居の広い場所へ案内される。そして行長は戸棚の中に閉まっていた箱を取り出し、中を見せると黄色く、上と下が茶色の層になっていたものが御膳に運ばれてきた。


「ほら、しんみりなっていると気分まで暗くなるだろ? そういうときは甘いもんでも食って張りつめた気を休める! 今回は特別なものを仕入れてきたんだからよ」

「これは、カステラ!」

「まあ……こんな貴重なものをよく手に入れられましたね」

「ふふん、実は最近密かに平戸へ偵察がてら調達してきたばっかなんだ。傷む前に早く食わねぇともったいねぇだろ」

「有難う御座います、主」

「私、大好きです! 幼い頃、父上が平戸へ出奔したときは貰い受けて食していました」

「そうか。俺も好きだし、気に入ってよかったぜ!」


 気分は一変し、時貞もご機嫌は上向きで笑みが溢れた。おたあも口端が上がっているのが分かる。二人は皿に分けてもらったカステラを竹串で割って一口頬張る。


「うん、おいしいです! そして懐かしい味」

「私も幼き頃に主から貰って食べてそれっきりですね。まさか今日この日に食せるなんて」


 二人は久々の甘味を味わいながらお茶をすすり、満足気である。


「束の間の憩いは必須だ。問題は山積みだが、こういうのも俺は大事だと思うんだ。戦が横行する中甘い考えだとも思っているが、切羽詰まるのも俺の性に合わねぇってやつよ!」

「行長様のその意見には同意ですね」

「同じくです」


 カステラをおいしく味わいながら頷く時貞とおたあ。


「こういううまいものを、俺たちだけじゃなくて色んな人たちに食べてもらいてぇな」

「さすれば、この戦国の世を泰平の世にしていく必要がありますね」

「甘味を食べたら考えて動かなきゃな、俺たちの存続のためにも……」


 同じ気持ち、同じ志。

 大好きなものをおいしく食べ、共に語らい合える仲間の存在。

 時貞が今までに味わったことのない心の充足感を噛み締めていた。

 みあこですよ! 相変わらずの作者ですよ!


 そろそろ旅行シーズン。しかし酷暑で熱中症になる人がかなり増えていますね。作者もこの暑さで外に行くのは地獄の季節です。世界遺産登録が決定した長崎・天草辺りに行く人もいると思います。楽しく旅行するのはいいのですが、現地の住民の方々に迷惑をかけずにルールと最低限の常識は守って気持ちよく観光してもらえたらいいなと思ってます。


 あと水分・塩分・ミネラル補給はこまめに、しっかりととって休憩しながら観光ですよ!


 美しいコバルトブルーの海と教会のコラボレーションがこれまた神秘的で幻想的で、作者は強くオススメです!定番の大浦天主堂はもちろん、私は五島列島とか生月島辺りに原付バイク一人旅へ行ってみたいですね!


 次回は堅く団結し合った仲間と共にキリシタン再建復興統一計画第一段階を展開して進めていきます。


 それでは皆さん体に気を付けてお過ごしください。


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