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~第二章~ 野望と希望

ここから歴史の説明。


キリシタン。


西暦・一五八二年。元号にして天正十三年。

南蛮の国より天正遣欧使節を派遣したのをきっかけに日本へ渡来した伴天連バテレンの聖職者が布教を広め、その影響下において日ノ本の人間が入信し、信者になる者のこと。

 その時代は織田信長おだのぶなが滅亡後、豊臣(とよとみ)政権の真っただ中。フランシスコ・ザビエルの日ノ本渡来によって始まった。南蛮という言葉は主に西班牙領土やヨーロッパなどを中心とした言葉を指す。

 他にも和蘭や英吉利を通してその影響下で貿易などを用いて南蛮の物資を手に入れることが出来る。それがキリシタン大名の特徴。家系として有名な三大キリシタン大名として挙げられるのは長崎の大村(おおむら)純忠(すみただ)、大分の大友宗麟(おおともそうりん)、そして有馬(ありま)(はる)(のぶ)などがその影響を強く受けた。

宣教師ザビエルがキリストを布教するために渡来して初めて訪れたのが薩摩の国である島津(しまづ)(たか)(ひさ)豊臣(とよとみ)政権の影響によってキリシタンへの荒波がひどくなる中で表向きは将軍に仕えながらイエスズ会の聖職者や宣教師達を隠し匿っていたという日本歴史上では表向きにされていない事柄である。


行長ゆきなが様、私は、私は…………キリシタンの身分なので御座います……!」


 そんな中で時貞ときさだは告げた。勇気を振り絞って、恐怖を凌いで、自身の身分を明かした。


「…………それで?」

「え……?」


 何かしらの反応があるかと構えていた時貞だったが、意外にも気にしていない発言で意表を突かれた形で返された。


「続きがまだあるんじゃないのか? 今の時点ではお前の身分しか聞いていない。だが、肝心なのはそこじゃないんだ。この後の、そんなお前がなんで林で倒れていたかの経緯だよ」

「……」

「ここまで話したなら、もう腹も据わっているだろ。俺がきっちりと受け止める」


やはり根掘り葉掘り聞かれてしまうものだと、ここまで来たら引き返せない。

打ち明けたあとの沈黙がどうにもならない空気を張りつめる。

時貞もつい目が泳いでいることが分かる。

しかし、行長の後押しが逆に妙な緊張感から解き放たれたような気持ちになり。


「……信じてもらえないかもしれませんが、私は、この時代にいるはずのない人間なのです……」

「……」


 それを聞いていながら行長は妙に沈黙であっても冷静だった。


「私自身も最初は錯覚だと、単に気のせいだと思っていました……しかし、日が経つにつれて違和感を覚えるようになったのです。始めはおたあ殿から借りてきた歴史文献がきっかけでした……」

「なるほど。おたあが歴史文献を借りたいと言ってきたのは、そういうことだったのか。しかし、それがこの時代の人間ではない、という考えに至ったきっかけになったんだ?」

「行長様は「寛永かんえい」という言葉をご存じですか?」

「いや、全く聞いたことのない言葉だ」

「この言葉は私が生きていた時代の元号なのです。今でいう「慶長けいちょう」にあたるもので御座います」

「とすると?」

「現在が慶長けいちょう元年だと仰るのであれば、私が生きていた時代は寛永かんえい十四年。今からの数えですと約四十年後の未来を指すということなのです」

「今から約四十、年後……?」

「私はその寛永かんえい十四年の時代を生きた人間なのです」

「そんな……にわかには信じがたい、トキが未来の人間だなんて……! 未来の人間が過去のこの時代に来る。常識ではありえねぇことだ……」

「だから私自身も信じ難かったが故に、話すのも戸惑いました。この話では更に混乱を招くものだと判断してしまったので……恐れ多かったのです、私の口から告げるこの真実が……しかし、豊臣秀吉とよとみひでよし公旧将軍の言葉と病に伏して危篤状態ということを聞いた瞬間、それは最早確信を持ってしまったのです。やはり私は過去の時代にきた人間なのだと……!」

「じゃあ……「月の宴」で叫んだ意味の分からない俺への不吉な言葉も、昨日の豊臣秀吉様の病の後の発言も、お前は既に知っていたということになるのか?」


 時貞が今まで発言してきたことを行長の中で整理をし、接点を合わせていく。時貞は肯定する。


「……きっと、この過去の時代に来ていることが、あの林の中で倒れていたことと関係があるのかもしれません。しかし、どうしてこの時代に私の身があるのか、今でも理解不能なのです……」

「それ以前の出来事を覚えているか?」

「それ以前……?」

「林の中で倒れていた以前の出来事だ。それを思い出せば、どうやってお前がこの時代へ来たか分かるはずだ」

「……それが」

「覚えてないのか……?」

「…………」

「どうやら、その辺りがトキにとっては忌まわしき記憶とやらか」

「断片的で、思い出したくない記憶だからか、無意識に拒否して体が震えてしまうのです……!」


 それは己自身が知ってる。内から外へ体中に震える感覚が未だに時貞を占めている。


「……トキ、ちょっと耳貸せ」

「……え?」


 そんな中、行長に何を言われるかと思ったら予想だにしない言葉が返ってきたため思わず時貞もきょとんとしてしまう。


「いいから、耳貸せって!」

「……?」


 どうしてそんなことが言われるのか分からないまま、時貞は耳を行長に近づけたその途端。


「こんの、アホ野郎がっ!!」

「いっ!?」


 平手で時貞の頭を躊躇いもなく叩いた。突然の出来事に時貞も若干混乱し、戸惑いを隠せずにいた。


「い、たた……ゆ、行長様?? な、何故急に!?」

「気合を入れてやった! あともどかしい! そういうの元々性に合わねぇんだよ! やっと本音を引き出してきているんだ。お前の口から言うのをどんだけ待ってたことか!」

「え? あ、あの?」

「俺ってそんなに信用がなかったってことかよ! あの時からずっとだんまりしてやがって! 他のやつらには言わないにしてもここの主である、俺にだけは言ってくれてもよかったんじゃねぇのか!? ああ!?」


 時貞の頭を乱暴に強引にがしゃがしゃと力を込めて強く


「あの、それは……」

「俺が、お前の正体を知らなかったとでも思ったか?」

「!!」

「お前がその十字架クルスを見せる以前、お前と初めて会ったときから分かってたんだ。血塗れで倒れていたあの時のこと」


 時貞が林の中で倒れていた状況を改めて行長の口から知った。


「お前があの時着ていた衣服で俺は今やっと確信したんだ。羽織っていた外套カパ、カルサン風の袴履き、あれは南蛮から貿易で取り寄せなければ手に入らないものだということを俺は知っている。それを羽織っていたお前はキリシタンだと。十字架クルスを見せずともそれだけでも十分だった」

「行長様。それをご存じということは貴方様自身もその身分だから、なのですよね?」


 そう言われると行長は懐から取り出したもの。


「…………そうだ、俺の家系もドン・フランシスコザビエルがこの地へ来航してから祖父から代々に受け継がれているキリシタン大名。洗礼名アウグスティヌスだ」


 その手には切子に輝く十字架クルスの首飾りが揺らめいていた。


「素敵な洗礼名、ですね」

「本来はその名を気に入らねぇけどな。そしてこれは大名特別に作らせた薩摩特製の切子の十字架クルスだ。他じゃ手に入らないんだぜ? しかしこのご時世、見せびらかすものでもないんだがな」


 見せびらかすように淡く煌く十字架クルスを時貞に見せる。


「私も打ち明けたことで。少し心の荷が軽くなった気がします。やっと、この時代が私のいた時代ではないと、確信が持てました。そうだと早く分かっていれば貴方様に私の身の内を早く告げていました。それでは、ひょっとしておたあ殿も……」

「ああ、そうだ。おたあもその一人。洗礼名ジュリア、ジュリアおたあだ。なあそうだろ?」


 行長が戸に向かって話しかける。すると戸が開いて。


「はい、あるじ


 ジュリアおたあが襖を開け、入ってきた。


「おたあ殿。いらっしゃったのですか!?」

「そろそろ、男同士のむさ苦しい話に花を添えたくなったからな。ここからはジュリアも交えて今後の話をする」


 おたあもとい、洗礼名・ジュリアが戸を閉め、もう一枚御座を床に敷き、そこに正座する。


「俺達の話、ジュリアも戸越しに聞いてただろ?」


 行長の問いにおたあはこくりと頷く。


「頼んでもいないのに、彼女を私の共につけてくれましたのはそういうことでしたか」

「そうだ、他のやつらには頼めなかった。だから一番信頼のおけるジュリアに、お前の側につけてやったんだぞ? ジュリアは元々、仏教徒を信仰する者ではあったが改宗させた。俺の影響でだけど素直に聞いてくれたからな」

「主は私にとって命の恩人。それを報いるために従いました」

「俺は今までの話は信じがたいことは確かだ。不可解だし奇妙だし常識外れで理解の範囲を遥かに超えすぎている……夢話を聞いている気分だ。許容範囲の広い俺でも、久々に流石に度肝を抜かれた、驚かされた……でも、トキの話のおかげか、俺はある決心をした」

「決心、ですか?」

「聞いてくれるか? 俺の内に秘める希望と野望を……」

「はい、お聞かせください」


勿論拒むことはない。

拒む理由などない。

内容は聞いていないが、時貞は胸の鼓動が抑えられない中耳を傾ける。

行長の単刀直入かつ真剣で快活な発言は壮大なものだった。


「俺はこの世を泰平の世にすると共に、キリシタンの再復興統一を図る」


「……キリシタンの再復興統一……」


「主がまさか、そんな野望を。私、初耳です」

「そりゃあ、言ってなかったからな。てか、こんな本気の野望は言えるはずもない。途方もない夢事だしその……笑い話になりそうだったから……」


行長が胸に秘めていた野望。

初めて打ち明けただけに照れているような言って後悔したような複雑な表情を浮かべている。


「そんな……」

「そんなことはありません! 行長様はやはり、上に立つべき大名様で御座います!」


 先に告げたのは時貞だった。

 胸が逸るのを感じ、今までにない高揚感だっただけに声も久々に上ずり、まばゆいほどの、曇りから晴れ間が差すように、神か天使が舞い降りてきたかの如く、それらに匹敵するような美しい笑顔がそこにあった。


「お……トキ……」

「トキ様……」


 それを初めて見た行長とジュリアは突拍子もない表現でも時貞の持ち前の美貌に見惚れていた。


「素晴らしいです、その発想! 行長様はなんて素敵な野望、いえエスペランス、壮大な「希望」をお持ちなのでしょうか! 周囲にそんな考えもないのはおろか、私ですらそんな考えには至らなかったのに、行長様は本当になんと壮大なお方なのでしょう! 私はこんな気持ちになったの初めてです!」

「ま、その、トキ、ちょっと落ち着けや」

「私も、主のその発想に賛同です。主の統一する世の中を、私は見てみたい」

「そ、そうか、それは、まあ、何よりだ! ははははは!」


 時貞のあまりの変わりぶりに戸惑いはしたが、ジュリアの助け舟もあって流石に二人からよいしょされれば気分も高揚になる行長の性格は分かりやすいものであった。


「とは言っても、今はまだ俺だけの独断な統一計画だ。しかし、俺は密かに進行しようとしている、それには色々と考えもあるし、協力は必要不可欠だ」

「それはどういったものなのですか? ぜひ、お聞かせください!」


 久々に瞳が輝いた。時貞自身でも分かる抑えきれない聞き事だけに先が気になる。


「それはな……」

「はい!」

「…………腹減った」

「え、ええええ???」

「主……また唐突に……」


 緊張から不意に緩和に変わった。行長は気分にいつも任せる。感じたことを率直に話す。というわけで空腹を告げた。なんとも単純な性格である。


「しょうがねぇだろ、真剣に張りつめてたんだし、もとはといえばトキ、お前のすっとんだ話を聞いていたら頭の使い過ぎで腹が空いた! てなわけで、その話は昼飯の後で! メシだ、メシ食うぞ!」

「は、はあ……しかし、気づきましたらもう半刻ですか、そういえば私も空腹かも……」

「それでは、食事の準備に取り掛かりましょう。暫しお待ちください」

「おう、頼むぜジュリア」

「ありがとうございます、おたあ殿」


 そういうとジュリアは颯爽と部屋をあとにした。


「トキ、その……」

「はい?」


 一瞬溜めて、行長は告げる。


「ありがとな……俺のこんな、野望話を聞いてくれて。あまり滅多に言えないが、お前が俺の、エスペランス、希望だ」


 時貞は目を一瞬見開き、そして目を細め微笑みながら告げた。


「行長様、お礼を言うのは私の方です。見ず知らずの私を拾っていただいて、受け入れてくれてくれて、常識離れした話を聞いてくださって、私は貴方に出会えたことを心からよかったと思えています、本当に……」


『以前の私は、そんなことすら望まれなかった、許されなかったから……』


 憂いを抱く過去を思いながら格子に目を移すとその間から眩い程に光が暗い部屋の中に差していた。

 はい、どうも! みあこ作者です!


 さあ、第二章へと突入したわけですが、何事も地道なんですよ。やっぱり。


 時貞ときさだが歩みを進めていくのも、小説を書くのも、そして人生も。


 何事も地道に続けていくことこそ、有意義なのではないかと思います。そんな思いで今でも書いています。直進もいいけど「急がば回れ」の言葉が私には合っているものだと思ってます。


 時貞ときさだ行長ゆきながの奇妙で奇遇な出会いと接点が重なり合う。


 今でも続きを地道に書き続けています。楽しみながら、休憩しながら。では、次回☆ 

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