09.庶民と貴族
花子は一回目の合格を聞いて意気揚々と自分の寮に戻って来た。
これであと二回試験に合格すれば大丈夫よね。でも明日は授業に出なくっちゃならないかぁ。それにあと二回ある進級試験はどんなことをするのかしら。
うーん、気になる。
気になるけど考えてもしょうがないか。
花子は一度部屋に戻ると明日着る制服を用意するとベッドに入った。
明日は授業・・・早く寝なきゃ。
どうやら試験の時に使った魔法のせいで思った以上に疲れていたらしく花子はすぐに眠ってしまった。
ジリジリジリジリリーン。
ジリジリジリジリリーン。
ジリジリジリジリリーン。
「うーん。」
パッチン。
花子は右手で目覚まし時計を叩くと眠い目をこすってベッドから起き上がった。
ふあぁー。
なんでかすっごく眠い。
しかしさすがに今日は授業に出なければまずいわよね。
花子は制服に腕を通すと椅子に掛けていた真っ白な割烹着を制服の上に着てから部屋を出て食堂に向かった。
昨日護衛の人にお願いして用意してもらった食料を冷蔵庫から出すと簡単な朝食を三人分作り、二人分は護衛をしてくれる人に転送してから自分の分をゆっくり食べ始めた。
すると護衛の人から声がかかった。
「あのー花子様。大変嬉しいのですが毎度毎度我々の分まで作るのは大変ではありませんか?」
「へっ別に問題ないわよ。一人分も二人分も変わらないし、手間も同じよ。もしかして美味しくなかった?」
「いえ、大変美味しいです。ありがとうございます。」
護衛の二人は周囲に探査魔法を飛ばしながらも交代で食事を頂いた。
う・・・美味すぎます、花子様。
二人は目線で主人が作ってくれた朝食の美味しさを分かち合った。
この仕事美味すぎです。
花子はゆっくり食事を終えると番茶を飲んでから食器を食洗器に入れ、白い割烹着を椅子に置いてカバンを持つと外に出た。
まだ時間があるので花子は教室まで普通に歩いた。
綺麗な並木道が校舎まで続いている。
サワサワとした風が木々の間を抜けていく。
何とも気持ちがいい。
昨日に引き続き今日もいいことがありそうだ。
花子は綺麗な空気を胸いっぱい吸い込みながらもそのまま教室に向かった。
魔法学校の校舎の中にそのまま歩いて行くと教室前の廊下で誰かに肩を掴まれた。
「ちょっとお待ちなさい、庶民。」
とても値段がはる布地で作られたヒラヒラした洋服を着た女生徒に花子は呼び止められた。
「何か?」
花子は首を傾げてその女生徒を見た。
彼女は何に激昂したのか急に手を振り被ると花子を平手打ちしようとした。
咄嗟に防御魔法を起動してその平手打ちを防ぐと相手は花子の展開した防御壁をガッという派手な音を立てて叩くことになった。
どうやらかなり痛かったらしく。
相手は右手首を左手で押さえ蹲っている。
あらら、大丈夫かしら。
咄嗟だったので相手が悪いとは言え防御魔法を発動してしまったので一応謝ろうと跪く前に相手に涙目で睨み付けられた。
「しょ・・・庶民の顔はさすがに岩でできているのね。いいですか。もう二度と私にはむかおうとしないことね。」
指をさしてよくわからないことを言うとその女生徒は教室の中に入っていった。
「なんだったのだろうか?」
結局花子には彼女が何がしたかったのか最後まで理解出来なかった。
リーンゴーン。
リーンゴーン。
二回鐘が鳴って授業開始時間になった。
廊下の先から先生たちが各教室に向かって歩いて来る。
花子も慌てて教室に入ると始業式の日に座った席に着こうとしたがそこは空いていなかった。周囲を見回すがどこにも花子の席がない。
そのうち先生が教室に入って来た。
全員が立ち上がって挨拶し席に座るが花子にはその座る席がなかった。
教室にいる他の生徒たちがニヤニヤと花子を見ていた。
「山田さん早く席に座りなさい。」
先生も他の生徒と仲間のようで真面目な顔して花子に席に着くように教壇をトントンと持っていた杖で叩いた。
杖!
そうか魔法を使えばいいのだ。
花子は傍にあった机と椅子をみてから空中に”机”と”椅子”という文字を描くとそれに魔力を乗せた。
文字が即座に光出し花子の目の前には教室にある他の生徒が使っているものとまったく同じ”机”と”椅子”が忽然と現れた。
教室中がポカーンとした顔でそれを見ていた。
花子はそんな彼らを無視すると出来上がった椅子に腰かけた。
かなり時間が立ってから我に返った先生により授業が始まった。
追伸
この様子を見ていた花子の護衛二人はこの教室にいたすべての人間の名前と今回の出来事を事細かく自分たちの上司であるセバスに報告した。
それをセバス経由で受け取った実父と異母兄は喜々としてその花子を笑いものにした人物全員に陰で制裁を加えた。




