83.王宮からの招待状
「お帰りなさいませ花子様。」
花子が異母兄と途中で別れ、白の宮殿に戻るとそこにはお茶を飲みながらも冴え冴えとした笑みを浮かべている鬼がいた。
「お帰りなさい。花子さん。」
なぜかそこから目に見えない冷気が立ち上っていた。
「た・・・た・・ただいま戻りました。おばあ様?」
思わず言葉がどもり、さらに語尾が上がってしまった。
何があったのか不明だがヤバイと花子の感が告げていた。
「あのー何かあったんでしょうか、おばあ様。」
「ええ、とても喜ばしいことがありましたわ。」
そういうおばあ様の眉間には青筋が立っていた。
一体何があったの?
「こちらを花子様。」
見かねたセバスが花子に何かの封筒を渡した。
封筒?
なんなのこれ。
花子は訝し気にしながらもその封筒を開いて中を見た。
封筒の中には日時と場所それに自分の名前と青紫色をした王家の紋章が描かれていた。
なんですか、これは?
花子が疑問符を盛大に飛ばしているといつの間にか背後に回ったムツキがこの招待状について説明してくれた。
「この青紫色の透かしが入っているということは”白の宮殿”の襲名を王家が承認したこと、またそれを祝っていることを表している招待状です。」
なるほど招待状の意味は理解したけどなんでそれでおばあ様の機嫌が悪くなるの?
「こちらをどうぞ。」
招待状を手に花子が疑問符を盛大に飛ばしているとセバスから前世でいうA4ぐらいの大きさの封筒を渡された。
促されるまま封筒を開けると中につい最近花子の専属使用人になったフレッドの写真が入っていた。
なんで写真が入っているの?
「本当に嘆かわしいわ。なんで花子さんの候補が一人しかいないの?信じられないわ。この私の孫なのに何を考えているのかしら。」
いきなりガチャンとカップを置いたおばあ様に花子が視線を向けると彼女の視線の先には珍しく俯いた状態で壁を背にして立っているツヴァイとそれを呆れた表情を一瞬浮かべたフィーアが同じく壁を背にして立っていた。
花子が二人から視線を戻すとセバスがいつの間にか新しいお茶を入れたカップを持って二人の前に置くと呟いた。
「大海様の魅力に捕らわれたものが多ございますので致し方無いかと・・・。」
セバスもさすがに今回はツヴァイの強いものに惹かれる気持ちをわかりすぎて何も言えなかった。
「くっ・・・。」
おばあ様はセバスが入れたお茶を嫌そうな表情で飲み干すと花子に今度は先ほどとは違って心配そうな表情で尋ねた。
「花子さん。その写真の方はお嫌いかしら?」
えっと今なんて言ったの?
嫌いかどうか聞かれたのよね。
別に今まで何度も一緒に戦ったことがあるし、別に嫌いではないのでそのまま花子は素直に告げた。
「いえ、嫌いではありません。」
花子の一言で張りつめていた空気が一瞬にして霧散した。
「そう。ならよかったわ。」
おばあ様はホッとした表情の後、セバスによって継ぎ足されたお茶を先ほどと違って美味しそうに飲むと今度はご機嫌な様子で夕食まで”白の宮殿”にある図書室の本を自由に読んでいいと言ってくれた。
「本当ですか。おばあ様。」
「もちろんよ。これは私からのお祝いよ。もうこの”白の宮殿”はあなたのものなんですからね。」
花子は自由に本が読めると言われ、その後に続いた言葉を聞き逃したことを後で死ぬほど後悔した。




