80.後悔先に立たず
花子は実父に誂えてもらった晴れ着を着て魔法図書館の前で前世でいうテープカットならぬ魔道具に魔法を通して扉を開けるために最前列に突っ立っていた。
花子の横には先ほどまで満面の笑みを称えた実父がいたが病院から実母が産気づいたと連絡があって実父はあっさりと彼女を見捨てると病院に向かってしまった。
先ほどまで僕がいるから大丈夫だよと言っていたのはうそだったんかい。
心の中にで突っ込みを入れた。
花子は実父が立っていた位置を凝視しながら先ほど入った連絡にやっぱりこの間実母から告白されたことは現実だったんだと呟いた。
それにしてもなんでこうも今日は私の羞恥を突き刺すことが多いんだ。
ついさっきも病院からその連絡を受け取った実父が動揺して言われたことをそのまま大声で復唱していた事実を思い越して苦い気分が沸き上がった。
今も周囲ではヒソヒソと花子がこの年齢で実弟が出来たと呟く声が聞こえている。
なんで実父が大声で復唱する前に私は魔法で実父を消し炭にしなかったんだろ。
そうよ。
私的には今回の裸婦画展ならぬ春画の寄贈主にされたことも物凄く恥ずかしいことだったけど今はそれ以上に実母から実弟が出来と周囲に知られる方が恥ずかしいって自覚してたはずなのに・・・。
あの時実父がまだ予定日は先だから僕も一緒に出るから安心してとか言われてなんで頷いたんだ自分は・・・。
あの時肯定さえしなぁったら今こんなことを周囲に呟かれなくても済んだのに・・・。
それもこれも久しぶりにこっちに戻って来た実母からちょっとお知らせがあるのと言われ、年甲斐もなくかわいく首をかしげて箸をおいた人物はあなたは今度おねお姉さんになったのよと告白された。
唖然となっているのになんでかさらに”神社の跡取りが必要だから亡くなった祖母にがんばれって言われて実父が張りきっちゃったんだからしょうがないじゃないかと可愛らしく頬を赤く染めて言われた時にはなんとも言えないいたたまれなさにそれ以上二の句が継げなかった。
そんな状況の時に今回の裸婦画(春画)展開催の招待状が寄付した本人になっている花子に届けられたのだ。
すっかり忘れ去っていてとっさにどうすればいいかわからずにいる間に”さすが花子だね。”と本人を無視してすっかり舞い上がった実父にお祝いだと式典開催に着ていく着物を贈られ、気を利かせたセバスに招待状に出席の返事を書かれ、気が付いたら開催会場の最前列に立っていた。
春画はこちらでは芸術的な価値があり高級品でなおかつそれを寄付した人物ということでなんだか知らないうちに有名人になってしまったようだったのだがそれももう前世の知識がある自分にすればいたたまれない。
いくら前世とは違うんだと思い込もうとしてみたがどうしても羞恥心は消えなかった。
とにかくなんとか気力を奮い立たせて言われたとおりにテープカットならぬ魔力を流すことで行われる展示会場の開場を他の招待客である公爵と公爵夫人及び異母兄と一緒に行ってやっと解放された。
扉が開くとその前で待ち構えていた人々がざわざわとしゃべりながら建物の中に入って行く。
花子はその様子を異母兄とつい最近婚約者候補になったフレッドに支えられてその場で会場に入って行く人々に笑顔を向けて立っていた。
「ご心配でしょうがあの病院はこの国一番の医療機関ですから大丈夫ですよ。」
フレッドが花子に心配そうな表情で小声で話しかけてくれたが別にあの死にそうな目にあってもしぶとく生き返ってきた実母をいまさら心配する気はなかった。
むしろ心配になるのは自分の今の立場だ。
意識しなくても会場に入ってくる人々が自然と花子に視線を向け会釈しながら何やらささやきあって通り過ぎていく。
聞こえる限りは否定的な言葉を吐いているようではないがどうにも先ほどの実父の件と今回の春画を寄付したことを周囲の人は話しながら通り過ぎていくようだ。
春画を芸術的にとらえている人が大半かもしれないがここに展示されているものは結構前世でいう18禁ものも真っ青な描写ものが所狭しと並んでいる。
はあぁー
心なしかため息ばかりがでてしまう。
もう今日はこのまま帰れないかなぁ。
花子の心は自分の部屋に飛んでいた。




