08.進級試験ー第一回(風)
うーん。
布団の上でゴソゴソしてから花子は目を開けた。
ふかふかの布団の中は至福で動きたくないが今日は飛び級試験がある日だ。
すぐに近くにある演習場に向かわなくてはならない。
花子は勢いをつけてガバッと起き上がると素早く洗面を済ませて制服に着替えると護衛と自分の食事の用意をしてすぐにそれを食べると演習場に向かった。
演習場は昨日授業を受けた建物のすぐ横にあった。
花子がそこに行くとそこにはすでに監督官が来ていて何か鉄らしき塊の光沢のある物体を横に置いて待っていた。
「おはようございます。」
花子は丁寧にメガネをかけたお団子頭の女性に挨拶した。
女性は銀のフレームのメガネをクイッと上げると彼女を見て大きな溜息を吐いた。
「おはよう。あなたが入学そうそう進級試験を申し込んで来た山田花子で間違いないかしら?」
「はい。」
花子はなんでか非常に不機嫌な女性に丁寧な返事を返した。
その頃陰で警護していた二人は監督役である教師に憤っていた。
我が主に向けこの教師はなんて不遜な態度なの。
今はまだ我慢よ。
二人は武器に手を掛けながらもお互いに相手を殺さないよう最大限の我慢をしていた。
ここであの教師を殺してしまうのはとてつもなく簡単だがそうすれば食事の提供者に迷惑がかかる。
うん、我慢よ。
影で護衛がそんなことを考えていたとは知らない花子は監督役の教師からこの疑似魔法装置から繰り出される魔法を撃ち消すのが試験だと説明された。
「準備はいいかしら?」
花子は監督役の教師から声を掛けられ頷いた。
まあ、見てなさい。
入ってすぐに進級とかほざく馬鹿者に魔法学校の恐ろしさを分からせてあげるわ。
そして魔法の凄さをこの装置で思い知りなさい。
監督役の教師はダイヤルを回して魔法学校に入った一年生では到底打ち消せない中級程度の魔法に設定しようとしてついうっかり気付かずに摘まみを最大に上げていた。
監督役の教師はそれに気づかないまま魔力を注いで徐にスタートボタンを押した。
ぎゅーん。
監督役の教師から物凄い量の魔力が吸い上げられた。
あれ?
なんでこんな量の魔力が吸い取られ・・・。
監督役の教師が眩暈を起こすくらいの魔力で練り上げられた超特急の風魔法が受験者である花子を襲った。
迫り来る竜巻に彼女の目が見開かれた。
凄い!
これが進級の条件なんだ。
そうだよね。
これくらいしなくちゃ進級なんか出来ないよね。
花子は漢字で”竜巻”という字を思う浮かべ、それに魔力を流すと自分の前面に盾のように置いた。
でもこれだけじゃあ相手の魔法を上回るほどの威力は得られない。
よし、次。
花子はカタカナ・ひらがなでタツマキ・たつまきと次々に思い描くとすぐにそれに魔力を乗せ、さっき作り出した竜巻の周囲をこれらで包み込んだ。
これで威力的にはこちらの方が上になったはずだ。
花子は相手の魔法を撃ち消す為にさらに目の前でとぐろを巻く竜巻とは反対方向に風の向きを作り上げてからそれらをぶつけた。
一瞬両者は膨らんだかと思うと唐突に消え去った。
「よっしゃー!。」
思わず花子の手からガッツポーズが出た。
この時、高校にある校長室の魔法アラームが物凄い勢いで鳴り響いた。
AAA級の魔法が突如として出現しこれも数分で消え去った。
校長は一瞬計器の故障かと疑ったがトリプルクラスの魔法ではこの高校にいる教師では防ぎようがない。
校長は念のため杖を出すと観測された地点に向かった。
校長が警報が鳴った地点に降り立つとそこには地面に尻餅をついて唖然と生徒を見上げる教師とそこに冷静に立ってその教師をキョトンとした顔で見つめる生徒がいた。
校長はすぐにその場にある魔道具から仄かに焦げた匂いが周囲に充満しているのに気がついてその器具に近寄り、その計器が指し示す数字を見て固まった。
数値は最大を表示して振り切れていた。
校長はギギギッと音がしそうな固い動きでその場で固まっている教師に一喝した。
「ジョリー先生、あなたは何をしたのか分かっていますか。」
「はっ・・・はい!」
ジョリー先生は我に返ってその場で立ち上がると校長に深々と頭を下げた。
「申し訳ありません。」
何度も頭を下げているのを見ていた花子がとうとう我慢できなくてなって何んでか必死に謝っている先生に後ろから声をかけた。
「あのーお話し中失礼とは思いますが私の進級試験の結果はどうなったのでしょうか?不合格でしょうか。」
「不合格だって!」
校長はおもむろに呟かれた言葉に顔をその生徒に向けた。
「あなたがこの魔道具から放たれた魔法を相殺したのなら・・・。」
「したのなら?」
「当然、合格です。」
「よかったぁー。それじゃ二回目の試験は何時受ければいいでしょうか?」
「二回目の試験?」
「ええ、高校から大学進級するには試験をあと三つは受けなければならないと書かれていたのですが?」
なんだってこのAAA級の魔法を相殺できる人間にこれ以上何の進級試験が必要なんだ?
そんなものがあればこちらが教えて貰いたい。
「あのー。」
「なんですかジョリー先生?」
「あのー一応規定では確かに・・・。」
校長はこんな騒ぎを起こしておいて規則はと言い出した女性を睨み付けた。
この生徒が先程の魔法を相殺していなければどれほどの被害を被ることになったのかがわからないんだろうか。
思わず睨み付ければ涙目で規定説明を始めた。
全くこんな逸材に規定など・・・。
いや待てよ。
規定には全てに合格した人間は学費が免除になる特典があったな。
ならそれをつけて庶民棟にいるこの生徒をわが校に縛り付けられれば、それはそれでラッキーかもしれない。
よし、ならさっそくあと三回の試験を受けさせてこの生徒をわが校に確保せねば。
校長は生徒側の魔法回復を聞いてから次の試験を決めようとしたがこちらの心配をよそに明日でも問題ないと言い放たれた。
これだけの魔法を使って明日までには回復してるとかありえないだろう。
だが自信満々にいいきる本人に校長は一応魔法具の調達も含め三日後の放課後を指定した。
生徒は嬉しそうにそれを了承すると会場から去って行った。
後に残された校長はその後監督役である女性教師にたっぷりと説教をした。