78.おばあ様のもう一つの遺産
花子が不快な船旅を終えて”白の宮殿”戻ってみると自分専属の使用人がもう一人増えていた。
その人物は黒の使用人用の服をさらりと着こなして右手を添えると花子に挨拶してきた。
「お帰りなさいませ、ご主人様。」
「ごっ・・・ご主人様って・・・えっ。」
なんともよく聞きなれた声に思わずその人物を二度見してしまった。
なんとその使用人は花子がよーく知っている人だった。
「えっなんで。なんでここにいるの。」
「酷い言われようですね、ご主人様。」
「ご主人様って・・・いや此処の使用人になったのならご主人様なんだけどなんでまた我が家に就職したんですか。いやそれなことよりいつ飛び級・・・いやいや・・・卒業?」
「ちょうど今回の試合に出たことで少しばかり足りなかった卒業単位を満たせましたので色々ありましたが無事こちらのお屋敷での就職試験に応募しまして採用されました。つきましてはお嬢様、これからよろしくお願いします。」
そういうとつい最近まで花子の試合のパートナーを務めたフレッドはきれいな姿勢で礼をすると隣に積まれていた木箱を指示した。
「こちらは先ほど八百万神社から届きましたものです。どちらに「必要ないわ。」」
花子は動こうとしたフレッドの動きを遮ると自分で木箱を持ち上げた。
「「花子様。」」
「ご主人様。」
「動かないで!これはとーても大切なものだから私が運ぶから、あなたたちはそこから絶対に動かないで。」
「ですが花子様。」
「いい。これは命令よ。あなたたちはこれに触らないで頂戴。」
花子は木箱に手を伸ばそうとしていたフレッド、ムツキとキサラギの三人の動きを制止するとさらに命令した。
「いいわね。絶対、私がこの木箱を部屋に運び込むまで”動くな!”」
花子は魔法で三人の動きを封じるとすぐに木箱を自分で持ち上げすぐに部屋に運んだ。
そしてすべての木箱を運び入れると扉から顔だけ出して彼らの魔法を解除すると当分部屋に入って来ないように告げて扉を閉めると施錠した。
ヨシッ。
とにかく木箱の中を確認しなきゃ。
花子は八つある木箱を箱に書かれた数字順に順番に中身を確認した。
結果。
おばあ様の手紙に書かれていた春画は八つ目の箱にぎっしりと入っていた。
あちゃー。
本当に入っているよ。
これどうしよう。
人の目に触れさえしなければ生々しい絵は別にして描かれているストーリーは結構気に入っている。
とはいえ・・・こ・・・こんなものを本棚に堂々とは飾れない。
どうしよう。
こんな時は・・・えっと・・・こんな時は神頼み・・・いやぁーちがう。
それが何の役に立つのよ。
前世の知識ではベットの下とかに隠す・・・。
ダメよ。
きっとムツキたちが掃除した時に見つかるわ。
もう古い屋敷なら隠し扉とかがあるんでしょうけどこんなに最新式に改装された部屋にそんなものあるわけないよね。
花子は頭をぐしゃっと両手でかきむしりながら思わず呟いた。
「開けゴマーなーんてものがあるわけないよぉー。」
ズズズーーーコトン。
その花子の呟きを拾ったのか本棚の奥が古めかしい音を立てた。
「うそーホント。」
花子は床から立ち上がると開いた本棚に近づいて開いた隙間に手を入れると力いっぱいその隙間を押し広げる。
するとその背後に隠れた本棚が現れた。
花子は喜々とっしてそこに八番と書かれた木箱から中身をすべて移すとパタンと開いた本棚を閉じて今度は厳重に自分の魔法でそこが開かないように魔法で何重にもカギをかけた。
ヨーシ!
これでもう私の以外の人間には誰もここを開けられないわ。
取り合えず開いた八番の箱には他の箱から数冊ずつ本を移してっと、花子が偽装工作をしようと他の木箱から本を動かそうとして木箱の横に張り付いる和紙に気が付いた。
なにこれ?
花子はそれを開くとそれはなんと自分宛に書かれた手紙だった。
「どれどれ。」
そこにはそれ以外の他の春画は花子の名前で魔法図書館の館長宛に送ったと書かれていた。
なっ・・・何てことしたんですか、お・ば・あ様。
それってそれって私のことを世間様にどんなふうな目で見られろとぉーーー。
花子はしばし呆然としそれから唸り声をあげ、熱が出そうなくらい考えた後すぐに諦めた。
もうこれは明日朝一番に魔法図書館に行って館長さんに会って、その本は私のじゃないとものすっごく白々しくても力説するしかない。
信じてくれるか(私だったら信じないよ。うん。)でもそこは強調しなくっちゃ。
とにかく今日は疲れたし、もう寝よう。
花子は早々と諦めると扉の外で待っていたムツキとキサラギを部屋に入れるとシャワーを浴びて寝ることにした。
「花子様。本当にこの木箱の中身を本棚に移すのを手伝わなくてよろしいのでしょうか。」
ムツキが心配そうに花子に聞いてきた。
こっこれは偽装工作をする上でもお願いした方がいいよね。
「えっとよく考えたんだけどやっぱりかなり量があったから明日魔法図書館に行った後、手伝ってもらおうかなって思ってる。」
花子の言葉にムツキとキサラギが顔を輝かせた。
「「はい。お任せください花子様。」」
「ありがとう。でも明日はとにかく朝一で魔法図書館に行くね。」
「はい。そちらもお任せください。」
ムツキとキサラギはそういうとシャワーを浴び終えてベットに入った花子を見届けてから部屋を出て行った。
花子はほんのりと香って来る木箱の匂いに包まれてすぐに寝むりについた。




