77.花子、白の宮殿に帰る。
祖母の手紙を読み終わって本殿に戻ってみるとなんでか滅茶苦茶機嫌が悪い実母にご対面した。
なんでそんなに不機嫌そうなの。
いやいつもだったか。
ついつい祖母の遺産のことを思い出した花子はその遺産をどうしたのかを聞いてついつい大声で滅茶苦茶機嫌が悪い実母を非難してしまった。
「なんで私に断りもなく”白の宮殿”へ勝手に送ったのよ。」
「仕方ないでしょ。そう書いてあったんだから。いつ送っても変わらないでしょうそんな本くらい。」
「ちょ・・・本くらいって何よ。本は大切なものなんだから。」
「二人とも。」
実母の隣にいた実父が止めようとしたが二人は意に介さず、さらにヒートアップした。
そこに”白の宮殿”に帰るために歩いてきたマリアがその大騒ぎに割って入った。
「どうしたのいったい二人ともそんなに大声を出して。」
「帰るなら私も行きます。」
これ以上ヒートアップしたら止められない。
花子はちょうど傍にやって来てくれたマリアと一緒にすぐに八百万神社を出た。
ムツキとキサラギは神社の階段を黙って俯いて歩く花子に何度か声を掛けようとしたがそれをセバスとマリアに止められた。
今はそっとしておいた方がいい。
二人はそういって首を横に振った。
結局一行は終始無言で船に向かった。
本国で孤軍奮闘している異母兄の為にマリアはすぐに船を出発させた。
今回は仕事の関係上いけないとわかっている人間からも大海の葬儀に出たいと希望する人間が大勢いた。
そうはいっても全員で日ノ本に来るわけにはいかない。
かなりの出席希望者が出たことで異母兄がアインを中心とした数人が残れば数日であれば問題ないということを言ってくれたおかげで今回はルービック家に仕えているものの八割近い人間がこの葬儀に出席した。
お陰で船上ではわからないが結構この船は定員一杯の状態だ。
おばあ様の人気恐るべしね。
それにしてもなんであの人、今日はあんなに機嫌が悪かったんだろうか。
花子は目前に広がっている白い海原をぼんやりとみながらそんなことを考えていた。
その間もデッキ上には絶え間なく海から湿気の多い塩分を含んだ潮風が花子の黒髪にもっさりとまとわりついてきた。
うーんべとべとしてホント不快。
はあぁーおかげで春画を見られた時の言い訳が思い浮かばない。
気が重いっていうかなんていうか。
それにしても普通は故人の遺産っていうのは葬式終わってかなり時間たってから初めて手をつけるもんじゃないの。
なんであんなに迅速に対応するのよ。
お陰で妙な言い訳を考えなくちゃならないし、ああ・・・もう。
私はなんで今こんなことで悩まなくっちゃならないのかな。
花子が船のデッキでブツブツいいながら海を見つづけていると背後からコーヒーの香りが漂ってきた。
「花子様。よろしければ一息いれませんか。」
「セバスさん。ありがとう。」
花子はポツンと一つだけデッキに置かれたテーブルの上にセバスが入れてくれたコーヒーを飲むために椅子に座った。
カップを手にコーヒーを飲んでいてふと気になった。
そういえば同乗しているのにおばあ様を見かけていないような。
あれ、なんで?
「セバスさん、あのー。」
「マリア様ならただいま自室にて大海様からのお手紙をお読みになっておられますので今しばらくこちらにはおいでにはならないかと。」
おばあ様からの手紙。
おばあ様いったい何人の方に書いたの。
「ああ、大海様から手紙を貰われたのはマリア様以外では八百万神社の神主である聖と魔法図書館の館長、そして花子様だけです。」
えっそうなの。
でもおばあ様はなんで実の娘に手紙を書かなかったんだろ。
もしかしてそれで出てくるときあんなに機嫌がわるかったの。
いやあの実母がそんなことを気にするとも思えないし他に何かあったかな。
それにしてもさっきからセバスさん。
私がなんにも言ってないのに考え読みすぎだよ。
私ってそんなにわかりやすいかな。
「はい。花子様は大変素直なので何も言われなくてもわかりますよ。」
読心術。
「さすがに私も読心術なるものは。」
いや私がコーヒー飲んでるだけで何も言ってないのに私の表情を見ただけで適格に答えてるのに本当に読心術じゃないの。
花子は”読心術”という文字を思い浮かべてセバスをじっと見つめた。
ダメだ。
魔法でセバスさんが何を考えてるのか読もうと思ったけど読めない。
そりゃそうよね。
魔法で一番大事なのはイメージだもの。
なんでかセバスさんの心を読めるってイメージが浮かんでこない。
浮かんでこないってことは出来ないってことで・・・うーん。
「そうそう花子様。先ほど大学より手紙が届いておりましたのでこれをどうぞ。」
また手紙。
花子は面倒くさいと思いながらもセバスから受け取った手紙の封を開けた。
手紙には飛び級するには単位が足りないと書かれていた。
あっそうか。
結局全勝できなかったんだっけ。
「花子様。今回は残念でしたが大海様関係で何度も大学の講義を欠席することになったので全勝していても今回は飛び級は難しいかと。」
まっ今回はいろいろあったししょうがないか。
でも最近なんでか努力すればするほど当初の目的からだんだんと遠退いていっているような気がする。
カムバック。
無制限に本を読める権利。
花子はコーヒーを飲み終えるとなんだか力尽きてテーブルに突っ伏した。
うーん、ここちょっと寝てないせいか眠い。
とりあえずこの重苦しい潮風が吹いてる間はなにも考えるのやめよ。
それにしてもね・・・ねむい。




