76.祖母からの手紙_花子
花子は前回日ノ本に来た時に戦った崖から吹き上げてくる風に吹かれて呆然としていた。
数日前。
祖母が亡くなった数時間後に到着した実母に連れられ、もう一度日ノ本に戻ることになった花子だがなにがなんだかわけがわからないうちに葬儀の儀式に放り込まれ言われるまま動いているうちに祖母であり大巫女であった大海の埋葬は滞りなく終わって気が付くと花子は彼女の墓碑の前で佇んでいた。
本当にあっという間だった。
今思い返してもここに至る前の人生からなんと遠くにきたものか。
初めにボロアパートの一室が吹き飛び、いないと思っていた異母兄に実母が死んだと聞かされ、存在しないはずの実父が自分の前に現れ、それ以外にも自分の血族が次々に出現して・・・。
それも全員がおとぎ話のような地位と権力と富を持っていて・・・はははは・・・最後は死んだはずの実母が生きてるなんていわれて目の前に出てくるし・・・ホント小説以上の出来事の連続よね。
小説以上の出来事が起きすぎてやっぱりおばあ様が死んだとか・・・いなくなったとか・・・。
信じれらないよ。
おばあ様。
もう結構びっくりしたから・・・。
だからそろそろ戻って・・・。
・・・。
戻って来ないよね、普通。
花子は墓碑から離れると近くにあった松の木に寄りかかるとポケットに入っていた和紙で包まれた祖母からの手紙を取り出した。
この手紙を受け取ってから何度か読もうとそう思って手に取ったがなんでか読み始めることが出来なかった。
でも・・・。
花子は手紙を広げた。
そこには達筆な文字が広がっていた。
最初の出だしはなんと祖母の前世の話が書かれていた。
前世!
読み進めると祖母の前世はどこかの国の貴族で小国の王子様と結婚したらしい。
最初は何もかもよかったようだがそのうち跡目争いに発展して最後はお腹に子供がいるまま刺殺されたようだ。
なんとも言えない悲惨な最後にブルりと背筋が震えた。
生まれ変わった今世は今の八百万の跡取りとして結構順調な生活を送っていて、皇家からの異文化交流という命令に一度帝国の魔法学校に入学したそうだ。
そこで恋人が出来たそうだが結局八百万神社の跡取りということでこちらに戻ってきて入り婿を迎えて結婚したが祖父の浮気に激怒して、嫉妬心から封印を弱めてしまい当時神社で封印していた箱を紛失する事件を起こしてしまったようだ。
その封印が敗れた箱が皇家を経由してなんでか帝国に渡って今回の事件が起こってしまったと書かかれていた。
なんとも間が悪いというかなんというか。
はあぁー。
おばあ様、前世に引き続き今世もやっぱり運がなさすぎじゃなかろうか。
結局、今度も最後は刺殺されてしまったのだから・・・。
でもおばあ様的には好きだった人の子供も生めたし孫にも会えたからうれしいって手紙には書かれていた。
そんなものなのかなぁ。
花子は小説のような人生を生きた祖母の手紙を読み終えてそれをポケットにしまおうとして手紙がもう一枚挟まれていることに気が付いた。
そこには八百万神社の蔵に残されている個人蔵書をすべて花子に送ると記されていた。
えっいいの。
思わず呟けば最後に追伸で蔵にあった春画の持ち主は祖父であるがそれも一緒にあげると付け加えられていた。
えっ・・・ええ!
ちなみにそれら蔵書は大巫女の遺言ですでに荷造りされ”白の宮殿”に向け運び出されていたのを知るのはこれを読み終えて大慌てで確認した時だった。
おばあ様。
他の蔵書はうれしいけど・・・春画は複雑な気分です。
おじい様に対する嫌がらせだろうけど私に対しても十分嫌がらせになります。
”白の宮殿”にいる人たちに見つかった時なんて言い訳すればいいんだろ。
くっすん。
軽蔑されそう・・・。
項垂れた花子の黒髪に海から吹き上げてくる潮風がべっとりと絡みついた。
はあぁー憂鬱。




