74.故人からの手紙
フレッドが後を追っていくと王都にある図書館の中に出た。
なんでここなんだ。
シーンと静まり返った空間の中を速足で移動していくといきなり階段下にある図書館の大扉に取り付けられている警報機からけたたましい警告音が鳴り響いた。
一体全体今度はなんだ。
フレッドがミート館長の後を追いかけるのを一旦中断して音の鳴り響いている扉の方に向かうとそこには二人の男がにらみ合うように立っていた。
よく見ると一人は今さっきまでフレッドが追いかけていた人物でもう一人は少し前、日ノ本で出会った花子の祖父だった。
なんでこんなところであの二人は睨み合っているんだ。
思わず険悪な様子に周り右して帰りたくなったがなんでかこの二人を放置するのが一番まずいと思えてその場を立ち去れず、さりとてどうやって割って入ればいいのかわからず状態でその場に立っているといきなり二人は怒鳴りあいを始めた。
「お・・・お前が大海を呼びつけたのか。」
「そっちこそなんで大海以外の女を抱いた。」
「お前には関係ない。」
「関係ないだと大ありだ。」
ミート館長が花子の祖父が着ている着物の胸倉を掴んで手を挙げた。
すかさず花子の祖父も同じように胸倉を掴む。
おいおい。
勘弁してくれよ。
これを止めろとかやりたくないんだけど。
フレッドが臆しているうちに二人の怒鳴り合いと警告音に図書館員が駆けつけてきた。
ああ・・・これはやるしかないよな。
フレッドは諦め顔で二人に近づくと騒ぎを聞きつけて集まって来た図書館員と一緒に殴り合いを始めた二人を引きはがした。
「お二人ともこちらにいらっしゃるなんて、いいタイミングなのか悪いタイミングなのか。」
やっと二人を引き剥がしたところにのんびりとした声が背後からかけられた。
全員がそちらに視線を向けるとそこにはフレッドがよく知る人物が立っていた。
「お久しぶりですね、ミート館長。花子様のお祖父様には初対面になりますが私、花子様の異母兄でありますブラウン様の秘書をしておりますアインと申します。お二方ともお取込み中のようですが少々お時間を頂けないでしょうか。」
アインはなんとも慇懃な態度で二人に声をかけた。
「アインくん。君がなんでここにいるのかはわからないがこちらはかなり立て込んでいてね。悪いがその要件とやらは後ほどにしてほしいんだが。」
「私もできればお二人の間に割り込みたくはないのですがあいにくこちらも仕事でしてご了承ください。」
アインは二人の前にそれぞれ和紙に包まれた手紙をさっと懐から差し出した。
二人はアインから差し出された手紙を見ると固まっていた。
「こ・・・これをどこで・・・いやなんで君が持っているんだ。」
先に我に返ったミート館長は震える手でアインから手紙を受け取ると手紙の差出人を見て目を見張るとすぐに絞り出すような声で尋ねていた。
「正確にはその手紙自体を預かっていたのはマリア様です。」
「”白の宮殿”の当主が預かっていた?」
「お亡くなりになった場合にすぐにその宛名の方々に届けるようにとの遺言付きでです。」
アインの亡くなったという言葉にまた二人が動かなくなった。
「大海が亡くなっただと。そんな事あるわけがない。」
怒鳴りつけた聖の目の前にアインは水晶が填められた小型の魔道具を突き出した。
”父さん。私よ。信子よ。聞いてる?今どこにいるの?”
その魔道具から花子の実母である信子の切羽詰まった声が響き渡った。
”信子?”
”ええそうよ。今ブランに連絡が入ってお・・・お・・・うっ・・・。”
信子の声は嗚咽で最後まで言葉が続いていなかった。
「な・・・なにを証拠にあの殺しても死にそうにない人間が死んだなど・・・あ・・・あるわけがない。信じられるか。」
聖はそういうと受け取った手紙を破ろうとしたが手が小刻みに震えて動かない。
”いいわね。とにかく私たちもそっちに向かうから”
魔道具から信子の声がしてそれっきり何も聞こえなくなった。
ちょうどそれが終わったところでアインは魔道具を懐にしまうと二人に声をかけた。
「私はこれから病室にいるマリア様のもとに戻っりますがお二人はどうされますか。」
「私は後で伺うから別に気にしないでくれ。」
アインはミート館長の言葉に頷くといまだに手紙を握りしめたままの聖に視線を向けた。
「儂は・・・わしは…今の言葉が真実かどうか確かめる。」
アインは頷くとそのまま聖を連れて図書館を出て行った。
「本当に病院に向かわなくてもいいのか。」
「ああ・・・これを読みたいからな。」
ミート館長はアインからもらった手紙を大事そうに懐に抱えると先ほど降りてきた階段を上って行った。
その後ろ姿を図書館の職員とフレッドは何も言えずに見送った。




