07.魔法の授業
ウーン。
花子はカーテンの無い窓から差し込む朝日で目を覚ました。
そうだった。今日からここが私が生活する部屋になるんだった。
花子は昨日用意しておいた制服に着替えるとパンを焼いて朝食を作ると食べ始めた。もちろん食べ終わった後は残った料理でサンドイッチを作ってそれを紙で包むと今日から護衛についてくれる二人にお礼かたがた魔法で今回は転送した。いきなり目の前に現れた料理にゴクリと喉を鳴らす二人。
「それ、すぐに食べられるようにしてあるから。」
花子は二人が食べている間に夕食の仕込みを済ますと食べ終わったであろう二人に声をかけ高校の教室に向かった。
教室は一般寮よりかなり離れていたが別段それほど遠いわけでもなくすぐに着いた。
玄関に張り出されている紙を見て特別クラスの教室に向かった。この高校に受かった一般人は花子だけであり尚且つ魔法特待生ということで花子はかなり目立っていた。そんなこととはまったく知らない花子は悠々と特待生の教室に向かうと決められた席に座った。
周囲にいた人間からジロジロとした痛い視線が花子に飛んでいたが本人は全く目立っているとは欠片も考えていないのでのんびり席に座ってあこがれの魔法の授業が始まるのを待った。
しばらくするとガヤガヤとした騒ぎが起きて、花子の後ろに数人の人間が集まってきた。
花子は自分の周りに人が集まったのは気がついたが何のために彼女たちが自分の周囲に来たのかがわからなかった。
「ちょっとそこの庶民。」
豪華な洋服に身を包んだ少女が花子の肩に手を置いた。
流石に肩に手を置かれた花子はギョッとして相手を見た。
二人がお互い口を開こうとした時リーンゴーンという鐘の音がなり教室に魔法科の先生が入って来た。
先生は肩に手を置いている女生徒に目を向けると席に着くように促した。
豪華な洋服に身を包んだ少女は仕方なく花子の後ろの席に着いた。
「では今後魔法科で行う授業内容について説明します。」
先生はその後延々と授業の説明を終えると疲れた表情の生徒を残して教室を出て行った。
花子は配られた授業内容の書類を一読して溜息を吐いた。
何、この簡単な授業内容は。
あまりに簡単な内容に目が映ろになった。
花子は書類を持って来たカバンに仕舞うと後ろの席からまた朝のように花子の肩に手を置こうとしていた少女を交わすとザワザワとしている教室から隠匿魔法を駆使して出ると自分の寮に戻った。
カバンを布団に投げると花子はそこにダイブして仰向けになると天井を見た。
うそでしょ。
仮にも高校なのに何あの簡単な内容は?
どうしよう。
あと三年もあの授業受けるとか拷問なんだけど。
今更大学に行きたいって言いずらいしなぁー。
どうしたら・・・。
天井を睨んだまま微動だにしない花子を気遣って少し荒い息をしながら護衛が心配そうに声をかけてきた。
「あのー花子様。どうされました?」
「ああ、うん。実は今日学校のカリキュラムを確認したんだんだけどあまりにも簡単だったの。それで入ったばかりだけど、もっと上の学年の授業を受けたいなって思って。」
「まあ、それなら飛び級試験が魔法科にはあるはずですよ。」
「飛び級試験!」
花子はベッドからガバッと起き上がると学校から持って来た資料に目を通した。
そこには学校が用意した飛び級試験を合格すれば上の学年に行けると注意書きされていた。
これってどうすれば受けられるのかしら。
よく読んでみるとそこには申込む方法と受け方が書かれていた。
思わず棚の上に置かれていた時計を見た。
まだ間に合う。
花子はカバンから今日の説明会で貰った銀色のカードを出すとそれをまだ学校にいる先生のもとに出しに行こうとして護衛達に止められた。
「花子様。それなら私が届けてまいりますので。」
「えっ、でも。」
「そこには本人が届けろとは書かれていませんよね。」
花子は手元も書類に目を通した。
確かに本人が届けることとは書かれていなかった。
「では、行ってまいります。」
花子の返事を聞かずに護衛はそのカードを持って消えた。
助かるけど申し訳ないわね。
花子はそう思うとそのまま厨房に向かった。
彼女の為に花子視点では少し手の込んだ料理を作って彼女が戻って来たらそのテーブルの上の料理を食べてくれるように伝言を残すとベッドに向かった。
明日は授業サボって図書館にでも行こう。
一週間後には試験を受けて一階級上の魔法科に言ってそれを三回繰り返せば計算上は一か月で大学に入れる。
それで大学に入ることが決まったら御父様たちに知らせ・・・。
色々あり過ぎて疲れた花子の意識はそこで途絶えた。
一方、無事飛び級試験の申込みを終えて戻ってきた護衛にはこの世のものとは思えないご馳走が待っていた。
ちょっ・・・ちょっとナニコレ。
う・・・うまい。
横目で羨ましそうに見つめる同僚を無視して今日の用事を済ませた護衛は至福に浸った。
見てなさい。
次回の花子様の用事は私がもらうわ。
それは護衛の間で花子様の御用聞きが密かに人気の一つになった瞬間だった。