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68.昔馴染み

 翌朝、治療を終えた大海おおみは迎えに来たドライと一緒に病院を出ると花子はなこが住んでいる”白の宮殿”に向かった。

 途中まで何も言わずに外を見ていた大海おおみが急に高級店が並ぶ大通りで乗物を止めて歩きたいと言い出した。

大海おおみ様。できればこのまま”白の宮殿”に向かっていただきたいのですがどうしてもダメでしょか。」

「マリアからはなんて言われてきたの。」

 大海おおみの言葉にドライは少し躊躇したが当主からは極力彼女の意向に沿うようにとの命を受けていたのですぐに部下に通りの端で乗物を止めるように命令した。


「ありがとう。」

 大海おおみはそういうと扉を開けてくれたドライににこやかにお礼を言ってからすぐに乗物を降りると高級店が立ち並ぶ通りを歩きだした。

「何か必要なものがあったのでしょうか。」

 ドライがそう声を掛けるが大海おおみはそれには何も返事をせずにただまっすぐ通りを歩いていく。

大海おおみ様。」

 しばらく周囲を警戒しながらも一緒に通りを歩いていたドライだが大海おおみはそんな呼びかけを無視してどんどんと今度は人通りが少ない小道に向かって歩いて行った。

「お待ちください。」

 ドライが背後から何度も制止の声を掛けるが大海おおみはそのまま誰もいない小さな小道の突き当りまで歩いていた。

 ドライが今来た道に戻りませんかと行き止まりで声をかけるが大海おおみはまたもやその声を無視すると両手を小道の突き当りにある壁に押し当てた。


「なにを?」

 ドライがいぶかし気に見ているうちにその突き当りの壁が光ると立派な扉が現れた。

 大海おおみは現れた扉に手を掛けると躊躇することなくそれを押し開いた。

 途端、物凄い警告音がその扉の中から鳴り響いた。


 ジリリリ ジリリリ ジリリリ ジリリリ


 大海おおみはその音を気にすることなくその扉の中に足を踏み入れた。

大海おおみ様。」

 ドライも慌てて大海おおみの後に続いて扉の中に足を踏み入れた。


 ジリリリという警告音が鳴り響く扉の中はドライもよく知っている部屋だった。

「魔法図書館!」

 ドライが思わず呟いたところに黒い礼服を着た白髪の細見の男が二人の前に現れた。

 ドライは慌てて大海おおみの前に出た。

 すると背後にいた大海おおみがドライの肩をたたいて”大丈夫よ”と呟くとそのまま前にでた。


「久しぶりねミート。」

「オオミ。なんであなたがここにいるんですか。」

「ちょっと野暮用でね。少し話せないかしら。」


「館長様。何事ですか。」

 鳴り響く警告音に魔法図書館の職員が扉前に大挙して押し寄せてきた。

 館長は片手をあげて”問題ありません”というと指を鳴らして警告音を止めると二人に背を向けて歩き出した。

 大海おおみがそのあとをついていくのでドライも同じように彼の後について歩き出した。

 館長は受付の前を通り中央にある大階段をどんどんと上に歩いていく。

 大海おおみとドライも黙ってその後に続いた。

 かなり階段を上ったところで小さな扉が現れた。

 館長はその扉を開けると大海おおみのためにその扉を押さえ部屋の中に入るように促した。


「ありがとう。」

 大海おおみはそういうと部屋に足を踏み入れた。

 ドライもそのまま後に続いた。

 部屋には小さな執務机とその隣には応接セットが置かれていた。

 大海おおみは中央のソファーに腰を下ろした。

 ドライは座らずに彼女の背後にスッと移動するとそこに立った。

「あら一緒に座らない。」


 ドライは首を振った。

 一応彼女の警護がドライの仕事なので座るわけにはいかない。


 館長も気にせずに大海おおみの前のソファーに腰を下ろした。


 二人が座ると机の上に飲み物が現れた。

「まあさすが魔法図書館ね。便利だわ。」

 大海おおみののんきな声にため息を吐きながらも館長が先に飲み物に口をつけた。

「それで私に何用ですか。」

 カップをソーサに置いた館長が先に話し出した。

「開かずの間を開くので先に報告しとこうと思ったの。」

「なっ・・・なんで今頃。あなたは自殺志願者になったんですか。」

「まさか。勝てる自信があるからよ。」

「メンバーは?」

「私と私の孫とルービック家の面々かしら。」

 まじまじと大海おおみの顔を凝視してからすぐにもう一度飲み物を口にすると館長は立ち上がった。

 大海おおみに背を向けるとすぐに先ほど入って来た扉を開いた。


「お帰り下さい。それと今度尋ねてくるときは事前にお知らせください。」

「そうね。今度はそうするわ。それとごめんなさい。」

 大海おおみはソファーから立ち上がるとそのまま扉を潜った。

 扉の先は階段ではなく先ほどの小道だった。

 ドライも大海おおみの後ろから扉を出た。


 館長はそのまま扉を潜った二人の後ろでドアを閉めた。

 閉めた扉の背に背中を合わせて力なく寄りかかると呟いた。

「いまさら謝罪なんてしないでほしいですね。お陰で知らん顔ができなくなったじゃないですか。」

 館長はそう呟くと自分の執務机に戻ると一番上の引き出しから黒ずんだカギを取り出した。

「まったく。知らん顔をしていたかったんですがね。」

 その黒ずんだカギを握するとなにもない空間にそのカギを差し込んで回すとガチャリと音が聞こえてその空間から同じように黒ずんだカギが現れた。

「さてやれることをしましょうか。」

 館長はそう独り言を呟くとそのカギを手に執務室を後にした。


「あのー大海おおみ様。魔法図書館の館長様とお知り合いでしたか。」

「昔の恋人よ。」

「はあぁ?」

 ポカーンとしたドライににっこりしながら大海おおみは少しばかりすっきりした気分で今度は寄り道せずにまっすぐに”白の宮殿”に向かって大通りを歩きだした。

 ドライは大海おおみの恋人発言を当主に報告すべきかどうか彼女の周囲を警戒しながらもしばらく思い悩むことになった。

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