62.新たな脅威
花子は”封印の札”を片手に現れた大海に背後から呼びかけたがその声は箱から放たれた黒い冷気に遮えぎられ途中でプツリと途切れた。
声すらも飲み込む黒い冷気が溢れる箱と大海の周りにはいつのまにかクッキリとした丸い空間が出来あがっていた。
花子の見ている前でその空間の中で大海は”封印”と書かれた札に右手で文字を刻むと次々に剥がれた四隅にその札を張り付けた。
札が張り付いた瞬間に今まで箱の隙間からあふれていた黒い冷気の色がだんだんと薄らいでいった。
ほぼ見えなくなったところで箱と大海の間にあった丸い空間が見えなくなった。
「お・・・」
花子がもう一度背後から声を掛けて駆け寄ろようとした時、扉近くに控えていた兵士の間から魔法が放たれた。
大海がすぐにそれに気が付いて箱に向けて放たれた魔法を遮るようにその前に立ちはだかった。
魔法は大海の前で跳ね返されたがその一部が背後の箱に吸い込まれ再び四隅に張り付いていた”封印”と書かれた札の一枚が剥がれハラリと床に落ちた。
大海は慌てて懐から出した札をもう一度そこに張りなおそうと箱に近づこうとするが黒い冷気がそれを阻むように彼女の体を這い上っていく。
「お祖母さま!」
花子が後ろから大海の手に握られていた札を掴むと黒い冷気を飛び越えて剥がれた札の代わりにそれを箱に押し付けた。
花子が押し付けた札は何度か箱の蓋をがたがたと震わせたが数分後にはピタリとその音がおさまりその瞬間に黒い冷気と共に忽然とその場から姿を消した。
箱が消えた!
ざわつき始めた人々の間からしわがれた王妃の声が響いた。
「何をしているの。その曲者を捕まえなさい!」
王妃が巫女服を着て会場の中央に立っていた大海を捕らえるように傍にいた近衛兵に叫んだ。
しかし周囲にいた貴族たちはしわがれた声で叫んだ王妃に視線を向けていた。
「おうひ・・・?」
王妃から発せられたしわがれた声を聴いて驚愕した表情になった王が呟いた。
その表情をみて訝し気に王妃が首を傾げた。
「陛下、何を驚いているのですか。」
「お前は誰だ。」
「な・・・急に・・・なにを・・・いって・・・。」
王に近づこうとした王妃は王の傍にいた近衛兵の剣でそれを遮られた。
「無礼ですよ。お退きなさい。」
その声に王は今まで傍にいた王妃であったものからさらに距離を置いた。
第一王子でさえも王妃から距離を置いていた。
「ははうえをどこに隠した。」
「何を言っているの?」
王妃は今度は第一王子に近づこうとしてそれを王子の傍にいた近衛兵に遮られた。
「いい加減におのれの姿が変わったのを自覚しなさい。」
大海から鋭い声と札が放たれた。
札はまっすぐに王妃の顔に張り付くと王妃であった人物はその場で土くれに変わった。
「何が起こっている。」
王の呟きが会場に響いた。
「それについては私が説明いたします。」
遅れてやってきた花子のもう一人の祖母が会場に現れた。




