60.王宮での表彰式に行く前に
花子は夕方遅く図書館の司書に言われ渋々魔法図書館から退出した。
本当はそのままあの空間にお泊まりしたいくらいだったが流石にそれは困りますと強制退出させられた。
その時もカウンターにいたミート伯爵にこの図書館の司書になれないかと詰め寄ったがここは世襲制なので血族以外は無理ですときっぱり言い切られめちゃくちゃがっかりしながらそこを出た。
「花子様。図書館のカウンターに入ることは出来ませんが閲覧用のカギはずっと使えますし、”白の宮殿”の当主になれば閲覧だけでなく”貸出用のカギ”も手に入れることができますよ。」
「それ本当!」
ムツキは嬉しそうな表情の花子にホッとしながら肯定した。
花子はムツキの話に両手を握ってガッツポーズをした。
”貸出用のカギ”なんて、なんて素敵な響きなの。
それは貧乏性の花子にとって最大級の情報だった。
なんといっても貸出はきちんと本を返せばいくらでも違う種類の本がタダで借りられるのだから。
そう考えると気分もウキウキとしてきて先ほどここまで来るときに歩いて来た道をスキップしながら今や自宅となった”白の宮殿”に向かっていた。
そのころ”白の宮殿”にいたマリアはまだ帰って来ない花子をソワソワしながら待っていた。
「セバス。花子はまだ戻って来ないの。」
「もうすぐ夕食の時間となりますのでそれまでには戻って来られるはずです。」
「そうよね。わかっているわ。ところで王宮で開かれる表彰式の方の準備はどうなっているの。」
「それなら・・・。」
セバスが説明しようとしたところにちょうど彼が持っていた通信器具が振動し始めた。
最初は無視していたがマリアに促されセバスは通信器具を取り出してすぐに話を聞きマリアにツヴァイが来たことを知らせた。
「ツヴァイが来たのですが彼をこの部屋に案内してよろしいでしょうか。」
「なぜそんなことをわざわざ聞くのセバス。」
「ツヴァイが私が推薦する候補者となります。」
「まあ!」
マリアがびっくりをした声を上げた後、セバスから出された書類をすぐに奪うと端から端まで彼の経歴を読み込んでから顔を上げた。
「あなたにしては以外な人物を推薦するのね。まあいいわ。彼を呼びなさい。」
マリアの許可がおりセバスが再度通信器具で連絡をするとすぐにツヴァイが大きな箱を持って現れた。
「こちらが花子様に王宮で行われる表彰式で着ていただく衣装となります。」
マリアは箱から取り出された衣装をじっくりと手に取って見た。
今まで見たこたがない光沢のある布地にグラデーションがかかったきれいな色が乗せられ流れるような優雅な衣装にマリアはいつの間にか唸っていた。
そうだったわね。
ツヴァイの実家はたしか大きな織物工場を持っていたわね。
さすが織物を専門にあつかっっているだけはあるわ。
それにこのデザインならあまりプロポーションに変化が乏しい花子でもきれいに着こなせるわ。
マリアが関心しながらもツヴァイにくれぐれも表彰式には遅れないように言っているときにやっと花子が戻って来た。
セバスが戻って来た花子を迎え入れるとマリアがいる居間に彼女を連れてきた。
マリアは花子に王宮から来た表彰式の招待状を手渡した。
花子はなんとも煌びやかな招待状をマリアから受け取るとすぐにその場で封を切ると内容を確認した。
日時と場所は明日の夕方になっていた。
それ以外には太字で服装の規定が書かれていた。
男女ともに礼服とでかでかと二十線で書かれていた。
げっ!
礼服。
どうしよう。
招待状をみてあたふたしている花子にマリアが先ほどツヴァイが持ってきたドレスを見せた。
えっ。
これを着るの。
シンプルだが所々凝った刺繍が施され色合いも今まで見たことがないようなグラデーションのものだった。
高そう。
花子は恐々とドレスを見てからそっとそれを箱に戻した。
「気に入りませんか。」
それを見たツヴァイが花子の背後から声を掛けた。
「えっとですね。気に入らないとかじゃなくこんな豪華なのはちょっと似合わないんじゃないかと・・・。」
「何をおっしゃいますか。花子様ならなんなく着こなせますよ。」
「「当然です。」」
花子の背後からムツキとキサラギが声をあげた。
うーん。
似合うかな。
疑わしい目を二人に向けると隣にいたマリアから飛んでも発言が飛び出した。
「花子さんが着たいものがあるならそれでもいいけれど一度着たものは絶対に着てはダメよ。」
一度着たものはダメなんですか。
なら作ってもらった着物じゃダメってことでそれ以外に持ってなかったよね。
これは諦めて着る物に負けそうだけどこれを着るしかないってことかぁー。
はあぁー。
花子は大きなため息を吐いた。




