47.進級出来ました。えっ飛び級ですか?
花子は宴会後、こちらにもう少し残るという実父たちと別れて”白の宮殿”に帰るマリアたちと一緒の船で”日ノ本”を出発した。
帰りの船旅は豪華で快適だった。
花子はデッキから青い海原を眺めながら叫んだ。
ふおぉー!!!
これがいわゆるセ・レ・ブー。
実は前世で見た某映画のタイ〇ニックのようなことをやって見たかったが後ろを支えてくれそうな人物は八百万神社で別れてしまったので見当たらず想像だけして楽しんだ。
そのかわりに船首に立って広い海原を白波を蹴立てて進む船の進路をボウーと眺めながらワイングラスに本物のワインではなくブドウジュースを入れてもらって豪華な気分を味わった。
なんだがハイテンションで騒いでいたが後で考えると前世で行った北海道旅行の帰りに乗ったフェリーと乗り心地的にはかわらなかった。
そんなこんなで気がつくと戻って来てしまったがなんでか今回から実父と住んでいた所に帰るのではなく祖母であるマリアが住んでいる”白の宮殿”で生活することになったと聞かされた。
「えっでも・・・。」
「何も遠慮する必要はないわ。だってこの”白の宮殿”は将来花子さんのものになるんですからね。」
「はい?」
今、何とおっしゃいましたか?
私のものになるって聞こえたんですが?
思わず花子が聞き返すとマリアはニッコリ笑って、マリアの後継者は実父ではなく彼女だと爆弾発言をされた。
「なんでぇー?」
「あら当然ですよ。だってこの”白の宮殿”は一族で一番力があるものが継ぐんですからね。」
「ちょ・・・ちょっと待って下さい。お異母兄様は納得されているんですか。」
花子は思わず叫んでしまった。
「私のことを気にしてくれるなんて花子はなんて優しい妹なんだ。でも花子がここを継ぐのを推薦したのは私だからそれは気にしなくて大丈夫だよ。」
「お異母兄様?」
花子は後ろから聞こえた声に振り向いた。
「いついらしてたんですか?」
「今日こっちに帰って来るって聞いて早めに仕事を切り上げて来たんだ。優勝おめでとう。」
「ありがとうございます。えっでも・・・」
花子が戸惑っているうちに今まで異母兄の秘書兼執事をしていたセバスが急に自己紹介を始めた。
「改めまして花子様。これから花子様の世話係となりますセバスです。」
「はい!なんでセバスさんが世話係なんですか。」
「もちろん”白の宮殿”の後継者が花子になったからだよ。」
不安そうな花子に異母兄が励ますように話しかけた。
「ですが・・。」
「大丈夫。私の第一秘書はこれからアインになるから心配はいらないよ。」
「そうだわセバス。まだ食事まで時間があるから花子さんにこの屋敷を案内してあげて頂戴。」
「畏まりました。」
セバスは右手を胸に当ててお辞儀をするとモロ豪華な応接室のソファーから扉まで移動して花子に一礼してその扉を開けた。
「えっと・・・お願いします。」
花子は扉を押さえていてくれるセバスに促されるまま廊下に出た。
フカフカの絨毯が敷かれた廊下をセバスについて行く。
この絨毯凄い。
部屋にもこれと同じのがあるのなら布団いらないんじゃないだろうか。
明後日のことを考えているうちにセバスがとても重厚な扉の前に来ると金の豪華な飾りで縁取られた鍵を花子に差し出した。
「えっと・・・。」
扉のどこにも差し込むが鍵穴がない。
戸惑いながらも鍵を扉に向けると今まで目の前にあった扉が消えていつの間には部屋の中にいた。
「あれ。」
花子は青くなった。
今まで持っていた鍵がなくなっていたのだ。
「大丈夫ございます。花子様が入りたいと思えばいつでも鍵は現れます。」
セバスの説明に落ち着いた花子は今度はゆっくりその部屋を見回した。
そこは図書室だった。
広い空間いっぱいに本が並んでいた。
「す・・・すごい。」
棚に駆け寄り目につく本を手に取ってはパラパラとめくってみた。
おもしろい。
思わず気がついた時には立ったまま本を読み込んでいた。
続き本だったので次を読もうと手を伸ばしたがなんでかその本には手を触れることが出来なかった。
な・・・なんでよ。
次が読みたい。
「花子様。」
ついつい一緒にいてくれたセバスの事を忘れていた花子はビクリと肩を震わせてからなさけない顔で振り向いた。
「この図書室にございます本を自由に見るのには権限必要なのです。」
「権限?」
「はい。すべての本を読める権限は”白の宮殿”の当主にのみあります。」
「”白の宮殿”の当主。」
花子は心の中で繰り返した。
つまり”白の宮殿”の当主であればここにある全ての蔵書を読むことが出来る。
花子は非常に単純な理由で当主になるこを決めた。
単細胞な彼女は右手を握りしめると絶対当主になってここにある蔵書を全て読んでやると意気込んだ。
当面の目標は今手に取った本の続きを出来るだけ早く読むことよ。
「あのーセバスさん。」
「はい。何でございましょうか?」
「今私が手に取ろうとした本は当主になる以外に読める手段はないの?」
「”ある”と言えばありますし”ない”と言えばないです。」
「つまり?」
「現当主であるマリア様が許可なされば続きを読むことが可能です。」
なるほど。
ならさっそく実行よ。
花子は勢いでそこを飛び出すと夕食の席で当主である祖母に直談判した。
祖母は真剣な顔で自分を見つめる花子を見て条件付きでそれを許可してくれた。
「では大学も最低今の半分で卒業しなさい。それが出来たら全ての蔵書を読む許可をあげるわ。」
飛び級!
幾ら前世知識があってもさすがに大学は・・・。
でもそれが出来ればあの本の山が読み放題・・・。
ああ・・・かみ・・・紙じゃなく・・・神様!
花子は思わず食べていた料理を飲み込んだ。
少し前まで絶品料理を味わっていたはずだが今はまったく味を感じられなかった。




