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38.僕の不幸はそれから始まった。

 フレッドは全身埃まみれになりながらもなんとか魔法騎士科で行われた対抗戦出場選手を決める選抜試合で最有力候補筆頭から優勝を奪い取った。

 まあ、あとで兄貴からは”高位貴族に勝つとかお前は兄貴の立場を考えろ”とか何とかお小言を喰らうだろうけど僕が直接高位貴族に文句を言われる訳じゃないからまあいいよな。


 それにしても見事に優勝者へのインタビューがなかったな。

 もう少し情報端末画面に映されれば婿に来ないかの勧誘も来るのに流されるのはみーんな準優勝した大貴族の御子息の悲哀とかばっかなんて酷過ぎだろ。

 フレッドはブツブツいいながらもシャワーを浴びて高位貴族の子息とその取り巻きたちから文句を言われる前に独身寮に戻ろうと早々と更衣室を出た。

 一応安全も考えて剣を持ってから周囲に人の気配がないかを確認してから更衣室を出たはずなのに背後から知らない女性に声を掛けられた。

 誰もいないはずなのに声をかけられフレッドは思わず肩がビクリと跳ねた。


 誰だ?

 声を掛けて来た方向には白い髪にあまり凹凸のない顔をした年配の女性がたっていた。

 洗礼された立ち姿だが見覚えがない。

 どこの貴族に仕えてるんだ?


 フレッドは大学の魔法騎士科を卒業したらそのまま王宮警護の魔法騎士になるつもりだったので王宮に出入りするだろう大抵の高位貴族に仕えている使用人、特に噂の元になりそうな女性使用人は把握しているつもりだったがこの目の前にいる女性にはまったく見覚えがなかった。


 なので用心深く相手を見ているだけでこちらから話しかけることはしなかった。

 相手もこちらをじっと観察しているようで何も言って来ない。


 数分間もじっくりと相手はフレッドを観察してからこちらにもう一度声を掛けて来た。

「あなたが先程魔法騎士科で行われた対抗戦出場選抜試合で優勝したフレッド=ミートで間違いないわね。」

「そうですけど・・・。」

 疑問形で応えれば相手はさほど慌てることなく挨拶して来た。

「私、ルービック家の血筋に連なる方から命を受けてお迎えに上がったものです。」

「ルービック家!」

 ルービックってあの大貴族のルービック家か。

 でもなんでそこから迎えが来るんだ?


「もうすでに登録されているはずです。」

「登録!そうかパートナー登録。」

 フレッドは持っていたリュックからカードを取り出すと大学対抗魔法戦の選手登録画面を開いた。

 そこにはフレッド=ミートのパートナーに花子はなこ=ルービックと書かれていた。


 そうか。

 僕のパートナーはあの花子はなこ=ルービックか。

 僕も運が向いて来たのかな。

 フレッドがカードの画面を開いて名前を確認して嬉しそうにしているのを見た使用人が彼にもう一度問いかけた。

「フレッドは花子はなこ様のことをご存知なんですか。」

「直接の面識はないけど噂なら聞いているよ。」


 フレッドは自分の仕える家のことを褒めて機嫌が悪くなる使用人はいないだろうとそこは素直に花子はなこのことを褒めた。

「ありがとうございます。フレッド様。」

 どうやら呼び捨てから様付けにかわったようで好感を覚えてくれたようだ。

「ではよろしければ対抗戦のことも考えてフレッド様を主人のところにご案内したいのですがこれから少しばかりよろしいでしょうか?」

「そうだね。対抗戦前に練習は必要だからね。勿論かまわないよ。」

 フレッドは素直に応じたがこれが彼の不幸の始まりだった。


「ではこちらです。」

 フレッドが年配女性の後について構内をでるとそこにはここまでフレッドを案内して来た年配の女性よりだいぶ若い男性が高級な車の横に立っていた。

「やあフレッド久しぶりだね。優勝おめでとう。」

「えっなんでツヴァイ先輩がここにいるんですか?」

「ああ、私は今ルービック家に仕えているからね。」

 ニッコリ笑って挨拶され兄の同級生でもあるよく知っている人物がいたせいでフレッドはすっかり油断してしまった。


「ツヴァイ殿のお知合いですか?」

 年配の女性がツヴァイが運転席に乗り込んだのでその後ろにフレッドを乗せると彼女も乗り込みながらそう聞いていた。

「はい。彼の一番上の兄と魔法騎士科で同期だったことがあるんです。」

「まあ、そうでしたか。」

 フレッドは年配の女性を最初は警戒していたがついつい長兄の知り合いに会ったことで油断してまったく周囲の景色に注意を払っていなかった。

 おかげで乗っていた車が郊外の港に到着したのに気づいたのが車を降りてからになった。


「えっなんで港に来る必要があるんですか?」

「フレッド。近しい人や良く知っている人がいるほど警戒することをお勧めするよ。」

 ツヴァイはそれだけ笑顔で言い切ると車から出てフレッドが逃げようとする前に彼の鳩尾に拳を沈めていた。

「グッ・・・なんで。」

 フレッドはそこまでで意識を失った。

 ツヴァイは年配の女性に頼まれ意識を失ったフレッドを船に運び入れた。

「ツヴァイ様、ありがとうございます。それとこれをブラウン様と”白の宮殿”にいらっしゃるマリア様にお渡し下さい。」

 年配の女性はそういうと和紙かみの手紙をツヴァイに渡してきた。

「ブラウン様とマリア様でお間違いありませんか。」

「はい間違いありません。それとこちらは主よりの伝言です。”五日間は海が大荒れしますので大学対抗戦が終わってからこちらにお越しください。”とのことです。」

「分かりました。」

 ツヴァイは素直に頷くと船を降りた。


 ツヴァイが船を降りた途端、船はすぐに港を離れて行った。

「”白の宮殿”の当主に当てた手紙を私に渡して来るなんて花子はなこ様のお祖母ばあ様とは何者なんでしょうね。」

 ツヴァイは遠ざかっていく船を見ながらそう呟いた。

 それと自分がまだ学生の頃によく知っていたフレッドの境遇に少し同情した。

 もっともフレッドが不運に見舞われていると彼の長兄が知ったとしても長い物には巻かれろという思考を持ったフレッドの兄は何も言わないだろうな、と呟くとすぐに港を離れて二通の手紙を渡す為まずは”白の宮殿”に向かった。

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