37.蔵の本
蔵にある本というご褒美につられた花子は現在ただいま本殿横にある板の間でまたもや正座をしていた。
「では”書ノ道”を極めるためにここに置いてある石の上で墨をすることから始めます。」
大巫女であり自分の祖母である大海からそう言われた花子は心の中では別に”書ノ道”を極めたいわけじゃないと密かに叫んでいたが渡された墨を手に持つとそれに水を加えながら黙々とそれをすり始めた。
シュシュシュ。
シュシュシュ。
シュシュシュ。
シュシュシュ。
ひたすら墨をすって手を真っ黒にしながらも墨汁が出来上がると大巫女からお手本と筆を渡された。
「ではこのお手本を見ながらこの和紙に心を込めて文字を書き綴りなさい。」
花子は言われるままお手本に書かれた文字を書いた。
それにしてもこのお手本として書かれた言葉がなんだか過激だった。
”吹雪” ”竜巻” ”爆炎” ”爆雷”などなど全て花子からしたら過激なものを連想させられるものだった。
お陰で文字を書きながらもその文字が意味する情景をまざまざとイメージしてしまい。
課題として出された文字を清書し終えた時には想像しすぎたせいか疲れてヘタレ込みそうになっていた。
大巫女であり花子の祖母である大海は彼女がすべての文字を書き終えた後、清書された文字をしばらく見つめてから”大変よくできました。”と彼女が書いた文字を褒めるとどこかに行ってしまった。
「花子様。大丈夫ですか?」
「ム・・・ムツキ、お願い。お祖母様が戻って来ないか廊下を見張ってて。」
花子はそれだけ言うと板の間に痺れた足を投げ出すとそのまま床に伸びた。
くぅ・・・苦痛。
あし・・・足が限界だぁー。
ビンビンしている足のしびれが取れるまで花子は床に伸びていた。
「あのー花子様。あまりにもお辛いようならマ・・・。」
「誰にも足には触らせません。」
花子はムツキの提案を即座に却下した。
痺れた足を触らせるなど絶対にいやだ。
花子は足の痺れが取れるとスックと立ち上がって本でいっぱいだという蔵に向かった。
蔵は本殿のちょうど真裏に建てられていた。
花子はさっそく先程もらったデカイ鍵で土蔵にかけられていた錠を外して重い扉をガラガラと音を立てて開けると中に入った。
蔵の中は扉を開けた瞬間にどこかに仕込まれているライトが自動点灯した。
ちょうど明るくなったので蔵の中の様子がよくわかった。
少し埃っぽいそこには確かに棚の上にたくさんの書物が置かれていた。
花子は何の気なしに手前にある和紙の束を手にとって唖然とした。
確かにそこにあるものは本と呼べるものだったが問題は書かれている文字だった。
そこに書かれている文字は全て前時代に流行った文字で記されていた。
それは遥かな昔・・・。
えっと・・・そう前世で習った草書だ。
げっ草書。
さすがに覚えて・・・。
そうよ。
翻訳魔法・・・は使えない。
うそ!
折角これだけ山のような本があるのに読めないとかありえなーい。
何とかしてこれを読み解けないかしら。
花子は片っ端から棚に置いてあった本を手にとってはパラパラとめくってみた。
全部同じような字体で書かれていた。
これも草書・・・あれも・・・そ・・・草書じゃない。
あれ?
一番奥の棚に置かれていたのは本ではなく絵が描かれていた。
それは墨で書かれた男女の絵。
それも一枚一枚捲る度に着ているものがなくなっていた。
これって・・・春画!
そこの棚に置かれていた本は全て春画だった。
中には黒い墨ではなく信じられないことにカラーで描かれているものもあった。
それは逆にリアル過ぎで卑猥さが際立っていた。
はぁーなんでこんなのが置いてあるのかな。
ふと最後のページを見ればそこには昔どこかでよく見たマークが描かれていた。
あれ、これってどこかで・・・。
あっ!
花子は昔、自分がここで今と同じようにこの棚で春画を見つけてしまいアワアワしているところをお祖母様に見つかって酷く怒られたことを思い出した。
今思い返せば小さな女の子が春画を見て、えへへへへって笑ってりゃ怒られるわな。
その時はびっくりしたのとお祖母様にひどく怒られ・・・!
そうよ。
その時お祖母様に”忘却”魔法をかけられたんだった。
あれ。
なんでお祖母様は魔法使えたの?
ここでは魔法使えないはず・・・。
えっ・・・じゃあどうやったの。
確かお祖母様は・・・。
しばらく考えているとその時の情景が蘇って来た。
そうよ。
和紙よ。
花子はそこまで思い出した時に子供の時に前世知識を使って草書で書かれた文字を難なく読んでいたことも思い出した。
お陰で今まで読めないと焦っていた本が今なら読める気がした。
すぐに前の棚に戻って本を捲ると先程まで読めないと思っていた文字をスラスラと読むことが出来た。
イヤッホウー!
花子はそれから時間を忘れてそこに置かれていた本にのめり込んでいった。
外が暗くなってもまだ蔵で本に噛り付いていた花子をムツキが心配して声を掛けてくれた。
「花子様。お気持ちは分かりますがさすがにそろそろ。夕食の時間に遅れます。」
花子は夕食と言われ本から顔を上げると心残りではあったが読みかけの本を棚に戻して立ち上がった。
そこでやっとあることに気がついた。
あれ。
そう言えば大学対抗の魔法戦って今日じゃなかったっけ?
えっ・・・やばくない。




