33.ブランの浮気!
信子の執拗な説得にも折れなかったドライに彼女は奥の手を出した。
「ねえ、ドライ。どうやって私が今まであなたたちの追跡から逃げられたのか知りたくない。」
「・・・。」
結果、ドライは好奇心に負けた。
ドライは信子を連れてエレベータではなく徒歩で階段を降りると何度もセンサースキャンをされながら長い廊下を歩いた。
そしてその先にある護衛の人間が滞在している建屋に彼女を案内した。
「いいですか、奥様。危ないと思ったら今度こそ逃げて下さい。約束ですよ。」
「それくらいわかっているわ。ただ彼女と話すだけよ。どうせ全身スキャンしてから拘束してるんでしょ。」
「今回は全身スキャンに加え、ボディーチェックもしてから拘束しました。ですが奥様はなぜそのようなことに詳しいのでしょうか?」
「あら言ってなかったかしら。私、副業で傭兵やってたのよ。」
「はっ、傭兵と聞こえたのですが?」
「ええ、傭兵よ。」
「なんでまた副業で傭兵を?」
「たまたま就職した商店の店主が祖父の弟子で頼まれたのよ。」
「奥様の御爺様は確か神社の宮司だったはずですよね?」
「まあそれも調べられなかったのね。本職は御庭番よ。」
「御庭番って、何ですか?」
「この国で言うスパイね。あら、ここね。」
信子の衝撃の告白に目を白黒させているうちに二人は女を拘束している部屋の前に来ていた。
「いいですか。絶対に無茶はダメですよ。」
「大丈夫よ。私だって元プロよ。弁えてるわ。」
ドライは何度もブツブツと注意すると部屋の扉を開けた。
その部屋には両手に魔法封じの魔具をはめられ、椅子の後ろに両手を拘束された女がいたが信子が部屋に入って来た途端に喚き始めた。
「このド庶民。今すぐ私の拘束を解きなさい。庶民が貴族を拘束するなんてありえないわ。」
「庶民でも貴族でも人を傷つければ拘束されるわよ。」
信子は彼女を尋問していた護衛の隣に立った。
「何の用?」
「ちょっとあなたに聞きたいことがあるの。なんで私を狙ったのかしら?」
「まあ白々しい。あなたがブラン様を脅して彼を拘束しているからよ。いますぐ解放しなさい。それすれば今度こそ私があの方の妻になれるわ。」
この女が誰にその話を聞いてその発想になったのか是非とも教えて貰わなければ。
「私がブランを脅せるなんて誰に言われたの?」
「あなたが生んだ子供がたまたま魔力が高かったからそれ盾に脅したんでしょ。知っているわよ。でも魔力なしのあなたがそんなに高魔力な子供を生めるのなら私とブラン様なら・・・。」
急にうっとりする様な表情でブツブツと気味悪い思考に耽る彼女に信子は鳥肌がたった。
ダメだ。
何かの魔法にかかったようにウットリとブランとの将来設計を延々と語る女に信子はどうやってこの女にブランの事を吹き込んだ人物の名前を言わせようか頭を抱えた。
そのうちに女は信子が悩んでいる傍で勝手にブランの過去の話を始めた。
「あなたなんて過去にブラン様が腹いせに遊んだリサやアンリ、ナオミ・・・たちの一人に過ぎな・・・。」
バン。
そこに物凄い勢いでブランが部屋に入って来た。
「信子。ケガはないか?」
ブランは部屋に入って来るなり女の肩に手を置いていた信子を抱き締めた。
「ブラン・・・く・・・苦しい。」
「私の心臓を止めるのをやめてくれ、信子。」
ブランは抱きしめながら何度も信子の無事を確認しては口づけた。
それを見た女がさらに喚きだした。
「ブラン様。そろそろ奥様とお部屋の方にお戻りください。」
後から入って来たアインがブランに声を掛けた。
「ああ、そうだな。」
ブランは腕の中にいる信子を抱き上げるとその部屋を出た。
部屋を出るまでそこに拘束されていた女はブランの名を叫び続けた。
「ブラン。降ろして頂戴。歩けるわ。」
「ダメだよ。疲れてるだろ。」
ブランはそう言って信子を抱いたまま長い通路を抜け階段を彼女を抱えたまま上がった。
やっと応接間のソファーの上に着いたブランは彼女を抱きしめたまま座った。
「ブラン。一人で座れるわ。」
「何を怒っているんだい。」
「別に何も怒っていないわ。」
ブランは何かを隠している信子を黙って見つめた。
信子は結局根負けして彼の顔を見ないまま先程の女が喚いた女性の名前を列挙した。
「まさかその女性全員と私が寝たとは思っていないよね。」
「・・・。」
はあぁー。
ブランは自分への信用のなさに大きな溜息を吐きながらも当時のことを話し出した。
「上の兄二人が亡くなって、ルービック家を守るためだと実母と当時兄が亡くなって未亡人になってしまったアンジェリーナに説得されて私は彼女と期限付きの契約結婚をしたんだ。」
「期限付きの契約結婚?」
「ああ。子供つまりルービック家を継げる子供が出来たら別れるって約束で彼女と結婚した。その後すぐに彼女との間にブラウンが生まれたんで私は契約通り彼女と離婚して信子、君と結婚しようとした。それなのにいつの間にか君はどこかに行方をくらましてしまって・・・。最後は君の死亡報告が私に届いたんだ。それで数年ほどちょっとやけになって数人の女と付き合った。」
「・・・。」
ブランは不安そうな顔で信子を見た。
「その中の何人かは妊娠して私の子供を生んでいる。」
「・・・。」
信子は何も言わずにブランを見ていた。
「すまない。君を失ったと思ったら何もかも嫌になって確かにあの時は色々な女と関係を持った。でも本当に愛しているのは信子。君だけなんだ。だから・・・。」
ブランはそう叫ぶとそのまま腕の中にいる信子を強く強く抱きしめた。
「だから・・・頼む。私の元から去らないでくれ。」
「ブラン。」
信子はいつも自信満々でいるブランが震えるほど自分が去ってしまうのを恐れていると知ってつい彼を抱締め返してしまった。
「信子!」
ブランは自分を抱締めてくれた信子をソファーの上で押し倒した。
「ブラン!ダメよ。ここ・・・うっ・・・あ・・・あっ・・・。」
パッタン。
花子は部屋で単位について悶々と考えていたが気分転換にお茶でも飲もうと応接間の扉を開けた瞬間固まった。
ソファーの上でナニをしようとしている両親に出くわしてしまったのだ。
前世合わせたらかなりの年だけれど今は見かけは普通の年頃の娘だ。
そんな年齢の娘が傍にいるのに応接間でこの夫婦は一体何してくれちゃってるのか。
ハッキリ言おう。
そういうのは夫婦の部屋でやれ。
もしくはナニする前にきちんと鍵を閉めろ!
花子は慌てて締めた扉の前でブツブツと悪態を吐いてから仕方なく台所に向かった。




