27.貴族の礼儀作法!!!
無理無理無理。
ムリムリムリ。
出来ない!
そう言いたいけど言えない。
どうしよう。
花子は自室で叫び声をあげた。
部屋の外では真っ青になった主を心配したムツキが花子が部屋に入ってからすぐにセバスに連絡した。
通信用魔道具が振動してセバスが電話に出た。
「どうした?」
「問題発生です。」
ムツキは三限目の授業であった出来事を洗い浚いセバスに話した。
しばし沈黙したセバスは数時間後にそちらに手伝いの人物を回すというと通信は切れた。
「どうだった?」
キサラギは心配そうにムツキの顔を見た。
「こちらに人を回してくれるって。」
「よかった。早くその人が到着ほしいわね。」
二人は顔を見合わせて頷くとその人物が来るのを今か今かと待った。
ブルブルブルブル
ブルブルブルブル
ブルブル
数時間後にムツキが持っている通信用魔道具が振動した。
ムツキはすぐに通信用魔道具を取り出すとそれに魔力を流した。
「開けて頂戴。」
なんだか物凄く聞き覚えのある声がそこから聞こえた。
何でこの人が来るんですか?
ムツキはパニックに陥りながらもキサラギに扉を開ける様に指示した。
カッチャン。
「どうぞ、マリア様。」
小柄な女性が金髪の熟女を先導するように歩いて来た。
「フィーア先輩、これはどういうことですか。」
マリアを応接間に通した後ムツキとキサラギは咎めるようにフィーアに詰め寄った。
すると応接間でお茶を飲んでいたマリアから二人にやんわりとフィーアを庇うような発言が飛び出した。
「そんなに警戒しないで頂戴。別にあなたたちの大切な主をいじめに来たわけじゃないわ。セバスから依頼があったのは確かにフィーアだけど貴族の礼儀作法を教えるなら私の方がいいわ。なんといっても今回はキンソン家が絡んでるんでしょ。なら普通の礼儀作法を覚えるんじゃダメなのよ。」
どういうことだと二人は顔を見合わせた後フィーアに詳細を説明してほしいと迫った。
「ここに来る前に調べたんだけど花子様の大学で歴史を担当している今回の人物はキンソン家の血縁者だったのよ。だから普通に礼儀作法を覚えるだけじゃ間違いなく合格出来ないわ。だから・・・。」
ファーアが詳しい説明しようとすると横からマリアが言いきった。
「だから私が来たのよ。キンソン家に負けるわけにはいかないわ。それに文句をいいそうなブランは今いないでしょ。」
「はい。信子様のリハビリに付き添われています。」
「ならブランが帰って来るまで花子に教えるわ。心配ならムツキたちも同席したらいいでしょ。」
「分かりました。」
ムツキは案内しなさいと命令するマリアにここで待っていてほしいと懇願するとすぐに主の部屋に向かった。
「花子様。ムツキです。入ってよろしいでしょうか?」
「うーん。ウーン!あっ入って構わないよ。」
呻き声のあと入室の許可が下りたムツキは扉を開けて部屋に入るとそこには机の上にドンと置かれた礼儀作法の本を読みながら唸っている花子がいた。
「花子様。礼儀作法の先生が応接間で・・・。」
「礼儀作法の先生!」
花子は嬉しさのあまりムツキが最後まで説明する前にクルッと戸口にいるムツキを振り向くと彼女に抱き付いた。
「はい。ですのでその本を持って応接間の方にお越しください。」
「もちろんよ。すぐに行くわ。」
花子は分厚い本を持ち上げると応接間に向かった。
「お待たせしました。」
ムツキは花子を連れて応接間に入った。
そこには優雅にお茶を飲むマリアがいた。
マリアは入って来た花子を上から下まで眺めまわした。
ふーん。
容姿は母親似ね。
でも姿形なんてどうでもいいのよ。
必要なのは魔力。
マリアは手に持っていたカップをテーブルに置いた。
「フィーア、その本を持って来て頂戴。」
「畏まりました。」
フィーアはマリアの横から花子の傍に行くと彼女が持っていた分厚い本を受け取るとそれをマリアに渡した。
彼女は分厚い本をパラパラとめくっておおよその内容を把握すると花子に笑顔を向けて宣言した。
「私に任せなさい花子。礼儀作法は実践あるのみよ。」
マリアはそう宣言するといろいろな場面を想定した説明をして花子にその場面ごとの貴族の礼儀作法を文字通り叩き込んだ。
ブランが帰って来る前にあまりの内容の濃さに花子は応接間のソファーの上で気絶しそうになった。
ゼイゼイゼイゼイ
ゼイゼイゼイゼイ
ゼイゼイゼイゼイ
息切れで荒い息を吐いているのにマリアは平気な顔で次回までに復習しておくようにと言い残すと颯爽と去って行った。
あんなに動いたのに何ともないなんてどういう体力してるのよ。
思わずブツブツ悪態を吐いているとマリア達を見送って戻って来たムツキが何かを花子に渡してきた。
「花子様。こちらをどうぞ。ご褒美だそうです。」
「ご褒美?」
そういって渡された本は今まで花子が読んだことがない小説だった。
いきなり読み始めた花子にムツキが何かを言おうとして押し黙った。
あまりに真剣な様子にこれ以上話しても聞いてもらえなさそうだ。
なら読み終わるまで待ったほうがいい。
それからは応接室には花子が本を捲る音だけが響いていた。
花子は渡された本をブランが帰ってくる直前にやっと読み終えた。
「花子様。その続きを読みたかったら次回までに今以上努力するようにとのことです。」
花子はウっと呻いてから頷くと自室に向かった。
物凄く欲求不満だったからだ。
あの貰った小説は花子が今までに読んだことがないものであったばかりでなく、最後のぺージには”つづく”という文字が書かれていた。
一番展開が気になる所で次巻なんて・・・。
読みたい。
読みたいよー。
人参を目の前にぶら下げられた馬のごとく花子はそれから貴族の礼儀作法に必死に取り組んだ。




