26.大学での数学と歴史
珍しく見たことがある人物がいたのでじっと観察してしまい視線をすぐに察知された。
花子はすこーし気まずくなってサッと視線を外すと見知った人物から離れて後ろの席に着いた。
先程の建物から離れていたせいですぐに始業の鐘が鳴って授業が始まった。
この授業の先生はどうやら貴族階級のようで話し方がいささか堅苦しかった。
そして黒板に数式を書いては何の説明もなく生徒を指してはそれを解かせた。
回答は魔法を使って先生の背後にある黒板に離れた位置から文字を書いてそれを解いていく。
なるほど。
だからこの授業はやたら階段状になっている教室の前がギッシリ詰まっていたのか。
花子が感心しているうちに先生が反対側にいた昨日レーナ嬢のパートナーをしていた人物を指した。
「カイト=南条。この問題を解きなさい。」
前世高校の授業でならった三角比の問題が書かれていた。
カイトはスッと立ち上がると魔力を指に乗せると先生の背後に回答を記した。
ふーん。
これなら前世知識でなんとかなりそう。
花子は次々に解かれいく問題を見ながらホッと息を吐いていた。
「花子=ルービックはこの問題です。」
見るとそこには大学の授業で習った微分積分学の問題がびっしりと書かれていた。
思わず手に乗せていた顎が外れてガクッとなった。
えっとー内容はわかるけどいきなり難しくなり過ぎじゃない。
それでも解けといわれれば解くしかない。
花子は汗を書きながらも前世の知識を総動員してその問題を解いた。
いつの間にかザワザワしていた周囲がシーンとなって全員が花子の書いた回答を見ていた。
先生が花子が書いた回答を何かの本を見ながらジッと見比べてからその本をパタンと閉じるとちょうどその授業を終える鐘が鳴った。
「本日はここまでです。」
そう告げるとその教師は教室を出て行った。
えっと苦労して解いたのは間違ってたの?
それとも正解なの?
解いた本人以外も書かれた回答が合っていたかどうかで全員がざわざわと騒いでいた。
そこに反対側に座っていたカイトがスッと立ち上がると花子の前に来て右手を差し出した。
思わず彼の顔を見上げてしまった。
「僕はカイト=南条だ。改めてよろしく。」
花子は顔を赤らめながらも慌てて立ち上がると差し出された手は握らずに会釈した。
「花子=ルービックです。」
カイトは苦笑いしながらも右手を引っ込めると花子の隣に腰を降ろした。
「それにしても君すごいね。あの問題をスッと解けるなんて凄すぎる。」
「えっと・・・ありがとうございます。」
二人の会話を聞いた周囲はさらに花子に注目した。
あちらこちらで花子を称賛する声が聞こえた。
カイトはそのまま花子の隣に座って今解かれた問題がどう魔道具造りに重要かという話をなんでか彼女に延々と語り始めた。
えっと別に魔道具造りにはそれほど興味がないんだけどとは言い出せない雰囲気にしばらくその話に付き合っていると急に目の前に誰かが立ち塞がった。
視線をあげて目の前に立った人物を見ると先程の魔法学授業で一緒になったレーナが鬼の形相で仁王立ちしていた。
「ちょっと煩いですわよ。」
「レーナ!なんでそこにいるんだい?」
「まあ、何を言っていますのカイト。次の授業は歴史ですわよ。」
「もうそんな時間か。それじゃまた魔道具造りを語り合おうね。」
カイトはそういうとスッと花子の隣から立ち上がってどこかにいってしまった。
お陰で花子の目の前には仁王立ちしているレーナが残された。
おい、パートナーなら回収して行けよ。
思わず突っ込むが声に出しては言えなかった。
今回は運が良かったようですぐに始業の鐘が鳴って教師が入って来た。
今度の先生は王族の礼儀作法も教えている先生らしく、右手に鞭を持って銀縁メガネをかけた白髪の教師だった。
手に持っていた鞭をビシッと鳴らすと授業が始まった。
それなのに何だが声が淡々としていてお経を聞いているようで眠くなる。
お陰でまったく内容が頭に入って来なかった。
白髪の教師は一通り念仏を唱え終えると一人ずつ指差しながら歴史問題を出していった。
これは非常にまずい。
おおよそはこちらの小説を読んで知っているがなんでかこの先生、問題の合間合間に貴族の常識らしき礼儀作法の問題を挟んで来るのだ。
花子の目の前に座ったレーナは貴族らしくこの白髪先生が出した貴族の礼儀作法の問題をバッチリ答えていたがこの問題は花子にとっては鬼門だ。
でもレーナに礼儀作法の問題が出たなら今度は歴史だろう。
そう思っていたが花子を慮ったのかはたまた嫌がらせだったのか今度も貴族礼儀作法に関する問題だった。
花子が答えられなくて言いよどんでいると先生が持っている鞭が鳴った。
「ルービック家のご令嬢ならすぐに答えなさい。」
「分かりません。」
花子の回答に周囲が騒めいた。
どうやら貴族でわからなかったのは花子だけのようだ。
先生は目を大きく見開くと花子に向け分厚い礼儀作法の本を魔法で飛ばしてきた。
花子がその分厚い本を受け取ると授業終了の鐘の音が鳴り響いた。
「明日の授業までに全て暗記してきなさい。」
先生はそういうと教室を去っていった。
「そんな初歩的な問題も分からないなんて貴族とはいえないわね。」
レーナは勝ち誇った顔で何度も嫌味を連発すると高笑いを上げながら去って行った。
貴族貴族って言うけれどつい最近までは庶民だったんだからって叫べない花子は諦めて分厚い本を抱えると教室を出た。
この厚みの本の内容を暗記する?
無理!
遠い目をした花子はムツキに先導され車で自宅に向かった。




