22.新入生歓迎会は大混乱!
セバスさんが運転する車は物凄い勢いで通りを曲がりながら大学構内に文字通り滑り込んだ。
「さすがセバスだな。時間ピッタリだ。」
「お褒めに預かり光栄にございます。それではお二人とも心置きなく楽しんで来て下さい。」
セバスは決まり文句を言うと車のドアを開けてくれた。
異母兄が車を出ると周囲にいたパートナーがいるはずの女生徒から黄色い悲鳴があがった。
次に花子が外に出ると大きなドヨメキと共に嫉妬の視線が突き刺さった。
花子は生まれて初めてうけた嫉妬の視線に戸惑った。
うわー何この視線。
一応、心の中だけで言っておくけど半分は血のつながった兄妹だからね。
まあ声に出して言ったとしても聞いちゃくれないような雰囲気だけど・・・。
花子が心の中で言い訳しているうちに二人は会場の入り口に来ていた。
異母兄が入り口で招待状を出すとすぐに案内人が花子を新入生用の門に案内した。
どうやら異母兄は別の入り口から入りそこで花子を待っているようだ。
花子は素直に門を通って会場に足を踏み入れた。
そこには色とりどりのドレスを着こなした女性たちが大勢いた。
すぐに着物姿の花子は周囲の人々の関心を引くが異母兄が現れその視線を緩和してくれた。
持つべきものは美形の異母兄だ。
でも美形の異母兄の隣にいるお陰で違う嫉妬の視線がビシバシ注がれているがこれは歓迎会が始まればすぐに兄妹だと理解してくれてそれもなくなるだろう。
そう花子はかなり楽観的に考えていたが周囲は彼女のことを違う目で見ていた。
ブラウンは異母妹である花子の持つ”超魔力”を狙って近づいて来る無能な馬鹿どもをどうやって撃退してやろうかと手ぐすね引いて待っていた。
そこに二人の予想とは反してキンソン家の令嬢が近づいて来た。
ブラウンはいつものことで周囲に警戒の視線を向けていたため花子より先にこちらにやって来るキンソン家の令嬢に気がついた。
彼女の目線はブラウンの隣にいる花子にピタリと狙いを定めているようだ。
その様子はまさに獲物を狙う魔獣の目だ。
さて、どうしたものか。
ブラウンはちらりとまだキンソン家の令嬢が近づいて来たのに気づいていない様子の花子を見て取り敢えず静観することにした。
あまりにも彼女の態度が許し難かったら間に入ろうと思いながら視線を向かって来る人物に向けた。
ブラウンが視線を彼女に向けたことで花子もやっと向こうに気がついたようだが誰がこちらにやって来ているかはわかっていないようだ。
そう言えばまだ名前だけで本人の顔を教えていなかったな。
ブラウンが耳打ちしようとする前に向こうがこちらに声を掛けて来た。
「ご機嫌いかがかしら?」
黄金色に輝く髪をアップにしてこれでもかと大きな胸を強調したタイトなドレス姿に花子は圧倒された。
誰この人?
うーんでもどこかで会った感じがするんだけどえーとどこだったかな・・・。
花子はどうにも名前を思い浮かべられなくて返事をしなかったので周囲からは話しかけた相手を無視したような感じになった。
「ちょっと聞いているのかしら、オチビさん。」
苛立った声にも思い出そうと唸っている花子には聞こえていなかった。
少し様子を見ていたブラウンはあまりの展開に笑い声を堪えるのにせーいっぱいでなかなか花子に声をかけられなかった。
まさか思い出そうと唸るほど考え込むとは思わなかった。
これはこれでこのまま放置していても面白いけど・・・クックックッ・・・。
笑いが我慢出来なそうだからとブラウンは隣にいる異母妹の肩を指で叩いた。
肩を叩かれてやっと我に返った花子が異母兄を見上げた。
「花子。こちらがキンソン家のリーナ嬢だよ。」
花子は目を丸くして彼女を上から下までじっくり見てから自己紹介した。
「やまじゃなく花子=ルービックです。」
花子は着物だったので小さく会釈した。
なぜか相手は拳を握りながらも自己紹介すると突然中央に行かないかと花子を誘った。
「もうすぐ王家の第一王子様の挨拶がありますわ。その後は彼と新入生との写真撮影がありますから行きませんか。」
花子はチラリと異母兄を見た。
「行っておいで。私はここで待っているから写真撮影が終わったら迎えに行くよ。」
「ありがとうございます。お異母兄様。」
花子は声を掛けて来たリーナ嬢に連れられて中央に行ってしまった。
「いいんですか。一緒に行かないで?」
さっき声をかけて来たリーナ嬢のパートナーがグラスを片手にブラウンに声を掛けて来た。
「それこそ君はいいのかい?」
「彼女は異父兄の婚約者で俺の婚約者じゃないんで問題ないですよ。今日はたまたま異父兄の都合がつかなくて俺が来ただけですから。」
「ふーん。君の異父兄は君になんて言ったんだい。」
「会場に彼女を連れて行くようにってだけですよ。それ以外の指示は受けてません。」
「将来義姉になるんだろ。もう少し胡麻をすったほうがいいんじゃないかい。」
「お言葉を返すようですが異母妹とはいえ助けなくて大丈夫なんですか。ああ見えてリーナの魔力量はこの大学で一番なんですよ。」
ブラウンは本気で心配しているような様子の男に何も言わずにグラスに残っていた飲み物を飲み干した。
ちょうどそこに第一王子が現れ魔法大学に入って来た新入生に祝辞を述べ恒例の記念写真撮影の為中央に立った。
見ているとリーナ嬢が花子をひっぱって第一王子に何か声をかけると彼の右隣に彼女を立たせすぐに本人はなんでか左隣に立った。
そう言えばあの戦争に勝ったおかげでキンソン家は王家に嫁いでいたんだったな。
なるほどよく考えればリーナ嬢と第一王子は従兄妹になるのか。
でもいいのかな。
ブラウンがニヤリと腹黒い笑みを浮かべた時いつもは第一王子との記念撮影後に行われるはずの魔法無効化がちょうど写真が撮られる瞬間に発動した。
カシャ!
撮影音がしたのと悲鳴が同時に上がった。
そこにいた花子を除く全員が女性はパンティーとブラジャー、男性はパンツだけの恰好でそこに立っていたのだ。
もうすでに撮影は終わり写真は各報道機関に送られている。
これは大騒ぎになる・・・なるほどそれが理由か。
ブラウンはなんでさっきリーナがわざわざ毛嫌いしているルービック家の人間に話しかけたのか合点がいった。
この写真を撮られた後にルービック家がそれを阻止しょうとする前に各報道機関にその写真を発信させようと考えたのだろう。
ところが花子の魔力の方が強かったので自分で掛けた罠に自分で嵌ったというわけだ。
クックックッ。
本当花子と一緒だと笑いが止まらないな。
「いいんですかここで笑っていて。リーナが魔法の杖を出してあなたの異母妹に魔法を放とうとしてますよ。」
見ると何かを喚きながらブラジャーとパンティーだけを身に着けたリーナが杖を翳して花子に魔法を放った。
炎の魔法のようだ。
だが花子はそれを指一本も上げずになんなく防いでいた。
さすが私の異母妹だ。
ほれぼれするよ。
そう感心しているブラウンの横ではリーナのパートナーがあんぐりと口を開けながらこの騒動に仰天していた。
ブラウンは隣で放心している男の横を通り過ぎると何で自分が攻撃されているのかまったくわかっていない異母妹を救出に騒ぎの中心に向かった。




