21.やっと着ていくものが出来ました。
結局花子が受け取った招待状はブランの手で出席と書かれ送られてしまった。
断ろうにも招待日は何と明日だ。
今更な気がしてどうにでもなれという感じだ。
ちなみにこんなに間際に招待状が来たのはどうやらキンソン家の令嬢からの嫌がらせの一種だったんじゃないというのがお父様の推測だ。
ちなみに今までに実例はあまりないが途中入学して来た人間には普通新入生の歓迎会は免除されるそうだ。
今回これが適用されなかったのは三段階飛び級して超短期卒業をした人間だから途中入学とは違うとキンソン家の令嬢が騒いだからだそうだ。
途中は途中のような気がするが普通は途中というのは期の途中で一か月ではないからそれに当てはまらないとごねたらしい。
むしろ他の新入生と同様に扱って早く大学に慣れて貰う方がいいんじゃありませんかというリーナ嬢の鶴の一声で招待状が発送されたそうだ。
この情報は魔法学校の高等科で護衛を務めていた二人が自発的に調べて来てくれた。
まあ、これを知ったとしてもお父様の推測が正しかったと確認できただけだけどまあ敵がわかるにこしたことはない。
でもこれからどうしよう。
普通は入学して一か月間をかけ着ていくドレスを慎重に何度も魔力を練って練って作り出すようだが花子にはもうその時間がない。
作るだけなら一瞬だけど今回は魔法無効化を気にして絶対に魔法が溶けないようにしないと自分が大惨事にあう。
さてどんなドレスにしたらいいのか。
いつの間にか唸っていたようで心配したアインさんが何年か前の新入生歓迎会の様子が映し出された画像を出してくれた。
ふむふむ。
確かに綺麗にドレスを着ている女性の周りに溶けかかって水着のような姿の人間が結構映っていた。
思わずこんな画像公開していいのかと聞くとこれはどうやら異母兄が大学に入った時に出席者に配られた映像だそうだ。
なるほどそう言われてみれば画像の中央には完璧にスーツを着こなした異母兄が映っていた。
その周りにはきちんとしたドレス姿の女性が数人とほぼビキニ姿となってしまった女性がそれでも大勢異母兄を囲んでいた。
うーん流石美形だ。
モテモテだなと納得しかかって慌てて我に返った。
今はそれどころではない。
明日着ていくドレスを決めなければならない。
うーん。
この画像を見る限りどれも素敵なドレスだがすべて体型がバッチリわかるフィットタイプのドレスだ。
幾ら魔法で作るとは言えこんな体型がピッタリ出るタイプは避けたい。
ムムム・・・。
やっぱりあれしかないか。
前世スキルで言うところの着物。
あれなら丸太体型の私にもぴったりだし、前世でネットで検索した時ガイジンには受けるって言ってたものね。
幸い魔法ですでに来ている状態を作るから帯を自分で締めるとかないし着付けも関係ない。
ヨシこれにしょう。
花子は情報端末で実母の祖国である日ノ本を検索しその国にあった古来のドレスを検索した。
神社の巫女服と一緒に前世で見たことがある着物が数十点検索出来た。
一番無難なものを選んだがそれらはすべてモノクロ写真のものしかなかった。
あちゃーまずい。
これじゃ魔法で実体化させた時白黒になっちゃう。
花子はそれから部屋に籠って数時間をかけ画像修正ソフトでその着物に色を付けて行った。
出来上がったのは真夜中をだいぶ回った時間だった。
それでも最初に印刷した時より数十倍は色がついただけ豪華に出来上がった。
まあ、これでいいか。
花子は簡単にシャワーを浴びるとそのままベッドに突っ伏した。
花子。
花子。
花子。
思いっきり肩を揺さぶられ慌ててフカフカベッドから起き上がると両手を腰に置いた実母が立っていた。
「もういつまで寝てるつもり。今日は新入生の歓迎会がある日でしょ。早く食事して会場に向かわないと間に合わなくなるわよ。ブランはもう出かけたわよ。」
そうだった。
花子は慌ててベッドを出ると洋服に着替えて食事の準備が整っているテーブルに着いた。
思わず実母を見ると怪訝な顔で見返してきた。
「何?」
「えっと・・・母さんは食べたの?」
「ええ、作ろうとしたらブランに怒られたわ。使用人を一人解雇することになるけどその方がいいのかって言われた。酷いと思わない。」
「えっと、それは何というかお金持ちの義務みたいなものなんじゃない。」
「まあ、そうかもね。だからその食事はブランが雇った料理人が作ってくれたものなんだからキチンと味わって食べなさい。」
花子は心底ほっとしながらも念のため食事をそろそろと口に入れた。
何度か母の手料理を食べて記憶がふっ飛んだことがあるのでその料理が実母の手料理かどうかは一口ですぐにわかる。
最悪自分に治癒魔法をかける用意をしながら食べたが本当にこれは実母の手料理ではないようだ。
花子は安心してその料理をパクついた。
その間、実母は何かの教本を読んでいた。
ちょっと不思議に思って食べ終わってから声を掛けてみるとそれは上流階級のマナーブックだった。
「へっ、何でそんなの読んでるの?」
「ちょっと勝手に背後から忍び寄らないで頂戴。ビックリするでしょ。」
花子が何も反論せずに待っていると真っ赤になった実母がちょっと勉強しようと思ったと恥ずかしそうに弁解した。
そこに異母兄がスーツを着て入って来た。
「やあ、おはよう花子。今日の新入生歓迎会は心配いらないよ。私が一緒に出るからね。でもそろそろ出ないと間に合わなくなるから用意しておいで。それと今日はこのフィーアをよんでおいたよ。髪を結う手伝いが必要だと思って来てもらったんだ。」
異母兄の後ろから小柄な女性が現れた。
「おはようございます花子様。」
「えっとわざわざありがとうございます。」
「花子。挨拶はいいから用意をしておいで。本当に間に合わなくなるよ。」
「はい。すぐに。」
花子はフィーアと一緒に自室に入った。
「髪型はどのようになさいますか?」
「えっとそれならこの画像と同じようなの出来ますか?」
花子はそういうとフィーアに昨日色づけした印刷物を見せた。
フィーアは数分それを真剣に見て微動だにしなかったが少しすると少し硬い表情ながらもお任せ下さいと言ってくれた。
花子は今着ているものを脱いで昨日送られて来た黒いパンツだけを穿くと色づけした画像を見ながら”着物””キモノ””きもの”と三種類の文字を思い浮かべてそれに魔力を流した。
魔力がすごい渦を巻いて花子の体を覆うと画像に描かれている着物が実体化した。
「凄いです花子様。」
感嘆の眼差しで見ているフィーアがいた。
「どうかなフィーアさん。これならそう簡単に魔法が無効化にならないと思うんだけどどう思う。」
フィーアはただただ頷いていた。
少し興奮が冷めるとブラシを手に持ってから鏡の前に花子を座らせた。
「それでは僭越ながら髪を整えさせていただきます。」
フィーアは感動冷めやらぬ状態ながらもテキパキと動くと昨日花子が作った画像と寸分違わぬ日本髪を結ってくれた。
すごい!
写真と同じものなんて私でも結えないよ。
「どうもありがとうございます。フィーアさん。」
「私もこれ程素晴らしい魔法を見られて感動しております。さあ、居間でお待ちのブラウン様に自慢しに行きましょう。」
花子はフィーアさんに促されて居間で待つ異母兄のところに行った。
ドアを開けて中に入ると異母兄が目を大きく見開き驚いた表情を見せてくれた。
「これは凄いな。今まで見たこともない豪華さだな。これってどこの国のドレスなんだい?」
「えっと実母の国で昔着ていたものなんです。そう言えばこれって失礼にあたりませんか?」
うっかりそれを確認するのを忘れていた。
あの招待状にはドレスコードが書かれていた。
前世知識ではOKだけど今世の貴族社会で大丈夫かどうかを聞くのをすっかり忘れていた。
「大丈夫かって本気で聞いてるの。大丈夫に決まってるじゃないか。きっとこれを着てる花子をみたらみんなビックリするよ。」
そこに実母が入って来て目を見開いたかと思うと珍しくセバスさんに命令していた。
「セバスさん。今すぐ二人の記録画像をとって頂戴。すぐによ。」
「お任せ下さい、信子様。すでに記録しております。」
いつの間に録っていたのかセバスさんが懐から魔道具らしき小さなものを出していた。
「さすがね。」
それからすぐに出なければならないはずなのに撮影大会が始まり、もう本当に間に合わなくなるギリギリでやっと車に乗り込んだ。
後日その時の映像を見たブランが大騒ぎして、違う舞踏会に出ることになったがそれはもう少し後のことだ。




