02.驚愕で夜も眠れ・・・。
亡くなった誰が?
母が?
あの刺し殺しても死なないような頑丈な母が交通事故?
この異世界は前世と違いあらゆる交通手段は魔法で安全に制御され交通事故自体滅多に起こらない。そのめったに起こらない交通事故で母が死んだというのか?
花子が驚愕のあまりその男をジロリと睨みつけた。発言した男はその視線をさらりとかわすとさらに爆弾発言をかました。
「まあさらに詳細に説明すると交通事故という名の暗殺にあった。」
「暗殺?なんでまた?」
一体なんで母が暗殺されなければならないんだ?花子の心中を察したのかそれについては彼の横にいた執事が説明してくれた。
「あなたがルービック家の現当主であるブラン様の血を引いているからですよ。」
ブランって誰それ?
「まあここで話していてもしょうがないから私たちが泊まっているホテルに行こう。」
「ホテル?」
「ここにいてもまた暗殺者に狙われるだけだよ。」
「暗殺者!」
ちょっとちょっと本当のことなの?
花子が半信半疑でいるうちにヒュッという軽い音がしてバリンという窓ガラスを割れる音と共に室内に何かが転がった。
「ほらね。」
軽い言葉と共に室内で閃光が炸裂した。
花子は念の為に展開していた防御魔法を強くした。
体が爆風に飛ばされ地面に向かって投げ出された。
慌てて無重力状態を発動して何とか地面に叩き付けられる前にトンと地面に着地した。その横には花子と同じように地面に降り立った二人がいた。
爆風が収まってボロアパートを振り返ると二階部分がキレイに吹き飛んで一階建てになったアパートがあった。
「うそっ!」
「ああ綺麗に吹き飛んだね。相手も派手にやってくれる。でっどうする?」
問いかけながら道路に向かって歩き出した二人の後を花子は仕方なしについて行った。母が死んだかどうかは別にして帰って寝る場所がなくなったのは確かなようだ。
でも吹き飛ばしたのは私じゃないからこの責任も取らないわよ。
花子はブツブツと呟いた。
二人は花子を近くの道路に止まっていた高級車に案内した。
「さあ、乗って。」
花子の異母兄だという男は先に乗り込むと中から彼女を手招いた。
花子は防御魔法を解くことなく車に乗り込んだ。
途端防御魔法に圧力がかかる。
「へえ、凄いね。」
何が凄いのか運転手を含め車のシートに座った花子を見て周囲が目を瞠った。
「さすがブラウン様の異母妹様です。」
花子の後から彼女の横に座った執事は感心して頷いている。
何が彼らを感心させているのかわからないまま花子を乗せた車は都内某所にある高級ホテルに法定速度をらしきものを無視して向かうとその地下駐車場に文字通り滑り込んだ。
周囲を何人もの護衛に囲まれ花子は異母兄と言われるブラウンに連れられ高級ホテルのスイートルームに向かった。
スイート専用のエレベーターで最上階に着くとそのまま奥の応接室に案内された。ブラウンは慣れた様子で応接室のソファーに腰を降ろすと花子にもそこにあるソファーに座るように促された。
花子は周囲をチラッと見まわしてから諦めてそこに腰を降ろした。
「さて先程の襲撃があったことだしこれからどうするかだけど、どうしたい?私としては父に頼まれているんで君の金銭的な面での保障は・・・。」
「ちょっと待って下さい。金銭的な面での保障って何を指して言ってるんですか?」
「そのままだけど?」
小首をかしげるだけで色気がダダ漏れでクラッとくるけど何がなんだかわからない。まずは頭の整理よ。
「まず金銭的の前に先程の爆破の件について説明してください。なんで私が狙われるんですか?」
「そりゃ君が私の父と血が繋がってるからだよ。」
「だからどうしてそれで狙われなくっちゃならないんですか?」
「セバス。」
ブラウンが隣に控えていた執事に声を掛けた。執事は軽く頷くといつの間に持っていたのか数十枚の書類を花子に差し出した。
花子は目の前にある書類を手に取るとそれに目を通した。
書類の中身は花子の出生証明書だった。
それもその書類には花子が住んでいる国の言葉ではなく、帝国中央にある神殿で使われる古代文字で記されていた。
翻訳された書類もないことからこれは原文をそのまま模写したもののようだ。一枚一枚の書類の端には模写した人物のサインと赤い魔法文字で本物という朱印が押されていた。
何の嫌がらせよ。花子はニヤニヤして見ている目の前の男を軽く睨みながら翻訳魔法を発動した。こちらの世界に生まれて来て学校に通っている時に自分が前世で生きていた世界で習っていた文字がこの世界では魔方陣と同じ作用を及ぼすことが分かった時に気がついたことだった。同じ意味の言葉を頭に思い描いてそれに魔力を通せばそれを解除しない限りそれをずっと維持できる。とはいっても毎回外国語の時間や本を読むたびにこれを発動するのも面倒だったので一生懸命普段の生活に必要な文字は地道に書いて覚えた。でも今はこの書類に何が書かれているかを正確に把握する必要がある。
花子は興味津々に見やる二人の男を無視してその書類を隅から隅まで読んだ。
出生書類には確かに実父の欄に”ルービック=ブラン”と署名捺印されていた。実母の欄も山田信子になっている。その他の書類には実父が死んだ時に花子が相続する財産分与について細かく記載されていた。
「個人的に所有する家に土地に船・・・なんなのよ、これ。」
あまりに突拍子のないものの羅列に意識を飛ばしかけた。
単純に計算しても花子が一生涯かけても稼ぎ出せない額だ。
「ちょっとこれ何?これのせいなのさっきのは?」
「いえ、それではありません。あれは単なる嫌がらせです。」
「爆弾投げ込むのが嫌がらせ!上流階級ってどうなってるの?」
「あれくらいでは普通死にませんので単なる嫌がらせです。」
花子は断言されて閉口した。もうなんでこんなことになっちゃったのかな。
「でもこの書類が本当ならなんで私に金銭的な面での保障をする必要があるの?例えばその金銭的面での保障はこれを相続させないためですか?」
「花子様。それはあなたが拒否出来るものではありません。あなたが何かで死んだ場合のみ神殿に寄付されるだけでそれで何かがある訳ではないですよ。」
「それじゃ。先程のは神殿がやったって言ってる訳?」
「その紙は神聖紙で作られた書類に古代文字で記されていますので、あなたを神殿関係もしくはそれに類するものが殺害を行った場合はその書類自体が効力を失いますからそれもあり得ません。」
そうだった。ここは異世界だ。魔法が支配する世界。
「じゃあなんであんなことになったの?」
「ですから単なる嫌がらせです。」
「嫌がらせって普通あんな事されれば死ぬんじゃない?」
「まあ一般庶民なら死にますね。」
やっぱり死ぬんじゃない。
「でも花子様は我々が助けなくとも死ななかった。だから若様いえブラウン様は金銭的支援をとおっしゃられているのです。」
「じゃあその金銭的支援って具体的にどんなことをさしているの?」
花子が具体的に問えばそれは一般庶民からすれば桁外れのものだった。
唖然とし過ぎて頭痛くなってきた。
「ちょっと待って下さい。そんなのいただけません。とにかく・・・今は食事して休みたいです。料金はそっち持ちで。」
花子としても今日泊まる部屋と食事の確保はしたかった。
混乱している花子を見て二人は彼女に食事の手配とこの高級スイートに泊まれる手はずを整えてくれた。一泊分の料金を支払わないことを書類に確約して貰った後花子は持って来られた料理と爆破でアパート事吹っ飛ばされたので当面の着替えを貰って今日泊まる部屋に引き上げた。
はあぁー人生何が起きるかわからないものね。
花子は高級料理に舌鼓を打ちながらビルの屋上から見下ろせる絶景に目を瞠った。