17.魔法学校の高等科を卒業しました。
実父は暫く花子との会話を楽しんだ後、急に立ち上がるといきなりこの学校の校長室に行こうと言い出した。
「それは別にいいですけど何しに行くんですか?」
「もちろんすぐに高校を卒業するためだよ。」
「えっそれならなんでもあと三日程手続きに掛かるって連絡がありました。」
「ああそれなら僕も聞いているよ。それもあって僕がここに来たんだ。」
「はい?」
花子は訳がわからないうちに立ち上がった実父に引きずられるようにして寮を出るといつの間にか校長室の扉の前に来ていた。
校長室の前では第一回目の試験の時に監督役をしたジョリー先生が実父であるブランが校長室に入ろうとするのを立ちはだかって阻止していた。
「困ります。ここは一般生徒の父兄が来て良いところではありません。お帰り下さい。」
「君、邪魔だから退いてくれないかな。僕は花子の実父としてここにいるんだから通してほしい。」
「ですから先程から申し上げております通り一般・・・。」
カッチャン。
「何をそこで騒いでいるんだい?」
どうやら今の話し声が校長室まで聞こえたようで第二・三回の試験監督役をした金髪先生がドアを開けて出てきた。
「やあ、ゴールじゃないか。久しぶりだね。」
金髪先生はムッとした顔で花子の実父を睨み付けすぐに真っ青な表情を浮かべた。
「ルー・・・ビック家の当主がなんでここにいるんだ。」
ゴールと呼ばれた金髪先生が一緒にいる花子をチラッと見るとすぐに視線をブランに向けた。
「ま・・・まさかもう青田買いか。」
「青田買い?意味がわからないけど今日は花子の保護者としてここに来たんだ。」
「「保護者!」」
校長先生とジョリー先生が一斉に叫び周囲にいる他の生徒や先生が二人に視線を集中させた。
慌てて校長先生が二人を校長室に招き入れた。
「取り敢えず部屋に入ってくれ。ジョリー先生はお茶を持って来てくれないか。」
ブランは校長先生の招きに花子の背中に手を当ててそのまま部屋に入った。
「ほお、なかなかいい調度品を揃えているじゃないか。」
「それよりなんでルービック家の当主が一般生徒の保護者としてここに来ているんだ。」
「おいおい、落ち着けよ。さっきから説明してるだろ。僕は花子の実父としてここにいるんだ。」
「父親だと!」
「信じられないなら調べて貰って構わないよ。それより卒業証書を発行するのになんで一週間も必要なのかを説明してもらいたいな。普通試験に受かれば即日発行だろ。なんで一週間も必要なんだ。」
「そ・・・それは今まで三段階も飛び級してそれも入って一か月もたたずに卒業した人間がいなかったからだ。」
「本当かい。他に何か理由があるんじゃないか。」
ブランが何か発言するたびになんでか顔色がだんだん悪くなりながらも校長先生はそれが理由だと繰り返し説明していた。
「ふーん。そうかい。」
ブランは校長先生の蒼褪めた表情をじっくり見てからチラッと彼の執務机に置かれている端末に視線を向けた。
ブランがそこに視線を向けたちょうどその時、端末から音楽が鳴り響いた。
「ちょっと失礼。」
校長先生は執務机に置かれている端末を触って何かの文章を読むとさらに蒼褪めた。
「どうしたんだい。それより立ったままは少々疲れるんだが。」
「そ・・・そこのソファーにす・・・座って待って・・・。」
その間も彼は必死に何かの文章を読んではキーをタッチしていた。
数分立ってから諦めた顔でブランが座っているソファーの前にドサッと腰を落とした。
「本当に彼女はルービック家の人間なんだな。」
「だからさっきからそう言っている。」
ブランはソファーから立ち上がると花子を促してドアに向かった。
ドア前に行くと背後にいる校長に振り向かずに声を掛けた。
「今日中に娘はルービック家に連れて帰る。卒業書類は僕宛に魔法便で送ってくれ。後、払い込んだ授業料も一括で戻してくれ。三段階飛び級は授業無料になるんだろ。」
かちゃ。
パッタン。
ブランはそれだけ言うと隣でポカンとしている花子を連れ彼女が寝泊まりしている一般庶民の寮に戻った。
「あのーブ・・・お父様。」
自分がいつもいる空間に戻ってきてやっと冷静さを取り戻した花子は先程の二人に会話について説明を求めた。
「なんだい花子。」
「授業無料って?」
「ああ、知らなかったのかい。このままだと授業料を払うっていう約束が守れないからね。だからそのまま花子はここを出て王都にある大学に通いなさい。そうすればその大学の学費を高校の学費の代わりに出来るし、今まで通り信子とも一緒に住める。
「えっ一緒って?」
「ああ、ごめんよ。昨日彼女には婚姻書へのサインを貰ったんだ。」
「婚姻って・・・結婚したってこと!」
ブランは頬を真っ赤に染めながら頷いた。
なんとも乙女チックは姿だがおじさんがやるといくら美形でも恥ずかしい。
視線を明後日方に向け妄想している実父を咳払いで現実に戻すと花子は今回の件を母が何と言っているか聞いてみた。
「僕と一緒に花子が住むことに反対はしてないよ。」
「違います。私が大学に進学することです。」
「それならぜひそうしろと言っていたよ。信じられないならこれから信子に会いに行って直接彼女に聞けばいいんじゃない。」
「そうですね。確かにその方が早いですね。」
色々諦めた花子は実母である信子に会うため寮に戻って貴重品だけ持つとそのままブランが住んでいるビルに向かうことになった。




