16.母が生きていた!
花子が自宅待機となった翌々日。
実父であるブランが訪ねて来た。
目を丸くする花子に容赦なく迫るとブランは娘をギュッと抱きしめた。
「あのーブ・・・お父様?」
実父であるようだがなんとも現実味がなくて彼のことを名前で呼ぼうとすると抱き締めている腕に力がこもったので慌てて“お父様”と呼ぶと満面の笑みを浮かべてやっと花子を解放してくれた。
「なんだい花子。」
ブランの笑顔に硬直している花子を見かねて護衛の一人がブランにお茶を入れさっき彼女が作ったお菓子を出してくれた。
「ブラン様。こちらは先程花子様がお造りになられましたクッキーです。」
「花子が作ったクッキーだって。」
ブランは大喜びでそれを口に入れた。
感極まってクッキーを食べながら涙を流す実父を見て花子は大分引いた。
だが抱き締められるよりはいい。
なので”また作りましょうか?”と言ってしまい大声で実父に泣かれた。
暫く泣いた後、実父は懐から何かの書類を花子に差し出してきた。
花子は疑問顔でその書類に目を通した。
そこには信子の治療代と書かれた書類が信じられない日付と共に書き込まれていた。
何これ。
何なのこの金額。
新手の詐欺?
「これはなにかの偽装書類じゃないですか。」
思わず強く否定すれば実父から飛んでも発言が飛び出した。
「信子なら生きているよ。」
「母が生きている。」
そんな訳ない。
花子は神殿で母の死を確認したんだから。
「信子はね花子。魔法無効化属性を持っているんだ。」
「魔法無効化属性!」
「そうだよ。だから信子には魔法が効かないだ。」
我が母ながらなんて無茶苦茶な女なんだ。
そんな属性あるなんて初めて聞いたよ。
でもだから花子が調査魔法を発動しても彼女が生きているのが分からなかったのか。
ちょっと待ってよ。
てっいうことはこの書類に書かれている金額を支払うのって私ってこと。
真っ青になっている花子に気がついた実父がまた抱きしめてくれた。
「何を心配していて蒼褪めているか想像はつくけど大丈夫だよ。花子がこの書類にサインしてくれればここに書かれている金額を花子が払う必要がなくなる。」
実父はそう言って花子に違う書類を持って来た。
そこには花子が正式にブランの娘になるために苗字を山田からルービックに変更する承諾書があった。
思わず花子は実父を睨み付けていた。
彼は花子がすでにルービック家の苗字になっていると思わせていたのだ。
これは勘違いした花子も悪い気がするがなんだか納得がいかなかった。
行かなかったがこの書類にサインしないと花子がこの天文学的すぎる治療費用を全額支払うことになってしまう。
花子は実父からペンを受け取るとその書類にサラサラとサインした。
「良かった。これで晴れて君は僕の娘になった。」
実父は花子がサインした書類に魔力を乗せるとすぐに魔法便で提出していた。
そしてすぐに感極まった顔で花子に近づくと抱き締めた。
抱きしめられた花子だが彼女の頭の中では信子も同じようにこの治療費の天文学的数字を見てサインしてすぐさま書類を魔法便で送られる姿が鮮明に浮かんでいた。




