14.魔法無効化属性
ブランはそのまま執務室に戻らずルービック家が誇る高度医療を施す病院に向かった。
そのまま車を地下にある専用駐車場に停めるとすぐに特別病棟に向かった。
この病棟は特別棟のカードを持つものかルービック家の直系の血を持つものしか入れない造りになっていた。
「ブラン様。」
特別病棟のゲートを開くと受付の者がブランに気がついて声を掛けて来た。
「彼女は今どこにいる?」
受付にいた男は手元の端末を操作するとリハビリ室でリハビリ中だと教えてくれた。
ブランはすぐさまそこに向かった。
白い廊下の先には広い空間があってそこにはリハビリ用の訓練器具が置かれていた。
そこでは黒い髪にほっそりとした女性が平行棒に両手を掛けながら懸命に足を運ぶ姿があった。
ブランは急いでその空間の扉を開くと平行棒の先で両手を広げた。
「ブラン。」
信子は一瞬顔を嫌そうに歪めると後ろに戻ろうとして掴んでいた平行棒を掴み損ねた。
「危ない。」
ブランは慌てて駆け寄ると信子を抱き留めた。
「なんで君はいつも僕を見ると逃げようとするの?」
「条件反射よ。それよりなんでここにいるの?」
「もちろん君を迎えに来たのさ。決まっていることを聞かないでくれ。」
ブランは彼女の体をさらに強く抱きしめた。
「ブ・・・ブラン。強過ぎよ。」
「ごめん。また君がいなくなりそうで怖くなったんだ。」
ブランはそういうと抱きしていた信子を今度は抱き上げると彼女が使っている病室に向かった。
「ブラン。なんでそこにある車いすを使わないの。降ろして頂戴。」
「嫌だ。」
ブランはそういうとそのまま彼女を病室のベッドまで抱き上げて運んだ。
ベッドに彼女を降ろす。
「ねえ、ブラン。」
「なんだい。」
「花子はどうしているの?」
「ああ、あの黒髪で美しい僕たちの娘なら魔法学校の高等科を最速で卒業したよ。」
「ブ・・・ブラン。あなた何したの。まさか・・・。」
「何を勘違いしてるんだい。僕は何もやっていないよ。」
「ウソよ。あの娘が魔法を使える訳ないわ。」
「君が魔法無効化属性を持っているから彼女の魔力に気がつかなかっただけさ。」
「えっ魔法無効化属性?」
「気づかなかったのかい。だから君は何十年も僕から逃げていられたんだよ。そうでなければとっくに僕に見つかっていたさ。お陰で僕は君が死んだと思ってしまった。」
「そうだったの・・・。」
信子はまさかそんな属性を自分が持っているとは思わなかったのでブランが自分のことを邪魔に思っていてそれで殺そうとしているのだと勘違いした。
「君が勘違いした一因を排除できなかった僕が悪いんだから気にしてないよ。でも君がそんなに悪いと思っているなら今度こそ僕と結婚してほしい。」
「ブラン。重婚になるからそれは無理よ。」
「重婚にならないんならいいってこと?」
信子はブランが離婚できないのを知っていたので頷いた。
「約束だよ。」
ブランは昔のように小指をあげて来た。
信子はちょっとハニカミながら自分の小指を出すと彼の少し骨ばったでも細長い小指に自分の小指を絡めた。
ブランは彼女と小指を絡めながらいきなり口づけをしてきた。
「ブ・・・ラン。そんな約束の仕方はないわよ。」
信子が真っ赤になりながら抗議して来た。
「そうだったかな。間違っていた?」
「間違っているわ。」
彼女はブランから絡ませていた小指を離すと体を離そうとした。
それをブランはギュッと抱き寄せると今度は濃厚な舌を絡ませるキスをした。
「う・・・。ダメ・・・止めてブラン。・・・あっ・・・。」
ブランは信子とのキスを十分堪能してからやっと彼女を放した。
信子は真っ赤になってベッドに頽れた。
「少しお休み信子。」
ブランは涙目でこちらを見つめて来る愛しい人をそこに残すと気力を振り絞って病室を出た。
あれ以上彼女の傍にいたら押し倒しそうだった。
ブランは通路で大きく息を何度も吐き出すと気を取り直して先程入って来た扉に向かった。
取り敢えず執務室に戻るか。
ブランが病院の地下にある専用駐車場に戻るとそこには書類を抱えたフィーアが待っていた。
どうやら娘の花子のお蔭でマリアが動いてくれたようだ。
ブランはフィーアが持って来てくれた書類を確かめるとすぐに車で帝都の公的機関に向かうとその日のうちにそれを提出した。
明日には離婚が成立する。
その離婚証明書を持って明日信子の元を訪れよう。
ブランはそれ以後ずっと執務をしながらもアインに”その不気味な笑い顔を止めて下さい”と注意され続けた。




