12.似たもの同士
巨大なビルが立ち並ぶ帝国首都にブランが運営する会社の本社があった。
「ブラン様。魔法学校から連絡が来ております。」
ブランが執務机に向かって作業をしていると秘書であるアインが書類を手渡してきた。
珍しくそれは魔法で送られたものではなく紙の書類で書かれたものだった。
封を切り書類を読むとそこには自分の最愛の娘が魔法学校の高等科を最短時間で履修し卒業したこととその際に受けた試験内容が事細かに書かれていた。
「AAAのそれも水風火の三属性すべてを打ち負かしただと・・・。」
さすがのブランも内容に絶句した。
「どうされました、ブラン様?」
アインは珍しく書類を手に固まっている主に声をかけた。
「アイン。至急ブラウンの秘書であるセバスに連絡をとってくれ。」
「畏まりました。」
アインは一旦秘書室に戻ってから暗部用の緊急連絡魔道具を持ってくるとそれを主に手渡した。
ブランは渡された魔道具にすぐに魔力を流すと魔道具が緑色に光り出しそこから声が聞こえた。
「いかがなさいましたか?」
「セバスか。花子が高等科を最速で卒業したとこちらに書類が届いたんだが知っているか。」
「はい。さすがブラン様の血を引くお方。セバスはうれしゅうございます。それどころかあのキンソン家のご令嬢と決闘をしてあのものを一瞬で倒したと先程連絡が入りました。」
「なんだって。まさかキンソン家の令嬢を殺ったのか。」
「いえ、残念ながら気絶させただけの用です。情けは無用なのにお優しい方です。」
ブランの耳にはめったに他人を褒めないセバスからの聞きなれない言葉を聞いて唖然としたがすぐに気を取り直して魔法学校から届いた書類内容に間違えがないことを確認して通信を切った。
我が娘ながら規格外過ぎて信じられない。
だが事実は事実だ。
ブランは立ち上がると執務室から見えるビルに目を向けた。
このビルの向かいにはルービック家が誇る高度医療を施す病院があった。
「そろそろ頃合いか。」
「ブラン様?」
ブランはポツリとひとり言を呟くとアインに実母であるマリアに会いに行くから後は頼むというと部屋を出て行った。
「ブラン様。どちらまで?」
ドライが珍しく昼間に出かけようとする当主に車のドアを開けると声をかけた。
「実母の家に行く。」
一瞬目を見開いてからすぐに我に返ったドライは当主が乗った車のドアを閉めると運転席に座った。車はすぐにブランの実母が住んでいる帝都中心から少し離れた所にある屋敷に向かった。
ここから数十分の距離にあるその屋敷は壮麗な白亜の建物で”白の宮殿”と呼ばれていた。
周囲を複数の結界に守られ強固な護衛が二十四時間体制で警護している。
ブランはその屋敷の正門に数十年ぶりに車を止めると中からドライの妹であるフィーアが出て来てブランを出迎えてくれた。
「ブラン様。お久しぶりです。」
「ああ、実母はいるかい?」
「はい。居間におられます。」
ブランはフィーアに案内され数十年ぶりに実家に足を踏み入れた。
金で縁取りされた壮麗な廊下を幾つも通り過ぎた先に実母が待つ居間が見えてきた。
「こちらです。」
フィーアが開けた扉の先には金色の髪を結い上げた熟女がソファーに座っていた。
「アラ何年振りかしらブラン。今日は何かあったかしら。」
「お元気そうで何よりです。」
ブランはそう嫌味をいうと実母が差し出してきた手に口づけるとすぐに彼女より遠くのソファーに腰を降ろした。
ここまで案内して来たフィーアに出されたカップを手に取ると口治しにそれを一口飲んだ。
「それで今日はどうしたの?」
ブランは何も言わずに先程魔法学校から送られて来た書類を実母に渡した。
実母はその出された書類を読むと美しい顔に皺を寄せた。
「でっ何が言いたいのかしら?」
ブランは無言でもう一枚の書類を実母に渡した。
その書類にはすでにブランの名が書かれていた。
「これを私にどうしろというの。」
「それにアンジェリーナの署名を貰いたい。」
「それならあなたが直接行くべきでしょう。」
「彼女の興味は自分の息子がルービック家の当主になることだ。それを認めるかどうかの権限は僕にはないですよ。」
「だからなんだっていうの。」
「超最短で難関の魔法学校を卒業した人物はまだ本当に僕の娘にはなっていないんです。花子には旧姓を名乗っていると思い込ませましたが彼女の苗字は山田のままで、僕は単なる彼女の遺伝子提供者にすぎない。あなたのせいで・・・。」
ブランは実母に鋭い一瞥を投げた。
「それは私のせいじゃないわ。」
「僕は兄二人が亡くなってからあなたの言われるまま何十年も従って来た。その結果がこれですよ。」
「何がいいたいの!」
「魔法の出来だけで言えばブラウンより信子が生んだ花子の方が上です。」
「な・・・。」
ブランはそれだけ言うと席を立った。
「待ちなさい!」
ブランは実母に背中を向けたまま言い放った。
「まだそこには書かれていませんが僕の血を引く花子はキンソン家の令嬢を一瞬にして倒したそうですよ。」
実母が満足げな様子で聞いて来た。
「殺したのね。」
「彼女は庶民ですよ。そんなことが出来る訳ないじゃないですか。」
ブランは捨て台詞を残して居間を後にした。
「お待ちください。ブラン様。」
背後からフィーアが駆けて来た。
ブランは待っていた車に乗り込む寸前に”実母からの書類は直接僕に持って来てくれ”と言い残すと待たせていた車に乗って去っていった。
フィーアはお互い頑固者同士の親子に溜息を吐くと居間で憤っているだろう主人の元に向かった。




