11.進級試験ー第三回(火)
花子はスキップしながら飛ぶように寮に戻ると早速食事の支度にとりかかった。
今日は二回目の試験に受かったばかりでなく授業免除もして貰えた。
これなら食事を終えた後読み残していた本もすべて読めるし明日の試験を無事終えれば、三学年スキップも出来て高等科も卒業できる。
もうここで読みたい本もないし、あの退屈な授業ともおさらばだ。
ヒャッフォー。
今日は良いこと尽くめだ。
最高!
花子は自分で作った料理を食べると読み残した本を持って部屋に戻った。
それをベッドわきの棚に乗せる。
パッフン。
花子は制服のままベッドにダイブした。
ウーン。
良い匂い。
ふかふか。
疲れているはずがないのに何でかベッドに入った瞬間に瞼が落ちて来た。
花子はその後読み残した本を読むこともなく朝まで爆睡した。
花子さま。
花子サマ。
花子様。
誰かに肩を揺さぶられた。
いやイヤ瞼を開いて起き上がると目の前にめったに姿を現さない花子の専属護衛が傍にいた。
「あのーもう間もなく試験の時間になります。」
遠慮がちに教えてくれた。
ハッとして壁に掛けられている時計を見るとギリギリの時間だ。
慌ててシャワーを浴び、予備の制服に着替えて寮を飛び出そうとすると目の前に先程とは違う護衛の一人が現れて何かを手渡された。
「これは?」
「僭越ながら護衛用の簡易栄養補給剤です。あまりおいしくはないのですが栄養補給になりますので良ければお召し上がりください。」
花子は渡された3錠の錠剤を飲み込んだ。
なんとも言えない味が口の中に広がるが確かに今まで空いていたはずのお腹に満腹感が広がっていく。
花子はにっこり笑顔で護衛にお礼を言うとそのまま昨日試験が行われた訓練場に向かった。
すでにそこには監督役の金髪先生が昨日と同じ装置を傍に置いて立っていた。
「おはようございます。」
「おはよう。体調はどうかね?」
花子は元気いっぱいに問題ないとこたえた。
なぜかその花子の返答を聞いた監督役の金髪先生は顔を若干引き攣らせながら昨日と同じように進級試験の内容を話し出した。
「今日が最後の試験だが試験内容は昨日君が使って見せた火属性の魔法を使う。今からこの装置で発生させる炎の魔法を昨日と同じように消滅させることが出来れば合格だ。では始めるが問題ないかね。」
「はい。お願いします。」
花子は息を吐き出すと昨日あの装置から吐き出されたのと同じ威力の土魔法をイメージした。
それと同時に装置からも昨日花子が消滅させた火魔法より弱い炎が出現した。
ジリジリとした熱が周囲に広がっていく。
熱さで額に汗が滴って来る。
昨日自分が放った魔法より弱いとは言え、気を抜くとこちらがやられてしまう。
花子は土魔法を大きく展開して出された炎を包み込むとその周囲を水魔法で覆った。
これで酸素がなくなり火魔法は消滅するはずだ。
数十分後、花子が放った土魔法の中で蠢いていた火魔法の気配が消えた。
監督役の金髪先生が目を瞠った後、厳かに花子の三回目の試験合格を宣言してくれた。
「おめでとう。これですべての試験に合格した君は無事卒業だ。」
「ありがとうごさいます。先生。」
花子は監督役の金髪先生にお礼を言うと寮に引き返そうとして後ろから声を掛けられた。
「卒業証書はこの場ですぐに渡すべきだがこちらも用意があるのでそれは一週間後になる。本日は寮で疲れを癒し明日は授業に出てほしい。その後は寮で自習するなり授業に出るなり君に任そう。卒業証書の用意が出来次第連絡する。」
「分かりました。」
花子は明日は授業に出なければいけないと言われかなりガックリしながらも訓練場から寮に戻った。
寮に入ると護衛二人が目の前に現れ、お祝いを言われた。
「「おめでとうございます!」」
「ありがとう。」
「それにしても素晴らしいです。この短期間で魔法学校を卒業したなんて前代未聞いえ快挙です。」
「そうなの?」
「「はい、もちろんです。」」
二人の護衛に大いに褒められ嬉しくなった花子はそれから冷蔵庫にあった材料で豪勢な料理を作った。
護衛の二人は最初遠慮していたがお祝いということで交代で花子の食事に付き合ってくれた。
久しぶりに自分以外の人間と一緒に食事をした花子はいい気分で食事を終えると読み残した本を読むために部屋に戻った。
やっと続きが読める。
花子はシャワーを浴びて部屋着に着替えると読み残した本を開いて読書に勤しんだ。
本を手に没頭して読んでいるうちにいつの間にかそれを読み終えるた花子はその場で眠ってしまった。
ウーン。
眩しい光に手を顔の上にして光を遮った。
ふと壁に掛けられている時計を見るともう起きないと授業に間に合わなくなる時間だった。
あの退屈な授業に出るとかありえないが行かないわけにもいかない。
花子はベッドから起き上がると制服に着替えて適当に食事を終えると校舎に向かった。
本当はまだベッドに寝ていたいがそうもいかない。
なんともイヤな気分な所に行きたくない校舎が見えてきた。
今日一日の辛抱だ。
花子は気合を入れてから校舎に足を踏み入れた。
そのまま階段を上がり教室に向かう。
花子が教室の扉を開けて部屋に入るとなんでか教室にいたすべて人間の視線が向けられた。
しまった。
授業始まるまで光学迷彩魔法でも発動しとくんだった。
今更遅いか。
花子は諦めて自分が魔法で作り出した席に着いた。
花子が席に着くとまた肩を掴んで話しかけてくる令嬢がいた。
「ちょっと庶民。なんで私に挨拶もなくそこの席に座っているんですの。」
挨拶もなくって言われてもねぇー。
なんとも面倒な令嬢だ。
花子は立ち上がると彼女に”おはようございます。”と一応礼をするとまた席に座った。
「ちょっとなんですの今の挨拶は?」
何と言われても他にどうしろと?
花子がまた彼女に突っかかってくる令嬢に視線を向けるといきなり彼女に杖を突き付けられた。
「あなたの態度には問題が有り過ぎます。決闘です。」
よくわからないながらも目の前に杖を突き付けられ”決闘なる”ものをしろと強制させられた。
さてどうしたものか思案しているとちょうどよく授業開始の鐘が鳴って一番最初に花子が試験を受けた時の監督役だった女性が本を片手に教室に入って来た。
「そこの二人何を騒いでいるのですか。座りなさい。」
教室中がざわざわとして静まらない。
「何を騒いでいるのですか。いいから座りなさい。」
「ジョリー先生。お言葉ですが私は今この山田に”決闘”を申し込んでいるのです。貴族の掟ですから先生にもこれは止められませんわ。さあ、これから訓練場に行きますわよ。」
「お待ち・・・。」
ジョリーは”決闘だと”騒ぐ生徒を止めようとして考えた。
この目の前にいる生徒のお蔭で彼女は憧れである校長先生から怒られたのだ。
彼女は確か貴族でも名家であるキンソン家のご令嬢だ。
万が一でも傷がつけば庶民である山田花子の人生はここで終わりだ。
それはそれでいいかもしれない。
ジョリーは内心ほくそ笑んでこの決闘を渋々許可した。
「そこまであなたが言うなら許可しましょう。ただし相手を殺すことは許可できません。わかっていますね。」
「もちろんです。」
今の忠告は決闘を申し込んだキンソン家の令嬢ではなく花子の魔力を知っているジョリーからの忠告だった。
さすがに相手を殺すようなことがあればこちらの監督不行き届きになってしまう。
「わかりました。」
ジョリーがそんなことを試案しているうちにキンソン家の令嬢は元気に返事をするとすぐに花子を引きずって訓練場に向かった。
他の生徒も二人の決闘に興味津々の為ついて来た。
二人はジョリーの合図に訓練場の中央に立つとお互い向かい合った。
ジョリー先生のスタートの合図に二人の魔法が炸裂した。
キンソン家の令嬢は水魔法を放った。
それに対して花子は眩いばかりの光の塊を頭上に放つとその光から轟音が轟いた。
一瞬訓練場が光に満たされ、全員の視力が戻った時にはキンソン家の令嬢が花子の前に倒れていた。
「キンソンさん?」
ジョリーが慌てて彼女に駆け寄った。
脈を測ってみると弱々しいながらも脈があってホッとした。
今のは一体なんの魔法だったのだろう。
ジョリーが首を傾げている所にこの騒ぎを聞きつけた校長が訓練場に現れた。
「これは何の騒ぎだ。」
金髪の校長先生がジョリーに詰め寄った。
ジョリーはまたもや校長先生に謝罪すると彼にぼそりと呟かれた。
「また君か。」
小さな声で呟かれた言葉だったがこれを聞いたジョリーは物凄く落ち込んだ。
結局キンソン家の令嬢に怪我がなかったが反省の為花子は今日一日寮で謹慎することになった。
ある意味公にサボれてちょっとラッキーだと心の中で呟いた。